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第2話


配信を見ながら、私は苦笑いとマジ笑いの中間くらいの笑い声を上げる。

画面には、かわいらしい3Dモデルの女の子。はしゃぐたび揺れるピンクのツインテール。ボイスチェンジャーのアニメ声。背景は、もうこの日本には存在しそうにない、ガーリーでハッピーな部屋。

空名ミアは、イカれていた。いい意味で。

「よくもまあ、こんな無駄口ぽんぽん叩けるよな」

隣からのぞきこむ先輩が、茶々を入れる。

大火から避難してるときに出会った先輩は(たぶん)二十代の男。長い髪の先が、焦げたように傷んでいる。

いろんなサバイバルハック&デジタルハックを教えてくれたから、勝手に先輩と呼んでいた。細い目が皮肉っぽくて、でも笑うとやたら子供っぽい。

「この明るさがいいんじゃないすか」

私は、なんだかんだ言って結局配信を一緒に見る先輩に、口をとがらせた。


ここは奇跡的に残った地下のシェルターだ。かつて巨大商業ビルの地下倉庫だった場所を、生き残ったみんなで無理やり住処にしてる。生きてるのは、病人怪我人も入れて全部で五十人くらい。金属の商品棚をベッド代わりにしたり、非常用電源をハックしてギリギリまで電気をいただいたり(先輩がやってくれた)、モール内の薬局の薬をおそるおそる調合したり、ドローンが飛び交う地上から雨水を汲んできたり。しんどいけど地上よりずっと安全だ、いまのところ。


ネットは世界規模で随分前に分断された。どうにか動いている小規模のサーバがローカルネットワークでつながってるだけだ。野良化したジャミングボットの妨害でしょっちゅうダウンする。

そんなうちのローカルネットには、昔のYouTubeをまんまパクったクローンサイトが残ってた。違法アップロードの古い動画が申し訳程度にあるくらいのものだ。

ところが、このインチキYouTubeで唯一いまも更新が続いているチャンネルがある。

――それが、『VTuber 空名ミアちゃんねる』。

女の子のバーチャル・ユーチューバーが、「エモい廃墟MV」とか「あえてイマジン歌ってみた」とか「ここにきてFPS戦争ゲームやってみた」とか「ドローンからの逃げ方講座」とか人生相談とか特に名前のない雑談とか……といったコンテンツを能天気に配信し続けている。


「やっぱAItuberだろ。こんな世界であんなの毎日配信なんて、ふつうできるか? なんか昔使ってたAIエージェントの、無駄に明るい感じに似てるんだよな。何言われてもヘコまないっていうか」

先輩は私の隣に腰を下ろし、合成ドラッグをぷかっとくわえた。先日、元政治家の豪邸だったらしき廃墟に『遠征』したときの数少ない収穫だ。

私は首を振る。

「んー、AI説ありますけど、私は中の人がいると思うんですよ。あの微妙なギャグセンスとか、陰キャが無理して陽キャやってるっぽい間とか。人間くさいですよ。そこがいいんだけど」

ミアは人だと思う。かわいい女の子だ。教室では目立たないんだけどネットで元気になる、黒髪で、胸がミアのアバターより大きくないのを気にしてる、でも笑顔がミアによく似たタイプの女の子だと勝手に思ってる。我ながらキモい。

「じゃ、お前は、ミアがどっかの廃墟から毎日生配信してると思ってんのか」

「ですです。そう考えるとすごいっすよね」

「なら根性は認めるけどな。野良ドローンがいるところで配信したりして、ガバナンスAIに目をつけられるぞ、あれ」

「私も気になるんすよね、大丈夫かな」

先輩は、ドラッグを一息吸ってから、皮肉っぽく笑った。

「AITuberじゃないってんなら、中にどんなやつが入ってるか気になるわ。もはやちょっと狂ってんじゃないかな、こないだ裸でシェルターから飛び出したスズキチさんみたいに」

「心配っすよね。会いに行っちゃいます? ……って言ってもどこから配信してるか分かんないし無理か」

「そりゃ危険すぎるし、迷うに決まってんだろ」

あらゆる看板や案内板は、ドローンと無人戦車とナノヒューマノイドに搭載された「文字破壊アルゴリズム」によって優先的に爆撃され、ぶち壊されていた。場所が分かるものは失われ、地域はなんというか匿名的になっていた。ミアの動画にも地名が分かるものが映ってなかった。

奴らは地下鉄や地下街の入口も爆破して埋めた。この地下シェルターを奇跡って言ったのはそれが理由だ。

「映ってる瓦礫とかはげ山の風景なんて、キタカントウ一帯どこでも一緒ですもんね」

私は薄く笑った。

「まあ、相当がんばれば風景の断片から場所特定できるかもな。ほら、さっきの料理動画、背景に大きめの横断歩道の残骸が見えただろ? そういう微かなヒントを集めて古い地図と照らし合わせれば分かるかもしれない」

「先輩そういうの好きですよね。情報解析とか、ハッキングとか、ネットストーキングとか」

「最後のはおかしいだろ」


そんな風に、空名ミアの配信を見ながらくだらないやりとりをしているときは少し現実を忘れられた。つうか、忘れないとやっていけない。だって、いつビルが倒壊するか、ドローンがフル戦闘モードに戻るか、保存食を食べきるか、新型の奇病にかかるか分からない世界だから。

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