十二
あの二人組の一人の青年を捉えたことで、事態は収拾に向かった。
流通した薬の売人とそれを彼らに引き渡した暴力団の連中も、連日逮捕し薬の売買を止めた。
しかし、裏で取引しているためその多くは、流れてしまい完全に止めることはできなかった。
だが、三人のテロリストから国を守ったことは評価され勾留されずにカナタは一安心した。
それから二ヶ月は、特に大きな事件は起きず緩やかに過ごしていた。魔物は出てはいたが。
「なんで、こんなに並ばなければならないのかしら」
「いいから黙って立ってろ。そうすりゃ、少しは列が動く」
全く動かない行列に相田が口を尖らせると、カナタも悪態をつく。
今自分らが並んでいるのは、限定チーズケーキを買うためのものだ。ただ、彼女が文句を言うのも少しは理解できる。七月の猛暑日に外で立たされるのはきつい。
「というか、あんたがここに来たいと言わなければ、今頃冷房がきいた部屋でアイスを」
「うるせぇな、仕方ねぇだろ俺はお前がいないと外出できないんだからよぉ」
「あのぉ」と自分らの会話に横から控えめな声が入ってきた。聞こえた方向に目をやると顔が無駄に整った美少女が眉を八の字にさせて、さも困っていますといった表情をしていた。
「何だぁ? 列なら変わねぇぞ」
「いえ、そういこうことはじゃなくて、ですね」
「じゃぁ、何だよ」
「えっと、ここに小さな男の子が通りませんでしたか?」
迷子を探しているのだろうとその言葉で察して、振り向きざまに相田に尋ねた。
「見ていないわ」と即答し彼女に自分らが見ていないことを伝える。
ガックリと肩を落として「そうですか、ありがとうございます」と言い残して立ち去ろうとした瞬間。腐臭と小さな男の子の悲鳴が聞こえた。
目を見開いてすぐさまに列から抜けて走り出す。
「ちょっと、ケーキどうするの!?」
「そんなもんあとでまた買えばいい。魔物が出たお前も早く来い」
その発言で少しざわついたが、気にせず匂いがする方向に向かうべく建物を飛び越えた。
二つ飛び越えた先の路地裏に、年端もいかない少年が二足歩行の植物に襲われそうになっていた。瞬時に拳銃で頭を貫いて、異形の姿に変身する。
肘のエンジンから火を噴き出して、そこ目掛けて落下した。
魔物の毒牙が迫ろうとした寸前。突き出した剣で、体を引き裂くことに成功する。
魔物は頭である複数の花弁を散らしながら、苦しそうに叫んで沈黙した。
呆気ない死に方にカナタは舌を鳴らした。
「クソが、雑魚かよ。つまんねぇな」
「すげぇ、ホンモノだ!」
振り向きざまに「あ?」と間抜けな声が出た。この姿を見て歓喜されるのは初めてだからだ。大体は怯えたりして離れていくのがほとんどだ。しかしこの少年は自分と対峙したことに興奮したのか、不用心に駆け寄ってくる。
「あら、珍しいこともあるのね」
それを目撃した相田が面白そうにビルの屋上から見下ろしていた。
「おい、警察と病院に連絡しろクソぼけ」
「はいはい、わかったわよ」
そう言ってスマホに電話をかけると、数分して救急と鑑識員がこちらに赴いてきた。
「この子の保護を頼む」と救急隊員に差し出す。
それを受けたわまった救急隊員の女性が優しく声をかけ近づくと駄々を捏ね始めた。
しまいには自分の足元にがっしりと掴み離れようとしない。
「おい! 離れろ、クソガキが」
「イヤっ! ブレイズソードと一緒にいく」
「えっと」
離れるよう言うが聞く耳を全く持ってくれず、救急隊員も困っていると相田から提案される。
「もう一緒に行ったら」
「ふざけんな! せっかくの非番だってのに」
「仕方ないでしょ、頑として離れないんだから」
「確かにその方がいいかもですね」
「オメェまで何言ってんだ!」
「いや、だっていつまでもこうしているわけにもいきませんし」
二人の言い分がご最もだと言うことは重々承知していたが、どうしても一緒にはいきたくないと強く思う。しかし鑑識員や他の救急隊員の急かすような視線に耐えきれず「わーたよ! 行けばいいんだろ行けば」と半ギレでそう言った。
「ヤッタァ! じゃぁ早く一緒に乗り込もう」
一緒に行くとわかった否や少年は目を輝かせ救急車に駆け込む。
「現金なやつだ」
「でも、ああいう子がいて少しはやり甲斐を感じられるんじゃない?」
「くだらねぇな」
相田の言葉を受け流して、早く行くよう声をかけて救急車に乗り込む。




