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餓狼の道~堕ちた英雄、自由を求めて旅に出る~  作者: Tonkye
アルカトラウス刑務所 篇
9/27

第9話 聖騎士の力

 死霊・リッチ……。 まさか、こんな所に魔族が現れるとは、この場にいる誰もが予想だにしていなかっただろう。

 それは、ワンの味方であるハズの警察機構の警官や、アルカトラウスの兵隊達ですらも。


 魔族とは、かつて幾度となく世界を混沌の渦に巻き込んだ恐るべき種族だ。

 主にこの世界とは異なる次元の存在で、かつて人類に攻め込む際には、次元の扉を開いて侵攻して来たのだが、いずれもその時代の光属性に目覚めた者……救世主を中心とした人類の抵抗により、なんとか侵攻を退けて来た。


 だが、それとは別に、一部の人間は魔族である悪魔を召還する術を用い、世界を危機に陥れて来た歴史もある。


 その事から、人間界にとって魔族の召喚は禁忌とされ、容赦なく裁かれて来たのだが……よりにもよって何故、世界の平和を守る組織である国連警察機構のトップである長官のワンが、魔族と手を組んでいるのか?



「フハハハハ……全て、全て消えてしまえば良いのだ! 騎士団も、軍隊も、憲兵隊も、ギルドも、全て邪魔な存在だ! 世界は……我々国連警察機構が統べるべきなのだ!」


 ワンの目は、狂人の如く充血している。 もしかしたらワンが自分の意思だけでリッチを呼び出したのでは無いかもしれない。

 もしかしたら……ワンは、自分の意思ではなく、リッチから心の闇を突かれたのかもしれないな。 騎士団や軍隊のせいで肩身の狭い思いをしている劣等感に突け込まれて……。


 俺は聖騎士として目覚めた際、教会から光属性に目覚めた者としての教育を一通り受けていた。

 その中で最も重要だったのが、光属性は魔族に対する切り札だと云う事。 当然、魔族に関しての知識を徹底して叩き込まれるのだ。


 その中で、魔族は人間の心の闇を突き、召喚を誘発させる場合があるのだと教えられた。


 以前見た時も、ワンは気苦労の絶えない雰囲気を漂わせていた。 世界の平和を守る為に結成された組織でありながら、各国の騎士団や軍隊に気を使い、組織の存在意義を否定される事もあったのかもしれない。

 先程のワンの言葉からすると、国連警察の立場に不満を抱き、それが心の闇となり、リッチに突け込まれた可能性は十分に考えられる。



「クックック……警察が無能だとは知っていたが、そのトップがまさかこれ程までとはな。 やれるもんならやってみろ、このクソ骸骨が!」


 ジェイクがリッチに向かってナイフを放つが、そのナイフはリッチの目の前で魔法による障壁によって弾かれてしまった。


「無能だと~? 舐めるなよコソドロだ! 我が警察は世界の平和を守る最強の組織なのだ!」


「チッ、野郎ども、打ちまくれっ!」


 ナイフは弾かれたが、ジェイクの号令により様々な角度から暁の宴団員による弓矢の攻撃が次々とリッチに放たれる。


「無駄ダ……」


 が、またしてもその全てが障壁によって弾き返された。


「この骸骨野郎が……」


 船首にいるリッチには近接攻撃が出来ず、矢も弾かれる。 この現状にジェイクは舌打ちをした。



「矮小タル人間ノ分際デ、死霊術師タル我ニ、生意気ナ口ヲ叩クトハ……。 貴様ノ屍ヲ、人間ドモヲ滅ボス軍隊ノ切リ込ミ隊長トシテ使ッテヤロウ……」


 リッチの掌に、闇の波動が出現する。 死霊・リッチの魔法……あれを喰らえば、人間は生きたまま死に、意識の無い生きる屍……ゾンビになると伝えられている。


「チッ、誰がテメエの兵隊になどなるか!」


 リッチに向かって悪態をつくジェイクだったが、その声色には焦りが見てとれた。



「アーッハッハ! いいぞ、死ね! 皆死ね! そして、ゾンビとなってこの私の軍隊となるのだ! さあ、やれ、リッチ!」


 リッチが、興奮気味に命令するワンの方を見る。 そして……


「……貴様ゴトキガ我ニ命令スルダト? ウルサイ蝿メ……貴様ハ我ヲ魔界カラ召還シタ時点デ役目ヲ終エテルノダ、勘違イスルナ」


「えっ? はえっ!? うがががががぁぁっ~~……」


 リッチから放たれた闇の瘴気がワンを包み込むと、ワンの身体はあっという間にドス黒く染まり、生きる屍……ゾンビと化した。


 自分を召喚してくれた人間を躊躇なく攻撃するとは……。 やはり魔族にとって人間は圧倒的に下等種族の扱いなのか。



「サア……次ハ貴様ラダ。 死ネイ、人間ドモガ」


 ジェイクたちがどれだけ物理攻撃をはなっても効果がなかった。 しかもリッチには、魔法による攻撃も効果が薄いと伝えられている。

 かといって、飛空艇にいるリッチには距離があって近距離攻撃も難しい状況……つまり、八方塞がりだな。


「クックック……魔族、よりにもよってリッチか。 まいったな、こりゃ。 ミア、光属性の魔法が使えるおめーなら、なんとか出来ねーか?」


「ゴメン、ボス。 私は光属性でも回復魔法しか使えない。 攻撃魔法は使えない……」


「だよなぁ。 おめーら、なんか手立てはあるか?」


 ジェイクですら半ば諦めた口調で呟く。 ジェイクの仲間であろうスネークやミア、他の団員もだが、皆絶望的な表情を浮かべている。


 闇の力に対抗する為には、光の力が効果的だ。 だが、人間は基本的に火・水・風・土の四大行の属性を操り、更には雷などの混合属性を作り出すが、光と闇は別物。

 闇属性の魔法は魔族の専売特許であり、光属性の魔法を扱えるのは選ばれた一握りの人間のみなのだ。


 光属性を使える人間の多くは教会に所属しており、主に回復魔法や除霊魔法を扱っている。 つまり、ミアの様に光属性では回復魔法がメインで、攻撃魔法となるとせいぜいゴーストを消滅出来る除霊魔法程度であり、高位の死霊であるリッチに効果的な攻撃を放てる者は、突発的に光属性に目覚めた選ばれし者のみとされている。



 そろそろ目が慣れて来た……とりあえずしっかりと状況を確認しよう。


 ジェイクたちを殲滅しようと、警察機構の兵士たちがわんさかいる上に、飛空艇……そしてリッチまでいる。 普通に考えたら、控えめにでも厳しい状況だろう。


「……ジェイク、どうやら運が悪かったな……」


「まったくだぜ。 まさか、ワンの能無し野郎が魔族に魂を売ってやがったとはな。 生身の人間ならいくらでも相手してやるんだが、流石の俺様たちも半分幽霊みてーな野郎を倒す手段は無え。 すまねぇな、ヴォルグ。 期待させちまって……」


 ジェイクが申し訳無さそうに頭を下げる。


 確かに、絶望的状況だ。 光属性の魔法を使える者など、まして、光属性の攻撃を操れる者など、世界中探してもそうはいないのだから。


 でも、ジェイクは一つ、重大な事を忘れているな。 それは、この俺が……ヴォルグ・ハーンズが何者であるのかを。



「……なあ、ジェイク。 運が悪かったのは、あの骸骨野郎のリッチの方だぞ?」


「ん? 何言って…………ああ!? そうか、ヴォルグおまえ、聖騎士だったよな!?」


 高位の死霊であるリッチに効果的な攻撃を放てる極々一部の選ばれた存在……それが光属性の力を持つ聖騎士、この俺、ヴォルグ・ハーンズなのだ。



「おいリッチ、おまえ、本当に運が悪かったな」


「何ヲ下ラン事ヲ……貴様モコノ間抜ケ同様ゾンビニシテクレルワ!」


 リッチから闇の波動が俺に向かって放たれる。


「ホーリー・シールド!」


 だが、光魔法で障壁を作ると、闇の波動は障壁に触れた瞬間に消え去った。



「…………ハァ?」


 その様を見て、リッチは骸骨なのに分かる程唖然としていた。


「どうした? 散々見下していた人間に、自慢の闇魔法が防がれて驚いてんのか? 悪いけど、骸骨だから表情が読み取れん」


「マ、マサカ、光属性!? オノレ~人間ゴトキガッ!!」


 リッチから無数の闇の波動が放たれるが、その全てを光の障壁が消し去る。


「コノ我ノ魔法ヲ、人間ゴトキノ光魔法デ……」


「残念だったな。 折角ワンを唆して召喚されたのに」


 リッチと俺のやり取りに、ジェイクたちも、警察の奴等すらも、最早傍観者でしかなかった。



「面倒だから一気に決めるぞ。 ……誰か、剣貸してくれないか?」


「あ……ああ、これで良かったら」


 スネークから手渡されたのは、可もなく不可もない鉄性の片手剣。 それでも、鉄パイプに比べれば充分過ぎる武器だった。



「んじゃ、俺の自由の為に消えてくれ、骸骨野郎! グランドクロス!」


 大きくジャンプし、リッチの目の前で剣を横に一閃、返しに真下から上に一閃する。

 これが光属性に目覚めた俺が、餓狼流剣術とミックスして編み出した究極奥義・グランドクロスだ。


「ナニィッ!? タダノ光属性ナラマダシモ、コレハ……マサカ貴様、聖騎士!? グギャアアアッ!?」


 光速の十字斬り・グランドクロスがリッチを斬り裂くと、十字の斬り口から光が溢れる。


「そうだよ、俺は聖騎士だ。 おまえにとって俺がこの場にいたのが運の尽きだったな、本当に。 ま、恨むんなら俺を嵌めた奴等を恨みな」


「グウオオオオアアアッ、コノ我ガァ、人間ゴトキニイイイイッ……」


 真っ白な光に包まれて、リッチの身体は跡形もなく消え去った……。



「ふぅ……一丁上がり」


 リッチを倒し、地面に着地した。


 一時はどうなる事かと思ったけど、これで少しはジェイクにも借りは返せたかな……ん?


「グルルウワアアッ!!」


 突然、ゾンビとなったワンが船首から飛び降り、に俺に向かって突進して来た。


 そういやゾンビになってたんだっけ? にしても、よりにもよって俺に向かって来るとは……いくらゾンビといえど、危機察知能力が無いのか?


「ちょっと可哀想だけど、悪魔に唆された自分を呪いな。 グランドクロス」


「ホギャアアアッ!?」


 ゾンビ化したワンもまた、リッチ同様呆気なく消え去った……。



 突然リッチが現れ、長官のワンがゾンビ化し、二人ともアッサリ消滅した様は、何も知らなかった警察機構並びにアルカトラウスの兵隊たちを呆然とさせるには充分なインパクトを与えた様だ。


「なあジェイク。 今って、ここから脱出するチャンスじゃないか?」


「ん? ああ……いや、この俺様までもが、まさか唖然とさせられるとは……ヴォルグ・ハーンズ、おまえが同じ最下層にいてくれて本当に助かったぜ」


「皮肉なもんだな……。 でもまぁ、おかげでジェイクにも会えたし、自由に生きるって新たな目的も出来た。 感謝したいのはこっちだよ」


 その後、まだパニックから回復してない警備を余所に、俺たちは暁の宴団が用意した小型飛空艇に乗り込み、脱出不可能と恐れられたアルカトラウス刑務所から無事に脱獄する事が出来たのだった。



 それにしても、まさか本当に脱出出来るとは……ついさっきまで思ってもみなかったけど、夢じゃないよな?

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