第十八話 君の悪夢が始まる
――最上さんの少し前の話――
私が彼を断る前までは、友達として仲がとてもよかった。学校の帰り道でも、私のそばには常に彼がいた。
「咲良ちゃんとずっと遊びたいなー」
当時の私は、彼のアプローチに気づかなかった。
「私、家が厳しいから遊べる時間が少ないけど、これからも遊ぼうね」
「そ、そうだな。指切りする?」
「指切りの内容はなあに?」
少年は「うーん」と深く考え込む。
そして可愛らしく、私に呪いの言葉を吐く――。
「これからもずっと遊ぼ! 約束やぶったら、お互いに相手を『敵』として殺しあおう!」
中学の男の子って殺すとか、敵とか、そういう言葉が好きなんだね。とうぜんそのときの私も、彼も冗談だとわかっていた。
彼と小指を繋ぎ合わせ、小さな約束を結ぶ。
――泉千里の現在――
「川口? なんでおまえがここに」
人通りの多い信号の下で、俺と彼は見つめ合う。
「謝罪さ、本来なら僕と彼女だけの問題で、それのせいで君の最愛な人がいなくなるから」
「なにを言って……」
やっぱり、川口は変わらず目だけ笑っていない笑顔をしてやがる。
「そんな顔しないでくれよ」
「なんの用だよ」
「――最上咲良。君の最愛の人でしょ」
ごくりとつばを飲む。最愛か、最上さん。
「最上さんがどうしたのだ? いなくなるってなに」
「あら、言われてないのか。じゃあ言わない方がいいね。三月九日までに、彼女と精一杯、遊んでね」
また三月九日。最上さんのノートにも出てきた。
「どういうこと? 三月九日って」
「教えないよ。でも、彼女は君との出会いのせいでそれが訪れるんだ。じゃ、またな」
川口は背を向けて、手をあげる。俺にさよならのポーズをし、俺はボーッと口を開いたまま動きが止まる。
「最上さん……」
なにか不穏な感じのせいで体が震え、俺はある場所に向かって走り出す。
最上さんの両親。もし川口が最上さんに手を出すとしたら、彼らに伝えた方が良いはず!
いざ最上さんの家の前につく。
「ふぅー」
やっぱり迷う。彼女の両親は俺のことが嫌いだし、ここに入る勇気がない。
でも――。
コンコン、と俺は扉をノックする。最上さんに不確かな不幸が降るくらいなら、俺がはっきり怒られるほうがいい。
カチャ。扉が開く。俺を迎えたのは最上さん本人だ。
「千里くん? どうしたの?」
この件……最上さんに伝えた方がいいのかな。でも彼女も三月九日のことについて知っている。
「白井いますか? もしくは、最上さんの両親」
「白井はうちにいないよ。私の親は買い物に行ったの。そろそろ帰ってくるけど」
迷った末に、俺は彼女の両親に伝えることにした。どっちにしろ親が知ったほうがいいし。
最上さんと話していると、背後からトントンと足音が伝わる。
「おい! アンタまた来たのね、散々うちにきて」
最上さんの母だ! もう怒られてもいいから、川口のことを話そ。
「最上さんの母さん! あの、お話があります!」
「なんでしょう? 私は君とお話はしたくないけどよ」
「あの、最上さんが危ないです! 最上さんになにかしようとしている人が……」
焦ってうまく話せない、言葉を忘れたみたい。それに最上さんの母の目がどんどん鋭くなってにらんでくる。
「アンタ、頭も狂ってるわけ?」
「ほんとうに……信じてください」
すると最上さんの父はギュッと俺の手首をつかみ、家から離れる。
「おまえ、いい加減にしろ」
「い、いたい!!」
手首の骨が圧迫されて、痛みが走る。
最後に、あのことを言わないと、でも彼女はすでに家の中に入っていた。
「次来たら、警察呼ぶぞ」
と言い、最上さんの父も帰った。
俺はポイッと彼女の家の外に、捨てられたように置かれる。
「最上、さん……!」
スマホ! スマホなら連絡が取れるはず。
『最上さん! 伝えたいことがあります』
――ユーザーアカウントが削除されました。
最上さんのアイコンが黒く塗りつぶされ、メールが届かない。
「うそ、だろ」
間違いなく、たいへん恐ろしいなにかが最上さんに近づいている。




