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餓狼の道~堕ちた英雄、自由を求めて旅に出る~  作者: Tonkye
アルカトラウス刑務所 篇
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第6話 脱獄

 ジェイクたちは去っていった。 スネークやミア、他にも仲間がいて、綿密な脱獄計画を立てていたのだろう。 それでも、このアルカトラウスの警備網には苦戦したと言っていた。

 やはり、そんな計画に俺というイレギュラーな存在は、計画自体を破綻させる可能性があると考えられる。 だから、これで良かったんだと、自分に言い聞かせる。



 ミアの魔法でダメージの回復はしてもらったが、痩せ細った身体が一年前に戻った訳ではない。 この身体では、どこまで動けるか分からない……正直、脱獄なんてそもそも無理なのかもしれないと理解はしている。


 それでも、ジェイクたちがくれたチャンスをただ棒に振るのはプライドが許さなかった。 例え無謀でも、最期まで足掻いてやる。



「身体は痩せ細っていても、今の俺は魔法が使える。 それでなんとか補えると良いが……」


 久しぶりに魔法で身体能力の強化をはかる。 一年間で体力は削ぎ落とされたが、魔力は満タンだったから。


 すると、魔力により、手足に力が漲って来るのが分かる。 ……ん? なんか変だな。


 身体能力は間違いなく落ちている。 なのに、身体を伝う魔力は一年前よりスムーズなのだ。


 これはもしかして、動けない間も、なんとか魔法を使おうとあれこれ悪足掻きをしてた成果か? それが、魔力のコントロールする能力を上げたのかもしれない。


 立ち上がると、思ってた以上に身体がスムーズに動いた。 ……これなら、脱獄の成功率が少しだけ上がるかもしれない。



 改めて、ここはアルカトラウスの最下層な訳だが、アルカトラウスは絶海の孤島だ。 最下層ともなれば、外は海中なのだ。 だとすると、やはり脱出ルートは上へ登らなければならないだろう。


「よし……行くか」


 身体の調子を確かめていた為少し遅れたが、ジェイクたちの後を追う様に走り出した。


 凄い……強化された魔力のおかげで、一年前ほどではないものの、問題なく身体を動かせている。 これなら、ジェイク達に着いて行っても足手まといにはならなかったかも。



 階段を昇ると、至る所が爆発され、煙が充満していた。 こんな地下層では煙の抜け場もなく、長く居たら窒息死してしまうだろう。


 魔法とは違う武術……瞬足を発動し、一気に駆け抜ける。 やはり、思いの外身体はスムーズに動いてくれた。 囚人か警備の人間かは分からないが、何人かが倒れていたのを全て無視して駆け抜ける。



 更に上の階に辿り着くと、牢屋に閉じ込められたままの囚人たちがパニックを起こしていた。


「おーい! 俺も出してくれー!」


「火事か!? 出せよ! 死んじまうだろ!?」


 見つかると面倒だなと考え、スキル・隠密を発動し、下層階を突破する。



 そのまま階段を駆け上がると、大分人が多くなってきた。 恐らく中階層だろう。 多くの囚人たちが、我も我もと暴れ出し警備隊と衝突して大暴動を起こしていた。


 だが、隠密と瞬足の合わせ技により、誰も俺に注目する者はいない。 ジェイクたちがわざと囚人たちを解放し、混乱を招いてる隙に自分たちは脱出するつもりだったのだろう。


 俺もまた、囚人とアルカトラウスの警備隊が交戦している隙をつき、ジェイクたちが残した気配を追いながら、更に上へと進む。


 ……本当に、こんなに身体が動くんなら、ジェイクたちと一緒でも足手まといにならなかったかもしれないな。 まさか、低下した身体能力を魔力と技術力がここまで補ってくれると思ってなかったから仕方ないが。



 上層階もまた、同じ様に囚人の暴動が巻き起こっていた。 それは今の俺にとっては好都合でしかない。


 ここまでは、自分でも驚くほどに順調に進んでいた。 全て、先を進んでいるジェイクたちのおかげなのは明白だが、この分だと本当にジェイクと再会出来るかもしれないな。


 そんな事を考えていると、前方で不穏な気配を察知した。


 ……戦ってるな……。 しかも数人の強者の気配を感じる。 この気配……もしかして、ジェイクたちか!?



 急いで交戦している場所へ向かっていると、その方向から声が聞こえて来た。


「ボス! 早く逃げてくれ! アンタが無事なら俺はどうなったって良い!」


 それは、先程出会ったばかりのスネークの声だった。



 俺は咄嗟に物陰に身を隠し、状況を見つめる。


「くだらん事を言うな、スネーク! 部下を見殺しにするなど、俺のプライドが許さん。 さあ、掛かってこい、公僕どもがっ!」


 倒れてるスネークをミアが手当てしている。 そして、その二人を庇うように、ジェイクが警備隊四人と向かい合っていた。


 そして、四人組の一人が警棒を片手に、ジェイクに向かって小憎らしい笑みを見せた。


「フン、まさか本当にこのアルカトラウスにまで救出に来るとはな……流石は天下の大盗賊団だ」


 今度は別の男が一歩前に出る。 四人組は皆同じ制服とベレー帽を被っているので、俺のいる場所からは顔の判別はつかないが、俺は彼らを知っていた。


「だが、この俺たち“アルカトラウス・デス・カルテット”から逃れられると思うなよ?」



 アルカトラウス・デス・カルテット……。


 彼らは、このアルカトラウス刑務所において、問題行動を起こした者や脱獄を試みた者を始末する事を生業とした処刑人たちであり、難攻不落・脱獄不可能のアルカトラウスにおいて、切り札的存在だ。

 この四人に相対した者は、どんな脱獄者でも処刑されるという恐ろしいチームだったハズ。 たしか、一人一人の実力は一国の上位騎士……ハンターで例えると全員Aランク以上と言われてる。



 ジェイクがどれだけの戦闘能力かは分からない。 だが、アルカトラウス・デス・カルテットの噂が本当であれば、ジェイクが四人を一人で相手するなど無謀だ。 なんせ彼らは……


「死ねっ! ジェイク・コールマン! これがデス・カルテット・フォーメーションαだ!」


 四人組ならではの連携……それこそが、彼らの最も恐れられる要因の一つと言われている。


 早速四人が、前後左右からジェイクを取り囲み、一人一人、少しずつタイミングをズラしながら、延々と攻撃を繰り返す。 このコンビネーションこそが、彼ら四人の真骨頂と言われていた。



「小賢しいわ!」


 だが、ジェイクも嵐の様なカルテットの攻撃を、俊敏な動きで全て躱していた。


 速い……あの身体で、なんて身のこなしだ。



 だが、まだアルカトラウス・デス・カルテットからは余裕が感じられる。 彼らにコンビネーションは一つじゃない。


「中々やるな……ならば、フォーメーションβだ!」


 カルテットの二人が警棒を巧みに操り、手数重視の細かい攻撃でジェイクの動きを封じ込む。 その隙に、残りの二人が強攻撃を繰り出そうとしていた。


「ぐぬっ……これはマズイな!」


 ジェイクの表情から余裕が消えた。 このままだと攻撃を喰らってしまいそうだ。


「死ねえぇ! ジェイクゥゥッ!!」


 今まさに、カルテットの残り二人がジェイクに飛び掛かろうとしていた……が!


 俺は即座に瞬足を発動、更には脚力を強化し、ジェイクに飛び掛かろうとしていたカルテットの二人に蹴りを喰らわせ、そのままジェイクの前に降り立った。


「何者だっ!?」


 壁に激突して倒れる二人を余所に、ジェイクを攻撃していたアルカトラウス・デス・カルテットの一人が、俺の存在に気付く。



 突然の登場に、スネークとミアは驚きを隠せないようだな。 先程最下層では明らかに衰弱していたから。


 だが、ジェイクは違った。 まるで、俺が自分たちに追い付いて来る事を確信していたかの様に、笑みを浮かべていた。


「クックック……流石は英雄だな。 あんだけ悲壮な雰囲気出して別れといて、もう追い付いて来たのか?」


 思えば、最下層ではいくら炎の灯りがあったとはいえ、暗くてよく見えなかった。 だから、俺がジェイクの顔をまともに見るのはこれが初めてなのだが、ジェイクの顔はなんともロマンスグレーの似合う伊達男と云った印象だった。


「身体は弱ってたけど、魔力は満タンだし、思ったより身体能力強化が効いてね。 どうやら、一年の間に魔力の練度が上がったみたいだ」


 確かに悲壮感満載の別れをしといて、こんなに早く再会するとは思ってなかったので、そう言ってジェイクに笑みを返す。



「貴様~、何者だと聞いてる!」


 カルテットの一人が顔を真っ赤にしている。


「一年間も最下層に閉じ込めておいて、俺を知らないのは酷くないか?」


「最下層? ……まさか、ヴォルグ・ハーンズ!?」


「まさかもなにも、まんまだろ?」


 ヴォルグ・ハーンズがアルカトラウス最下層に幽閉されている事は、カルテットも当然分かっていたハズだ。 だが、もうとっくに死んでると認識していたのかもしれないな。 ……そういや、髪も髭も伸びっぱなしだし、身体も痩せ細ってるから分からないのも仕方ないか。



 そして、俺の名を聞いたスネークもまた、驚きを隠せずにいた。


「ヴォルグ……ハーンズ? なんでリングース王国の聖騎士が!?」


 スネークは驚きながらも、何故先程、俺の名前を教えてくれなかったのかと、ジェイクに疑惑の視線を送る。


「なんだ? だから悪党じゃなく、英雄だと言っただろう?」


「いや、でもヴォルグといったら、国王殺しで……まあ、それならアルカトラウス最下層にいるのも納得ですが……」


 スネークのイメージとしては、今の俺は確かにヴォルグ・ハーンズだが、英雄というよりは恩人を殺した殺人犯なのだろう。


「冤罪だ……ヴォルグは、何の罪も犯しておらん」


 ジェイクは、俺が冤罪だとハッキリとスネークに言い切ってくれた……。


 たった一週間足らずの関係だったのに、ジェイクは自分の言う事を信じてくれてるんだと思うと、それだけで嬉しくなっていた。

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