お誘い
「海に行きたい」という虹花の提案で、海にまた戻った俺は日陰なっている砂浜に腰を下ろす。
すくうと指の間からこぼれる砂は少し冷たいが、今日は気温が高いこともあり風が生暖かい。
じっとしていても次から次へと汗が出る。
「久しぶりだね!えっと、4年ぶりだっけ?」
「そうだな。随分間が空いたが…お前、何でここに?」
「何で?って、誠司がこっちに来るって聞いたからに決まってるじゃん!久しぶりに会えるにのに会わないなんて選択肢ある?それに、あそこにいたら絶対誠司が来ると思ったからそれならあそこで待ってようかなって」
俺と対照的に、汗一つ掻いていない虹花は嬉しそうに微笑む。
いつも笑顔なのはきっと奈津美さん譲りなんだろうな。外見もそっくりだし。
と脳内の片隅でそんなことを思いつつ、少し眉を下げる。
「い、いや、そういう意味じゃなくて…」
「え?まさか、私に会いたくなかったの?会いたいって思ったのは私だけだったんだ。へぇ、そっかぁ」
悲しそうな表情かつ上目遣いで俺を見る。大きい瞳に涙の膜が張られているように見えて焦っていると虹花は満足したのかすぐに笑顔に戻った。
「冗談だよ、冗談。あはは、焦ってる誠司、面白いね」
「…俺が冗談通じないのわかってるの知ってるくせに」
「ごめんごめん。でも懐かしいな。昔もこうやってよく冗談言ってたよね~」
「お前、本当に4年経っても変わらないな。そうやって俺をいじるところとか」
いつも笑顔なところとか、何でも楽しそうなところとか。
からかわれた直後に褒めるのは負けた感じがして、俺は後の言葉を
俺は呆れつつも、彼女の横顔を見つめる。
「…誠司は、変わったね」
「そりゃあ、4年ぶりだし。1つや2つくらい変わってる所はあるだろ」
「そうだけど、なんかこのままだと誠司が遠くに行っちゃう気がして」
「遠くにいても会いに来てるし、それは変わらないよ。こうして実際に会いに来ただろ」
「でもまた帰っちゃうじゃん」
「駄々っ子か」
虹花はわざとらしく溜息を吐いて、空を見上げた。
つられて顔を上げると、そこには雲一つない目が痛くなるような青空が広がっていた。
「…誠司、話変わるけど明日の予定は?」
「虹花と会う以外で特に予定なかったから、久しぶりにのんびり観光でもしようかと」
「じゃあ、じゃあさ!私と付き合って!」
「…は?」
「明日、誠司と行きたいところあるの!私に付き合ってよ!」
虹花は期待を込めた笑顔をこちらを見てくる。
まるで『散歩!?散歩に行けるの!?行きたい!行こう行こう!』と尻尾をぶんぶんと振る犬のように無邪気さに俺は思わず笑ってしまう。
「虹花って、本当に変わらないよな」
「それ、褒めてる?」
「あと言い方、気を付けたほうがいいよ。他の人だと勘違いするだろうから」
「お父さんみたいな事言ってる。誠司、いいお父さんになるね」
「誰がお父さんだよ。俺、まだ二十歳になったばっかなんだけど」
虹花の中での俺の印象って一体…?と頭を抱えてる俺の隣で、ボソッと呟いた彼女の言葉は俺の耳には届かなかった。
「誠司になら勘違いされてもいいんだけどな…」