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第5話



「次のチャットは……え、『薬渡したい』? 

……でもここがどこか分からんしなあ。あはは。ありがとう…………気持ちだけで嬉しいよ。

いい子はあんまり遠くまで出歩かないように! お姉さんとの約束だ。

――今日は短くてごめんね、チャンネル登録・高評価よろみあー!」



とにかく、やれることをやるしかない。

私は、配信アーカイブを見直した。横断歩道とかタイルとかグラフィティとかドローンの羽音とか自然音とか『ヒント』らしきものを紙に書き出す。そこに、『遠征』で見た情報も加える。

先輩は、全然手伝ってくれなかった。顔合わせづらいのか、どこかに引きこもったままだ。いい歳して子供なのだ。あのくそナード。

それでも私は、数少ない手がかりを、関係性や時系列で並べて仮説を組み立てていった。

ようやく、ミアいそうな場所が、タカサキ市を中心とした半径50kmほどに絞られてきた。

だが、それは夜を数十日使っても回りきれない広さだった。

決め手が足りない。早くしないと。

頭が知恵熱でふらふらする。ろくに学校教育を受けられなかったこの頭脳ではもう限界だ。

すげー悔しいが、奴に頼むしかない。


先輩を探してシェルターを進んでいたら、ばーん!という爆発音が配電室の奥からした。

のぞいてみると、なんと先輩がドローンの残骸らしきものをいじっている。

「ちょっ!! 先輩、なにしてるんですか!?」

「ちっ、もう来たのか……まぁいい、ちょうどわかったとこだ」

先輩は、ドローンから抜き取ったらしいメモリチップを見せびらかす。

「ドローンをおびき寄せて捕獲した」

「……は?」

「ほんとはガバナンスAIの層まで入り込んで、ここら一帯のドローン全部止めたかったんだがな」

「じゃあ『遠征』でドローンにガチャガチャやってたのは」

「あのときバックドアから仕込んだプログラムが作動してくれた……けど、くそ、リアルタイムであいつらデバッグしやがった。一台だけガバナンスAIから切り離して、このビル入口に引き寄せるので精一杯だった」

「ってことは、ミアの」

「足取りが分かる」

「……!」

先輩は軽く顎をしゃくる。

「ドローンたちが『ミアの中の人』を学習して、共有して追跡してるのは分かってた。

なら、そのログを逆手にとればいい。予想通りメモリチップには、どのドローンがいつどこで対象を認識したかのログがあった」

私とは別ルートで、先輩はミアを探そうとしていたのだ。

「お前が多少ヒントを見つけてくれていたから、『中の人』のIDはすぐ推測できた。それを辿る形で最終的な移動先も割り出せそうだ」

「スーパーハカー!」

「まあ、無理やりドローンからチップ取り出そうとしたら本体に自爆されけどな、はは」

そう言って、先輩はさらにチリチリになった髪をつまんだ。

「解決策が浮かんだのにコード書かないのはクソだからな」

「先輩……やっぱ心配してくれてたんすね」

「そういうのいいから、メモリを解析するの手伝えよ」

先輩は、私の肩をグーで叩いた。苦笑いで誤魔化したが、めちゃくちゃ嬉しかった。


私たちは、空名ミアの歌を作業用BGMにして、メモリの解析作業と作戦会議をした。先輩がPCでログをデコードし、私が古い地図に情報をマッピングしていく。

気づくと地上では朝になってる時間だった。

「なんか、青春っぽいですね」

ふと私が言うと、先輩は手を止めて鼻で笑う。

「お前はこんなのでいいのか青春」

「高校は半年しか行けなかったっすからね。『あれ』が起こったせいで……。

 こういう文化祭の前日みたいの、憧れたんですよ」

「じゃあ、もうずっと青春っぽくていいよ――んなもん、続けさせてやる」

「え? 最後、よく聞こえなかった、なんかキモいこと言いました?」

「なんでもねえよ」



「『今日の生配信は休みます(おじぎの絵文字)』」



「共有PCに、空名ミアのブックマーク、入れときましたからね!」

出発するとき、ミナトちゃんとゲッコウくんとエドワードとモナじいと、マツダさんまでも見送ってくれた。それぞれが、ミアへの手紙と、隠し持ってた桃缶と、おしゃれな防弾チョッキと、レトロな方位磁針と、薄く血が残ったハンカチをくれた。

「大丈夫。場所は分かってるから。順調に行けば2日で着く」

先輩は、そう言って、みんなを安心させるようにうなずいた。

ボットが侵入しないように、シャッターはすぐに下ろされた。

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