第7話
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「『ミアちゃん生きてたか!』って、失礼な! ちゃんと生きてるよ、拍手ありがとね。うん、まだ頑張れる!
えっと、今日は軽く雑談。足とか咳とかあと……色々治りきってなくてさ。
『いいから休め』ってコメント多いね。ありがとう。でも止まるのって怖いんだよね。この世界で、一緒に笑ってる時間が途切れると、一気に何もかもどうでもよくなりそうで……あ、ごめん、ちょっと重い? ゴホッ……
そう、この世界、正直辛いこといっぱいあるよね。あった。
でもさ、そういうことから逃げるのも悪くないよ。
逃げるから、狂った世界で狂わずにいられると思うんだよね。
バカやってるときは、暗い現実を忘れられるじゃん?そのあいだにエネルギーが、ちょっと復活するじゃん?だったら、少し寄り道して、ふざけた時間作ったりするのもアリだよね。この配信みたいに。
『バカみたい』が、本当にバカになんないために大事なんだと思うな。
人には、逃げながら立ち向かう方法があると思うんだよね。
あたしはみんなと一緒に逃げれる『ここ』があるから、また戦おうって気になれるんだよね…………あー、これあんまり正面から言うもんじゃないのかもね。まあいっか! ……ゴホッ……
――じゃあ今日はそんなに長く喋れないから、このへんで。
……え、何そのチャット。照れること言うなって。あはは。ありがとう。
みんなも生きろよ! ばいみあ~~!」
◇
次の日中は瓦礫の影でやり過ごした。耳にこびりついたドローンの羽音が、浅い眠りの中でもずっと響いていた。
夜になってから、私たちは廃墟や更地や山火事のあとの中をひたすら移動し続けた。
幸い、隊列型のドローン巡回はうまく回避できたが、一度だけ無人戦車とニアミスする場面があった。遠くに見えた巨大な立方体は、粘土みたいに乗用車を潰しながらキャタピラ音を響かせていた。ひどく震える私を覆うように地を這った先輩の身体も、震えていた。
焼けこげた建物のかわりに、焼けこげた木々が目立ちはじめた。
ときどき先輩がタブレットを起動するが、四方八方から危険が迫る状況ではチラ見するだけだ。バッテリー残量も少なくなっている。私たちは頭の中に入れたマップと方位磁針を信じることにした。
「うし、ここから先は崩落地帯だな。これ越えれば目標のツクバ郊外に出るはずだ」
先輩が肩で息をしながら確認した。私たちは桃缶の残りを食べ、糖分を補給した。
瓦礫だらけの道とは呼べない道を、黙々と歩き続ける。
私は先輩の指先をそっと握ってみた。一瞬驚いた先輩が、うつむいて指を握り直した。
やがて、タブレットから顔を上げた先輩が、私を見てうなずいた。
灰色からにじむ朝日が、目的の廃屋を照らしていた。
◇
「こんにみあ〜!…………コメント、いっぱいありがとう。あとで全部読む。今日は声だけね……まあこういう日もあるってことでっ、…………ガッ、ゴホッ、う、ううう………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」「ミアさん!!!!!!!」