第十三話 球技大会 その三
――最上さんの少し前の話――
「好きです……付き合ってください」
私が初めて告白されたとき、それは中学三年の最後の日だった。その人は私と仲がよかった友達で、同じ高校に通う予定でいる。
「私のこと、好きなんだ……」
「そうです……咲良ちゃんはいつも僕に笑顔を見せて、すごくうれしい。咲良ちゃん、かわいいし」
かわいいというセリフは何度か耳にしたことがある。クラスメイトだったり、親友だったり。
しかし家の事情もありながら、彼は私の心を揺さぶることができなかった。
「ごめん、私はこの関係を、友達のままでいたかったの」
そう言った後、私は見たことのない失望の目が彼から見えた。瞳孔が震えていて、少しだけ潤っていた。
「な、なんで……」
彼とは小学のときから関わり……幼馴染と言えるほど仲が深かった。だから恋人になっても、おかしくない関係だという気はしていた。
「ごめんね、ごめん」
「わかった……邪魔してごめんなさい。高校、がんばってね。もう話せるチャンスがあるのか、わからないけど」
彼は私に背を向けて、一歩ずつ足を動かす。家から交友関係が制限されていた私に、この親友を失うのが怖かった。
「私たち、またカフェに行けるよね?」
「…………」
彼の足跡をたどって、一歩近づけようとする。
しかし彼は顔を向けてくれずに、つぶやくように話す。
「咲良ちゃん……ありがとう、あの雨天の日にカフェで君に出会ってくれて」
その日以降、私たちは同じ高校に進学したのにも関わらず、二度と会えなかった――。
――球技大会二日目、クラス対抗サッカー――。
「おっはー! 泉」
「おはよう」
「あれ? 泉、今日元気ないの?」
白井の目は俺のことを見つめ、心配そうに声をかけた。
「白井って昨日、最上さんちにいた?」
「ううん。昨日は実家にいたよ。どうしたの?」
「いいや、今日のサッカーがんばろう」
白井もなんとなく察し、はあ、と息を吐く。最上さんのことが心配で仕方がない。無事であればいいのに。
「白井くん、泉くん。久しぶり」
なつかしい男の声が聞こえた。後ろに振り向くと、俺より頭一個分も背が高い男が立っていた。
五官が整っていて、清潔感のある綺麗な制服……彼は俺たちと同じクラスの人だ。たしか名前は川口宗治。
しかし入学して数ヶ月後に不登校になり、今日久しぶりに再会した。
白井はこの男を見て、思わず笑顔が現れる。
「川口! 今日、学校来たんだね」
「うん、先生と相談して、今日の球技大会に参加することにしたんだ」
川口とはよくテストの点数で勝負していたな。国語はこの俺でも負けていた。ともかく彼が復活したのはうれしいことだ。
いざ球技大会の試合がやってきた。四十人のクラスは前後半で二十人ずつにわかれ、九人がベンチか審判を担っている。
それに観客席にはたくさんの保護者がいて、会いたくなかった最上さんの両親も観戦していた。
チームの作戦だと、前半に弱い人を置き、後半で巻き返すらしい。
まあ、後半に置かれるのを期待してた。でもスポーツがだめな俺は前半に置かれ、フォワードの位置につくことになった。
初戦は――四組。同じく前半に最上さんの姿が見えた。昨日のせいか、彼女はいつもの笑みが顔についていない。
「泉、がんばろ」
「ああ、川口」
同じフォワードの川口の肩を叩き、「ファイト」と返した。
しかし俺は目線を再び最上さんに移すと――。
「最上さん……!?」
彼女はじっと俺のほうを見つめ、目を大きく開いていた。




