七
「あぁぁぁぁぁー!」という政次の叫びが校内中に響きわたる。魔法で声を超音波上に飛ばしているので、自分と校舎の中に侵入した二人には耳栓をあらかじめしていた。
そうしなければ、鼓膜が破れて何も聞こえなくなってしまうからだ。
当然その音を無視できるわけがなく、虫の群れが一気にこちらに押し寄せた。
不快な羽音を鳴らしながら。
校舎の方から出てくるのを確認すると、カナタは拳銃を頭に打ち付けて、白の装甲を纏った異形の存在へと変身した。
迎えうつべく、肘のエンジンから火を吹いて地を蹴ると凄まじい速さへと上昇した。
エンジン音がやかましく鳴って、一体の虫をその剣で切り伏せた。
直後に糸や何らかの液体を出されて、避けることができなかった。だが、問題なく体は動いたので構わずに動く。
もう二体の虫を斬り伏せて、一旦距離をとって校舎から少しづつ離れるように後退する。
その戦法を繰り返し行う。
倒しては逃げての攻防は数分間続いた。
体力的に消耗しつつはあったが、虫がそこまで強くはないのでこれならばあと数時間すれば決着はつくだろうと推察した。まさにその時。
空から三機の戦闘機が現れる。やかましい音を立てて、こちらに近づく。
軍隊が今更何をしにきたのだろうと思っていると、その三機はそれぞれ突っ込んで爆発を起こした。こちらに爆風が吹き荒れる間際、政次を咄嗟に押し倒して、激しいアレに耐えるため地面に剣を突きつけて固定した。
僅か数秒にわたる衝撃だった。何とか耐え抜いて、お互いの無事を確認すると、起き上がって絶句した。
学校が跡形なく消し飛び、瓦礫の山と化し、その半径数キロほどの住居も跡形もなく消し飛んでいた。
「軍は何を考えてやがる」
声を尖らし、軍に対して憤りを感じていた。その束の間に数体の虫が瓦礫を押し除けて出できた。状況を理解することもままならず奴らを迎え撃った。
不快な羽音を鳴らして、複数で糸や謎の液体を放ってきたが、構わず肘のエンジンから火を噴き出して刺突を繰り出す。一体の体を貫いて沈黙させて、着地した後のもう二体は跳躍して同じくそこから火を噴き出して、切り上げて両断した。
沈黙し二つに別れた虫の死骸が地面に落ちた時に、瓦礫から手が出ているのを確認した。
戦闘中の政次に助太刀して、火を噴き出す刺突で押し寄せる虫の一体を沈黙させて急かすように言った。
「雑魚は俺に任せろ、そこの瓦礫に人が埋まってる。とっとそいつを助け出して、避難しろ」
「柳木くんはどうするのさ!? まさか、あの群れを一人で」
「時間が惜しい!とっとやれ」
強く言葉を投げつけ、まだ瓦礫から出てくる虫の群れに単身で迎え撃った。
肘のエンジンが唸り、やかましい音を立てて次々に向かってくる虫をその剣で切り捨てた。
順調に倒し続けて、地面に着地した直後。一体の虫が横目で通り過ぎるのを捉えた。すぐさまに、向かおうとするが奴らが一斉に迫ってきた。四方から攻めてきたが、臆することなく跳躍の構えをとって、肘のエンジンから火を噴き出した。その勢いで切り上げて、虫を数体切り伏せると、瓦礫の山からすでに二人とその他一人を引っ張り出していて持ち上げて避難するところだった。そこに虫が迫るのを政次は気がついて、唇を噛んだ。三人を抱えている状態では、いくら彼が強かろうと数秒の遅れが出てしまう。
すぐさま向かい、エンジンを蒸して、力を貯めると両腕共に風船のように膨れ上がり、一気に萎んだ瞬間。火が青白く噴き出して、今までの速度とは比べられないくらいの驚異的な速さで間合いを詰めた。間一髪で虫に刺突をくらわせて沈黙させた。
「早くいけ」
死骸を放り捨て、立ち去るよう告げると無言で頷き避難を再開する。
それを見届けて、振り返ると驚きの光景を目の当たりにした。
虫の群れがバタバタと倒れ始め、何かに苦しむようにもがいて次々に沈黙していく。
まさかと思い、振り返ると、政次が血を吐き出して倒れていた。
駆け寄って生死を確認するが、既に息をしていない。
毒だとすぐにわかった。それも魔法によって生成した代物だろう。
魔物が悶え苦しむのがいい証拠だ。三人はまだ、息をしていたが、苦しんでいたのですぐさま一人を口で咥えて、二人を両腕で抱えエンジンから噴き出した火の勢いで地を蹴り。
この場から颯爽と離れた。