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ブレイズソード  作者: 東虎徹
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「あのぉ、お客さん」

「なんだ、金なら払ったぞ」

「確かに、料金なら頂きましたけど、こんな趣味の悪い店に何のようで?」

「やかましい! とっと行け、殺すぞ」

控えめな運転手が言いにくそうに、目の前のビルを見てここにくる要件を尋ねてきた。あまり詮索されたくはないし危険なので語気を荒げると、謝り倒して車を発進させた。

息をついて振り返った。改めて見ると確かにあの運転手の言う通りだと、店があるビルの外観を見て全く同感した。

古いビルなのだろう。所々白の塗装が剥がれてコンクリートが剥き出しになっている。

足を踏み入れるとツンと嫌な臭いが鼻を刺激した。排水口が詰まっているのかどうかわからないが、吐き気を覚えるほどの匂いがした。

とても飲食店があるビルとは思えない。

だが、階段付近の壁に取り付けられてある案内板には二階にその店はあった。

そこに相田が囚われている。目的や何者かもわからない。

ただ、味方ではないことを唯一知っている。それだけわかれば充分だ。

気を引き締めて、二階に上がり扉を開けた。

とても言葉では言い表せない生き物が目の前に飛び込んできた。魔物ではなく人であった。それも厚化粧で顔を覆った女装に身を包んだ髭面の男性だった。

「いらっしゃ〜い! あらっ! 若いわね〜お客さんいくつ」

「十六」

あまり顔を直視したくはないのでそっけなく答えると、大袈裟に口元を手で覆った。

「あらやだ! まだ未成年じゃないの」

「いいんだよママ、俺が呼んだんだ」

髭面が入店を拒否しようとしたところ、男の声が挟んで止められた。

「あら〜そうなのぉ! それなら先に言ってよぉ〜水臭いわね」

そう聞いた途端に髭面は肩をこづいて馴れ馴れしくしてきた。内心触るなと憤りを覚えたが、何とか沈めて中に入る。

すると、六畳弱の部屋に所狭しに横並び九の字に曲がったカウンターと団体席のソファが二つ配置されている。

カウンターの奥には酒瓶が簡素な棚に配置されていた。

先ほどの声の主であろう、男と他二人。そして、相田がその間に挟まって奥のソファ席に座っていた。

「よぉ、マジで一人で来るなんて関心するよ」

真ん中にいた長身で赤髪の男が、称賛の声を上げた。

「おぉ、本当にきた〜」

「コイツがそうなの? ただのガキじゃん」

その後に先刻対峙したばかりの水色の髪をした青年がこちらに視線を向けると無邪気に、嬉しそうにしていた。それに反して、小柄で銀色の髪を逆立てた吊り目の女は悪態をつく。

眉を寄せて、当然の質問をする。

「お前ら、ふざけてんのか? こんなクソみたいな場所に呼び出してよぉ」

「おいおい、そんなこと言ったら彼女たちに失礼だろ? なぁ、ママ」

長身の青年は敵意ある視線を向ける自分の言葉に肩をすくめて、ニヤリと口角を上げながら髭面に茶化すように聞いた。

「そうよぉ〜そんなムスッとしないで、楽しく」

「お前は黙ってろ!」

この場をうまく取り直そうとしたのか、宥めようと優しく声をかけられた。だが、そんなことはお構いなしにカナタは、睨みを効かせた。

気迫に押され、髭面は怯えてしまい体が固まってしまった。

目を尖らせて視線を再び的である彼らに向ける。

「相田を解放する条件を言え」

「おいおい、お前、立場わかってんのか? こっちには人質がいるんだぜ」

「ねぇ、リーダー。コイツとの交渉無駄なんじゃない? コイツよりはマシだとしてもさぁ」

「んだとぉ〜! ミズキぃ! ブスのくせに意見するな」

「上等だぁ! カンお前表でろや!」

無意味な争いを横目に、正面の青年と相田にだけ集中した。

彼女の首元にナイフを突きつけて、いつでもやれるような素ぶりを見せて勝ち誇ったように笑みを向ける。どうやって彼女を奴から引き剥がすかに思考を巡らすが、今のこの状態では厳しいと判断した。

「わかった。言うとおりにする。だから、相田にナイフを向けないでくれ」

「オッケ〜じゃあ、そこに座れよ」

言われたとおりにし、手前のソファに腰を落とした。

「単刀直入に言おう。俺らはお前が欲しい。ブレイズソード俺ら側につきな」

「俺らがわ?」

「あぁ、お前も俺らと同じ今ある政府に不満を感じているだろ? 魔法使いが魔物と戦うことを強要することに」

「まぁ、そうだな」

「やっぱりな、いつも見てたからわかるよ。あんなゴミどもの為に戦うなんて辛いよな。だが、もう大丈夫だ。俺ら魔法国家ムーンに入れば、思いのままにできる。その為には」

青年の口から出てくるのは理想を拗らせた考えそのものだった。

要約すると彼らはあの魔法が扱えるようになる薬を開発した。アメリカ大陸にあるムーンから来たという。

あの薬は、魔法国家の戦力を増強するための資源として、使えない人間と武器を裏の人間から引き換えていた。この店はそのヤクザが取り仕切っている店らしい。

「俺らと共に政府を滅ぼして魔法を扱えない劣等種を根絶やしにするんだ」

「確かにそうした方が、魔法使いや俺みたいな魔人は生きやすくなるだろうな」

「そうか、賛同して」

「でもな、それじゃダメだ。それをやっちまったらお前らも劣等種と見下してる連中とやっていることと大差ねぇよ」

「だったら何? アンタなにか他にいい方法があるっていうわけ?」

吊り目の女にそう問われて、口をつぐみ考えが思いつかなった。答えられない自分に彼女は「ほら、そんなのないじゃん」と呆れたように言葉を放った。

「なぁなぁ〜ブレイズソードはさぁ〜何のためにい〜戦っているのぉ〜?」

「強いて答えるなら兄貴の意志を真っ当にするためだ」

続けて水色の髪の青年の質問には、頭の隅にいつも置いていたことなので素早く答えられた。

「その兄貴の意志ってのは、もしかしてその劣等種を守れとかそんなんか?」

「あぁ、そうだ」と頷くと長身の青年は鼻で息を短く切って「くだらねぇ」と吐き捨てた。

「そうだな、くだらねぇよ。でも、それと同じくらいお前らの企てる計画もくだらねぇよ」

三人に目線を合わせて、淡々とした口調で意見を述べた。

その後数秒の沈黙が流れた。

「そういうってことは、交渉決裂ってことか?」

「そうだ」

そう答えると同時に相田にナイフを向けようとした。その刹那に懐にしまってあった手榴弾を宙に投げた。

それを見てギョッと三人は目が見開いて、人質である相田を置いて爆発から逃れるため下がった。

その隙をついて相田の手をとり抱えて、壁を突き破って外に出た。着地した途端に地を蹴って全力でアスファルトの地面をかける。

「策はあるの?」

「なきゃ、堂々と来ねぇよ! いいから今は黙ってろ」

「フザケンナっ! ブレイズソォード!」

逃げられる算段はついているかのと聞かれ、た。あるにはあるが今は悠長に話している時間などない。

だから、黙るよう言った。

その途端に後ろのビル群が次々に破壊しながら、鳥と人を足したような異形の怪鳥が背中の翼を羽ばたかせてこちらに迫る。おそらくはあれが水色髪の青年の魔人と化した姿なのだろう。

みるみるうちに距離を縮めてきた。

掴みかかろうとする鋭利な鉤爪が背中を掠めた瞬間。路地裏に方向転換した。

「クソが! とっと捕まえて殺す!」

舌を鳴らして怪鳥は上空から先回りするため、飛び上がった。

路地を抜けた瞬間。怪鳥は予想通り、真ん前に落下してきた。

「今だ! 青戸やれ!」

迫る刹那に、そうさけぶと眼前にいた怪鳥が消えた。

その代わりに銃声が一斉に街中に響き渡った。

「え? どういうこと」

ポカンとしている相田を尻目に、振動するスマホを手に取るとムカつく声がそこから聞こえた。

「成功しましたよ、取りあえず生け捕りにしちゃっていいんでしょうかね?」

「それしかできないだろ、馬鹿かお前」

手筈通り生け捕りに成功したのが嬉しいのか、青戸は声を弾ませた。自分が囮になりテレポートの魔法を仕掛けたこの路地に誘い出して、声を上げて合図をする。それに合わせて青戸が自分に仕掛けた盗聴の魔法で聞き、テレポートの魔法を作動させて配備した軍と魔法使いの集団で一斉に攻撃し捕縛するという作戦だ。

そう言って電話切り、殺気を帯びている気配を察知して、ビルの上を見ると二人の魔法使いが見下ろしていた。彼らが現れたと同時に悲鳴が聞こえ、上空に怪鳥が舞うのが見えた。

「ふざけやがって、今度会う時は殺す」

そう言い残すや否や長身の青年は仲間の吊り目の女とそして怪鳥と共に一瞬で消えた。

取りあえず事態が一段落したことに、安堵するのだった。




あの事件の翌日。退院し相田はバディとして復帰し、青戸とはおさばらできたのでやっとストレスが掛かる日々から抜け出すことに内心で歓喜していた。

警察の全力捜査の甲斐あって、奴らの魔法国家の根城にしている場所を伝えられて、今車でそこの現場に向かっている。

その道中に聞くカーラジオからは、魔法師団の不手際があったことでまた建物の破損や負傷者が相次ぐという報道が流れていた。

これでまた非難が強まるなと思っていると、相田が「あなたのお兄さんってどんな人?」と急に尋ねてきた。

何の前触れも無く聞いてきたので、少し驚くが別に話せないほど後ろめたいことはなかったので、答えようとした。

「あれ?」

思い出せなかった。確かにいた兄の存在を顔はおろか名前さえも思い出せなかった。

「どうしたの?」

動揺している自分に彼女は心配そうに聞いた。

「思い出せないんだ」

「え?」

「何でか、わかんないけど。慕い憧れの存在だったはずなのにどんな人だったのかも顔も名前すら思い出せないんだ」

「そう」と悲しそうに彼女は頷いて、それ以上は何も聞きはしなかった。

しかし、一つだけ確かに覚えていることがあったので続けた。

「でも、一つだけ覚えている言葉がある。人に愛される存在であれ、その為には人を守る強さを持てってな」



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