海での約束
『明日の朝8時に、ここで待ち合わせね!』
そう昨日約束した俺は、待ち合わせ場所である海に10分前に着くようにホテルを出る。
ホテルに泊まって驚いたのが、そこで小学校のクラスメイトに遭遇した。
しかも、バイトで従業員として働いていた。
久しぶりの再会にお互い驚きつつも、話に花が咲かせつつ連絡先も交換した。
クラスメイトが言うには来春から島を出て就職するらしい。
もうすぐ就活が始まるから、就職が上手くいったらまた会おう。と約束をして、また1つ増えた連絡先を見つめた。
小さい頃は携帯なんて持っていなかったからやり取りとなると手紙だったな。
虹花に『毎年年賀状送る時に思うんだけど、誠司の住所って昨年といつも違うとこになってるよね』と呆然とされたことを思い出す。
昔を懐かしみつつ、時の流れと自身の成長を若干感じていると目的地の海につく。
朝の海は静かながらも日を浴びて今日も水面を輝かせていた。
まだならのんびり海辺でも散歩しようかと思い辺りを見回すと、視線の先には虹花の後ろ姿があった。
先についていたことに驚きつつ、俺は彼女に駆け寄る。
足音に気づいた彼女は、俺を見るなり嬉しそうに微笑む。
その光景がまるで一枚の絵のように綺麗で、一瞬見惚れてしまった。
「よかった~!ちゃんと会えた!」
「まだ10分前なのに早いな。いつからここにいたんだ?」
「えっと、30分ぐらいかな?昨日の夜 なかなか寝付けなくて」
30分前は早すぎないか?
30分前って、その時まだ朝食食べ終えてクラスメイトと話してた時なんだけど。
何時起きだったんだろうか。あとそれはコンサートの入場レベルの早さな気がする。
「それはずいぶん待たせたな。ごめん」
「ううん、私が張り切りすぎちゃっただけだから。会えるだけでも十分嬉しいし」
「それで、今日なんだけど…」
「わかってるよ。行きたい場所があるんだよね?」
「てっきり忘れられてるかと思った」
「昨日の今日でさすがに忘れないよ!?私をなんだと思ってるの!?」
「安心してくれ、冗談だ」
「顔変わらないから誠司の冗談わかりづらいよ…」
俺は虹花に手を差し出す。
虹花はきょとんとしたが、俺の考えがわかったのが頬を染めて手を重ねた。
「小さい頃に戻ったみたい」
「誰かさんが昔から甘えたがりだからな」
「そんなこと言って、誠司が私と手を繋ぎたかっただけなんじゃないの?」
「で?ここでずっと話しててもいいけど、どこか行きたいところあるんじゃなかった?」
「そうなの!誠司と行きたいところがあるの!早く行こう!!」
走り出す虹花に引っ張られてよろけそうになりつつ、俺も歩調を合わせる。
「虹花、危ないから急に走り出すな!あと早い!」
子供の様にはしゃぐ虹花の手は、昨日同様とても冷たかった。
そして、最初に連れられた場所は…
「…洞窟?」
さっきまでいた海の端にある洞窟だった。
「うん。丁度今の時間帯が一番綺麗だから!ほら、行こう!」
虹花は恐れることなく洞窟に足を踏み入れる。
小さい頃に”度胸試し”としてよくクラスメイト達も足を運んでいた洞窟は今ではより整備されていて歩きやすく感じた。
昔は懐中電灯片手にビビりながら入ってたっけ、と思わず笑ってしまった。
毎回行くとしたら虹花とだったけど、たまにクラスメイト達と日が被った時に奥で動けなくなった人達と一緒になっていつの間にか団体になってたこともあった。
で、最後に入口に待ち構えている親たちに怒られるまでの一連の流れが、この時期ならではの名物だった気もする。
でもあまり早い時間に行くことがなかったし、奥は真っ暗な闇が広がっていた記憶しかない。
果たして、奥に何があるのか…。
奥に進むに連れて暗くなり歩きづらくなっていったが、小さな光が揺らいでいる様に見えた。
「誠司、ここだよ。上見て」
そしてそこからまた歩き続けた後に、ようやく虹花が足を止めて指をさした。
「すごい…!」
俺は言われた通りに見上げて目を丸くした。
ぽっかりと大きく開けた場所があり、海と繋がっているのか潮の香りが強く感じた。
そして天井にあいた穴から太陽の光を受けて、洞窟内を青く照らしている。
水面が揺れる度に洞窟全体を照らす神秘的な光も揺らぐ。
「すごく綺麗でしょ?海外にある”青の洞窟”だっけ?そこに似てる気がしない?昔から知ってる場所だったけどここまで奥には子供だったしさすがに行けなかったしね」
「…綺麗だな。奥ってこうなってたんだな」
「こうなったのは2・3年前だったみたいだけどね」
「そっか。…綺麗だな」
青く照らされた洞窟を見つめる俺と繋がっている手をぎゅっと虹花は握った。
顔を虹花に向けると、虹花はまっすぐに洞窟を見つめていた。
「もうちょっと眺めたら、次のところに行こっか」
「そうだな」