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ブレイズソード  作者: 東虎徹
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巨大な虫の魔物の群れに、都内の中学校が襲われたと通報が入った。

車で駆けつけると、すでにマスコミが到着しており、女性アナウンサーがカメラ越しに現状を世間に報告していた。

「ご覧ください! ここは数時間前まで、生徒達が平穏にすごす場所でしたが、突如虫の大群が押し寄せて、今の無惨な姿をとなっております」

校舎が破壊された箇所を見ながら険しい顔をして、アナウンサーは続けた。

「校内には虫が闊歩し、生徒達とその教員達は未だ、一人として避難できていません」

邪魔だと内心で毒を吐きつつ、カナタは相田と校門前に近づく。

こちらに気がついた女アナウンサーが、マイク片手に寄ってきた。

「あ、あの! 校内にはまだ生徒達と教員が残されていますが、どのようにして助け出すつもりでしょうか?」

「それをお前らに言ってなんになる? 邪魔だからとっとうせろ」

「なっ! 聞きましたか皆さん! いま」

邪険に扱ったことに根を持ったのかアナウンサーは、カメラに向かって非難の声をあげようとしたその瞬間。

不快な羽音と共に、暗い影が付近を覆った。

なんだと誰もが見上げると、二体の巨大な虫がこちらめがけて落下する。

悲鳴を上げるよりも先に、カナタは動いた。

真正面から迎え撃ち、カナタは跳躍し拳を突き出して、一匹目の腹を破壊した。続けての二匹目は眼球部分を鷲掴みし校内の方へと投げ飛ばす。着地して驚いて腰を抜かしているアナウンサーを一瞥し、忠告した。

「これでわかったろ? お前らが邪魔だってことがな、虫の餌食になりたくなかったらとっとうせろ」

巨大な二メートル程の虫を目撃した。アナウンサーとそのカメラマンは慌てて、プロ意識のかけらもなく後方の路肩に止めてあるロケバスに乗り込み颯爽と消えていった。

「アンタのせいでまた、ウチの評判悪くなりそうなんだけど」

「死人が出るよりマシだろ」

とりあえず警官と魔法師団が連携して、住民を一通り避難はさせたらしいが、さっきの奴らみたいにまだ指示に従わない連中には今のような応対で十分だ。

「んなことより、どうやって対処するかが問題だな」

破壊された校舎を眺めて、三つの気色の悪い繭がついていた。屋上に一つと、あとは窓に隣り合って並んでいた。

「あの繭中身いったいなんだと思う? 俺は多分さっきの奴らの幼体が入っていると思う」

「気持ちの悪いこと言わないでよ! 想像しただけでゾッとするでしょ!」

「いや、あの中身は人間だ。おそらく生徒と学校関係者達だ」

聞き覚えのない声に二人は振り向くと、そこには同じ黒の軍服を着た二組の男がいた。一人は紫のツーブロックで吊り目気味の青年。もう二人は中性的な顔立ちをした。小柄な体躯の白銀の髪を持つ少年だった。おそらく話しかけて来たのは少年の方だろうと窺えた。何故なら片目を閉じて、手を望遠鏡みたいにして覗き込んでいたからだ。おそらく、透視の魔法を使っているのだろう。

「無事なのか?」

「うーん、無事なのもいるしそうでもない奴もいるね」

その少年の言葉から察するに、死人はもう出ているらしい。

「そうか」と頷いて、どうするか相田に聞こうとした直後。

「つーかさ、お前生意気じゃね」

少年は突っかかるように声を飛ばしてきた。

当然ながらカナタは目を尖らして「あ?」と声を上げた。

「あ? じゃねよ。年下のくせにこの俺様に敬語なしとかあり得ないから。敬語を使え敬語!」

「どっからどう見てもお前の方がくそガキだろうが! 俺は今年で十六だボケ!」

「俺は二十九だ!」

それを聞いた途端に、相田と同時に「え?」とに声を漏らした。

「そ、その見た目でか?」

「そうだ! 凄いだろ」

小さな胸を張って誇らしげに少年は言うが、別に凄くはないだろとカナタは内心呆れていた。

生きていたら誰でも歳はとるものだからだ。

カナタが目を細める隣で、相田は真剣な眼差しで「羨ましい」と漏らした。

何をもってして羨ましいと思うのかが、理解に苦しむが、すぐにどうでもいいと頭の隅に追いやって、思ったことを口にした。

「ということは、アンタは十代半ばの未成年に敬語を強要する。精神年齢が極めて低いアラサーの成人男性ってことか。フツーにキショいなお前」

「んだとコラっ! 魔物の前にお前を先に殺してやるよ!」

「上等だ! やって」

啖呵を切る直前に、少年が後頭部を殴りつけられアスファルトにめり込んだ。

目線を上げると今まで黙っていたツーブロックの青年が力強く拳を握って、相棒である少年を見下ろしていた。

「兄さんダメじゃないか、仲良くしないと殺すよ」

「わ、わかったよ! わかった、だから殺さないでくれ」

堂々とした強迫にすぐさま少年は起き上がり、土下座をして命乞いをした。

青年の怪力ぶりにも驚いたが、それよりも彼らが兄弟で、青年が弟で幼い少年が兄というのが衝撃的だった。

それは相田も同じだったようで、「どっちが兄かわからないわね」と感想を述べた。

自分も「それは同感だ」と同意した。

「兄が迷惑をかけてしまい申し訳ない」

不良みたいな容姿に反して、丁寧語で謝罪してきたので礼儀の良さもあの幼い兄と比べ好感が持てる。

「いや、別にアンタが謝ることじゃない。それに今は争ってる場合じゃないからな」

「そうですね。犠牲者が増えないようにしないといけませんしね」

「あ」と何かに気がついたようにしてツーブロックの青年が声を上げると、視線を合わせた。

「まだ、自己紹介していませんでしたね。僕は代田政次。こっちは兄の代田知次です。よろしくお願いいたします」

「あぁ、どうも。俺は柳木カナタ。魔人だ」

「私は相田春乃」

互いにお辞儀をし、自己紹介を終えると早速作戦を練り始める。

「誘導兼囮は僕と柳木さん。救出は兄さんと相田さんで異論はありませんか?」

政次が三人に呼びかけるように聞くが、反対する者はいないようで少しの沈黙が流れた。

それを了承と判断し、互いに頷いて二手に別れた。





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