“濁されオンナ”の成れの果て
今回も奈々さん視点です。
「“御曹司”の北野浩平さんが私の事を見初めた」
そう聞かされて……それはもう!!
天にも昇る様な気持ちでお見合いして
その次の日の朝には、
大手町にそびえる一泊40万以上もするらしいホテルの窓から都心の風景を見下ろした。
浩平さんの淹れてくれたコーヒーを手に……
でも、それきりだった。
最初は平身低頭だった内田専務から
「そこから先の男女の事は本人同士の責任! お互い社会人なのだから……北野不動産は我が社の大切な顧客だし浩平氏には常日頃からお世話になっている。 彼との事で君がそれほど“傷心”だと言うのなら……“癒し”として転地療養を提案してあげよう!ちょうど親会社の旭川支店で経理の欠員が出ていて、相談を受けていたんだ! どうだ!3年ほど出向してみないか? あそこなら富良野にも近いし有名な動物園もあるぞ!」
あからさまにこんな事を言われ、涙を堪えて役員室から出ると、一連の事はもう知れ渡っていて……私は逃げる様に会社を出た。
課長には電話で「急な体調不良で病院に来ている」と嘘をつき、申し出た午後休はあっさりと受理され、私はカフェでしばらくはぼんやり座っていた。
こうなってしまっては一日も早く……いや、一刻も早く落ち着きたい!!
だから私は……今までバカにし、敬遠し続けていた“マッチングアプリ”なる物をスマホにインストールした。
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どうせ私の事を伝えて聞いたのだろうけど、朝、駅から会社へ向かう道すがら、純也くんがまた絡んで来るようになった。
「今、インス〇にミーシャの事を上げててさ! フォロワーが5000超えたよ!」
「そうね。ミーシャは可愛いからね」
「そうだよ!ミーシャ!ますます可愛くなったんだよ!」
スマホを立ち上げ私に見せようと近寄る純也くんをグイッ!と押し戻し、私は“牽制の”日傘を差す。
「“お嫁さん”自慢は止めて!! それとも何?! 私がヤキモチでも焼くと思った?!!」
「そうじゃないよ。ミーシャは元々、奈々……此木さんのネコだから……だから……」
「ミーシャを“返品”したいなんて話だったら止めてよね! 前に言ったよね!『猫を飼うと結婚できない』って!!」
純也君が何か言いたそうなのが日傘の“庇”の向うに垣間見えたけど私は日傘をクルリ!と回してそれを断ち切りさっさと歩き出した。
本当にそれどころでは無いのだ!!
『今度こそ“優良物件”!!』と見込んで、昨日の日曜日、家にまで引っ張り込んだオトコは……寝入ってからその指を画面に“捺し”当ててロック解除したスマホを確認したら飛んでもない“事故物件”だと判明して……とにかくどう穏便に別れるかについて昨日の夜からずっと頭を悩ませている。しかも!!
“立つ鳥跡を濁し”で酷い臭気を立ち昇らせ汚されたトイレを朝っぱらから掃除させられたのだ!! 月曜の朝から!!!
その“ムカムカ”をまるっと浮き出た顔で睨むのは、さすがに純也くんに気の毒だから、こうやって離れてあげたのよ!!
有難く思って欲しいわ!!!
おしまい
二人の仲はこうして澱んでいくのでした(*_*;
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