第十二話 球技大会 その二
「最上さん……」
試合中なのに、俺は彼女の名を口から漏らした。しかしボールを持った敵は、すばやいドリブルで俺を抜いた。
ステップを踏むように俺や味方のディフェンスを通り抜け、シュートを決めた。
テレビで見るような動きに、俺は思わずつぶやく。
「あいつ、強いなー」
「どんまい、泉。切り替えよ」
チームの仲間がトントン、と俺の肩を叩く。それに最上さんが応援してくれている。
「わかった」
※
久しぶりに動いた。
頭の戦略と体の動きを使ったけど、やっぱり負けた。運動していない俺はスポーツ向いてないな。
「泉、おつかれ。ナイスパスだったよ」
「ありがとう」
チームのみんなで最後のハイタッチを行った。
試合後、俺は一人で教室に戻り、席に座った。
疲れたなー。みんなは外で別競技の応援をしているのか。だれもいないから静かだな。
十分疲れたし、精一杯やったけど、スポーツって楽しい。
ヒヤッ。
「!?」
俺の頬から冷たい感覚が広がる。
「だーれでしょう」
耳元から清らかな少女の声が伝わる。
「最上さん……!」
「バスケ、下手だったじゃん。応援してたのになー」
最上さん冷えた缶ジュースを俺の頬に当てていた。彼女はわざとらしく「ふん」と頬を膨らませる。
「ほら、飲んでよ。私の奢りー」
俺は最上さんの手からメロンソーダを受け取った。缶に水滴があって、運動後の熱を和らげてくれる。
「ありがとうございます」
「明日の球技大会……家族観戦もあって、私の両親が来るかも」
明日って……うちの高校の球技大会ならではの目玉種目――クラス対抗サッカーじゃん!
男女問わず、みんなでワンチームとして、他クラスと戦う。
「千里くんが私の両親に会いたくなかったら……保護者席から少し離れててね」
「学校行事ですし、そんな厳しいことはないのでは……」
「まあそうだね! 明日は私たちの会話が少なくなっちゃうけどね。じゃあ私はクラスに戻るよ」
「はい」
一日目の球技大会が終わり、みんなは笑ったり泣いたりしていた。楽しかったし、最上さんの応援も心に刻んだ。
夕日に照らされる帰り道、俺は最上さんと一緒に歩く。
無理やりデートを連れ出されたときよりも、緊張がなくなったし、不快がなくなっている。
「千里くんと帰れて、よかったなー」
「な、なんで?」
「彼氏に言いたいセリフ第二位ぐらいかな。普段の細やかな空気が好きなんだよね」
ここまで来たら一位を知りたくなってしまった。まあ、いいや。いずれ最上さんに言われるだろう。
しかし悠々と歩く時間はまばたく間に終わる。
ある曲がり道で俺はここ最近、最も会いたくない人が目に映る――。
最上さんは俺よりも先に、声をあげた。
「母さん、父さん!?」
うそだろ……なんでいるんだ。しかし最上さんの母の頬が赤く染まり、俺に怒鳴った。
「アンタ! 忠告したはずだよね、それにそんな距離を詰めて歩くなんて」
「それは……」
俺はなんとかして最上さんのためにも、言い返したかった。でも、体が震える、声を出せない。
「もういいわ、アンタがそんなにしつこいのなら――明日の球技大会後、咲良を転校させるわ。多少の手間がかかるけど、うちの娘を汚すわけにはいかないわよ」
「母さん、それはやめてよ!」
最上さんの父は、彼女の手首をつかむ。
最上さんを連れて、この場から離れる。俺は最後まで最上さんの絶望の目を見ていた。
最上さんを、傷つかせないって約束したのに。
――とあるやつの視点――
「くそ、なんで咲良ちゃんは俺と付き合いたくないんだ?」
ある男は机を叩き、歯を食いしばって怒りを発散している。
「得られなければ、明日の球技大会で……」




