第十六話 君と公園
「で、ででで……でしょ! かわいいでしょ。まあ、この最上咲良だもんね!」
俺に褒められた最上さんは、目線を逸らし、両手を後ろに置く。微かに頬がバラ色に染まっている。
「…………」
「そんな呆れた顔しないでよ。ありがとう、うれしいよ! 千里くんにかわいいって言われるの!」
「俺、かわいいとは言ってませんよ! 素敵だなーって」
「そ、そっかー……」
彼女は頭を低くして、言葉を忘れたかのように黙り込んてしまった。なんで俺はそんなにバカなんだよ! 最上さん、かわいそう。
「も、最上さん、行きましょうか」
「うん……ついてきて」
駅から徒歩数十分。
人通りの多い道を抜けて、ある公園の前についた。松の木が生えていて、俺たちは公園のベンチに座る。
しかしここに遊ぶ人は見当たらない、通り抜ける人もほぼ見えない。
「ここはね、私がいつも心を落ち着かせるときに来てるんだ」
「へー。あんまり人がいないのですね」
「そうそう! 昔はね、ここで自殺する人がいたから、もしかして幽霊が出てくるかもよ!!」
と言い、最上さんは両手をだらんと前に出し、おばけの真似をする。
「ちょ、怖いこと言わないでくださいよ」
「へへ。じょーだん」
まったく、最上さんの行動を読むのって不可能じゃん。あっ、そうだ。今日作った弁当、渡すか。
「最上さん、これ。食べてみてほしいです……」
初めての贈り物だから、心がドキドキして手が凍っている。俺は弁当箱をそっと最上さんの手に渡す。
「千里くんがつくってくれたの??」
「はい……口に合うかはわからないけど、笑ってくれたらうれしいです」
「もー! 千里くんのために、いくらだって笑ってる姿見せるよー」
最上さんの目が光り、弁当箱をひらく。卵焼きに、野菜と豚肉の炒め。そしてご飯。このお嬢様は気に入ってくれるかな。
「いただきます!」
俺はじっと最上さんが、箸で野菜を口に入れる瞬間を見続けた。
一瞬、間が生まれる。
「おいひー! 千里くんって料理のセンスがあったんだね。私、すっごく幸せだよ」
はあ、と俺は息を吐く。笑ってくれたし、褒めてくれた。
俺がまだ喜びの余韻に浸っているときに、突然、沈黙が続く。
すると最上さんがポロッとささやく。
「これからも千里くんの料理が食べれたらいいのにな……」
最上さんの笑顔が固まる。家の影響か……球技大会後、転校してしまうのか原因か。
「最上さん、ごめんなさい」
「なんで謝るの?」
「俺、君を傷つけないって約束したのに……嫌な思いをさせてしまって」
いいや……せっかくの明るい空気だったし、壊さないでおくか。
「千里くんはなにも悪くない。私の両親も、私のために思ってて悪くない」
最上さんは話すのを止めた。
「最上さん?」
彼女の目からポロポロと涙がこぼれる。最上さんを慰めたいのに、俺も悲しくなり、言葉が出てこない。
「ごめんね、私、お手洗い行ってくる」
「はい……」
最上さんは手持ちのカバンだけベンチに残し、小走りでこの場から離れた。
俺がなにかすればいいのに……でも、なにもできない。
「…………」
最上さんのカバン、チャックが開いている。一冊のノートがノートからはみ出していた。
俺はノートを中に入れようとしたが、チラッと表紙にある文字に目が留まる。
『彼氏くん(千里くん)とやりたいこと』




