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第7話



「『ミアちゃん生きてたか!』って、失礼な! ちゃんと生きてるよ、拍手ありがとね。うん、まだ頑張れる!


えっと、今日は軽く雑談。足とか咳とかあと……色々治りきってなくてさ。

『いいから休め』ってコメント多いね。ありがとう。でも止まるのって怖いんだよね。この世界で、一緒に笑ってる時間が途切れると、一気に何もかもどうでもよくなりそうで……あ、ごめん、ちょっと重い? ゴホッ……


そう、この世界、正直辛いこといっぱいあるよね。あった。

でもさ、そういうことから逃げるのも悪くないよ。 

逃げるから、狂った世界で狂わずにいられると思うんだよね。

バカやってるときは、暗い現実を忘れられるじゃん?そのあいだにエネルギーが、ちょっと復活するじゃん?だったら、少し寄り道して、ふざけた時間作ったりするのもアリだよね。この配信みたいに。

『バカみたい』が、本当にバカになんないために大事なんだと思うな。


人には、逃げながら立ち向かう方法があると思うんだよね。

あたしはみんなと一緒に逃げれる『ここ』があるから、また戦おうって気になれるんだよね…………あー、これあんまり正面から言うもんじゃないのかもね。まあいっか! ……ゴホッ……

――じゃあ今日はそんなに長く喋れないから、このへんで。

……え、何そのチャット。照れること言うなって。あはは。ありがとう。

みんなも生きろよ! ばいみあ~~!」



次の日中は瓦礫の影でやり過ごした。耳にこびりついたドローンの羽音が、浅い眠りの中でもずっと響いていた。

夜になってから、私たちは廃墟や更地や山火事のあとの中をひたすら移動し続けた。


幸い、隊列型のドローン巡回はうまく回避できたが、一度だけ無人戦車とニアミスする場面があった。遠くに見えた巨大な立方体は、粘土みたいに乗用車を潰しながらキャタピラ音を響かせていた。ひどく震える私を覆うように地を這った先輩の身体も、震えていた。


焼けこげた建物のかわりに、焼けこげた木々が目立ちはじめた。

ときどき先輩がタブレットを起動するが、四方八方から危険が迫る状況ではチラ見するだけだ。バッテリー残量も少なくなっている。私たちは頭の中に入れたマップと方位磁針を信じることにした。

「うし、ここから先は崩落地帯だな。これ越えれば目標のツクバ郊外に出るはずだ」

先輩が肩で息をしながら確認した。私たちは桃缶の残りを食べ、糖分を補給した。

瓦礫だらけの道とは呼べない道を、黙々と歩き続ける。

私は先輩の指先をそっと握ってみた。一瞬驚いた先輩が、うつむいて指を握り直した。


やがて、タブレットから顔を上げた先輩が、私を見てうなずいた。

灰色からにじむ朝日が、目的の廃屋を照らしていた。



「こんにみあ〜!…………コメント、いっぱいありがとう。あとで全部読む。今日は声だけね……まあこういう日もあるってことでっ、…………ガッ、ゴホッ、う、ううう………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」「ミアさん!!!!!!!」

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