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第27話 王位継承権争い

 とは言ったものの、騎士団だった頃の俺の戦闘スタイルは餓狼流剣術であり、世界各国の猛者が憧れる程に正道だった。 それでも、邪道だとされる双剣の、狼牙双剣術が劣ってるとは思っていない。


 極論を行ってしまえば、要は流派や武器の優劣など、どうを使うかではなく、誰が使うかなんだ。 ……ある意味、餓狼流なんて立ち上げた俺が言うのもなんだが。



「ほざくな出来損ないがっ!」


 ピットブルが踏み込んで大剣を下から打ち上げる。 俺に言われたからか、今のはしっかり手首が返された良い太刀筋だった。 だが、俺はそれを掻い潜り、ピットブルの懐に潜り込んだ。


「何ッ!?」


 喋って時間を稼いでる間に身体の痺れは完全に収まったが、腕の方はまだ若干痺れてる。 それでも、この状態の俺の動きに、ピットブルは反応出来なかった。


「互いが剣という一撃で勝敗を分ける得物を持って戦う際に優先されるのは、パワーよりも圧倒的なスピードだ!」


 これは俺の持論だし、身体能力強化や防具で防御力を高める事が出来る現状、最低限のパワーは必要ではあるが。


「ぬうっ、すばしっこい奴め!」


 ピットブルから、一振りの風圧で常人なら首根っこを持っていかれそうになる程の斬撃が繰り出されるが、それを躱しながらカウンターでピットブルに斬撃を与える。


「どうした? 双剣は邪道なんだろ?」


「ぬぐぐっ、舐めるなよっ!」


 ピットブルがまたも狼牙を繰り出す。 それを俺は、降り下ろしを横に躱した上に、下からの打ち上げに合わせてカウンターで脇腹を切り裂いた。 技の特性を知っているからこその芸当といえる。



「がはっ……貴様、それだけの力があって、Bランクだと?」


 まだ立ってやがる。 恐ろしい程頑丈な身体だな……。 だが、ここに来て漸く腕の痺れも収まって来た。


「ああ、あくまでBランクだ!」


 一気に決めるつもりで、先程ザックスが放った餓狼流剣術・狼群の、狼牙双剣術版を繰り出す。 手数の多さは双剣である事により数倍に上がり、更にはその全ての一太刀に手首で微調整を施し、より疾く、より鋭く、軌道すらも変幻自在に操る。


「なっ!? うぐわあああっ!?」


 繰り出される無数の斬撃に、ピットブルの反応は追い付かない。 スピードで圧倒されてしまえば、大剣は邪魔でしか無くなるのだ。



 身体を斬り刻まれたピットブルが、朦朧とした表情で俺に呟いた。


「き、貴様程の剣士が……何故ターニャ殿下に……」


 何故? ……まあ、一つ言えるのは……。


「そうだな……恨むんなら、俺を嵌めた奴等を恨みな」


 そう、どこまで行っても、全てはそれが原因なのだだ。 俺が、この場所にいるのは。



「特別に、おまえの使っていた技を、双剣で披露してやる」


 飛び上がり、落下の勢いに合わせて左腕の剣を降り下ろし、間髪入れずに右腕の剣を高速で打ち上げる。 双剣版の、両手での狼牙だ。


「がはあっ!?」


 ……ほぼ同時に、上と下から斬られたピットブルの身体から大量の血が吹き出し、俺の身体を血で染めた。



 返り血を全身に浴びた俺は、残されたピットブルの部下達を睨み付ける。


「降伏するならその場に屈め。 逃げるなら……殺す」


 絶対的強者であるピットブルが倒された様を見せられた部下達は、抵抗も逃げる事もなく、おとなしくその場に屈んだ……。 まあ、本当に殺すつもりなんてなかったけど。



「ふぅ……一件落着、かな?」


 ザックスをはじめ、リリアやターニャちゃんも、血に染められた俺を青ざめた表情で眺めている。


 ピットブルは、間違いなくかなりの実力者だった。 その頑丈なピットブルを確実に倒すには、圧倒的手数……回転力を利用するのが最良と考えたのだが……一応、急所は避けたから生きてると思うが、放っておけば出血多量で死んでしまうだろう。


 でもまあ、ザックスはともかく、今の俺の姿はターニャちゃんやリリアには刺激が強過ぎたかな?



 この格好では車を汚してしまう。 それに、王族であるターニャちゃんと一緒にいれば面倒ごとに巻き込まれそうだし、双剣術の方は知らないとは云え餓狼流剣術を習得するザックスとは、これ以上行動を共にするのは危険だと考える。


 ……よし、これを機に別れよう。



「すっかり服が汚れてしまったし、俺は適当に何処かで水浴びをしてからベラドールに向かうよ。 じゃあ、後処理は任せた」


「えっ? ちょっと、ガロウ様っ!?」


 そう言って、俺はターニャちゃんの声を聞こえないフリして、逃げ出す様にその場を立ち去ったのだった。



 ◇



 残されたターニャたちは、ガロウを呼び止めようとはしたが、誰一人追い掛けようとはしなかった。


 ……恐ろしさを知ったから。


 スタンピートの際、ガロウの超人的な強さは目の当たりにしていたが、今回は知っている人間……ベラドールでもトップクラスの実力者であるピットブルを圧倒したのだ。


 返り血を浴びたガロウを見て、ザックスは知ったのだ。 自分などでは到底辿り着けないであろう存在の、強さと残酷さを。


「あのピットブルを、いとも簡単に……」


 ザックスが、ピットブルの生死を確認している。


「……凄い、あれだけの攻防だったのに、全て急所を外してる……。 でも、このままだと危険なのは間違いない。 ターニャ、コイツ等全員城に連れて行き、陛下に突き出そう。 そうすれば、ラウジーニャ殿下を……」


「無駄ですよ。 この者たちを御父様に突き出しても、ラウジーニャ御兄様は既に手を回してるでしょう。 どんなに私たちが御兄様の関与を訴えても、詳しく調べられる間も無く全員処刑されるか、もしくは私たちの方が難癖を付けられて、御兄様の部下であるピットブルを攻撃したと責め立てられる可能性だってあります」



 ターニャが城を飛び出した理由の一つが、兄たちによる後継者争いだった。


 王位継承権の第一位である第一王子・『ロナウジーニャ』と、同二位で第二王子のラウジーニャ。 まだ幼い第三王子の『ロビーニャ』が第三位で、長女のターニャは第四位、次女の『サーニャ』が第五位となっている。


 順当に行けばロナウジーニャが王の後を継ぐのが既定路線なのだが、ラウジーニャが対抗し、両者の力関係は拮抗してるのだ。


 理由として、ロナウジーニャは文武共に平凡で大人しい性格なのに対し、ラウジーニャは神童と呼ばれる程優秀で、その上野心家だった。 

 二人は年齢が近い事もあり、ラウジーニャ本人も、支持する貴族達も、次期国王に相応しいのはラウジーニャだと言っているのだ。


 ターニャに縁談の話を持ちかけて来たのも、 実はラウジーニャだった。 派閥の基盤を磐石にする為に、中立を保っていた公爵家にターニャを嫁がせようと画策したのだが、ターニャはそれを拒んで逃げ出した。


 今回、ラウジーニャがターニャの身柄の確保を企てたのだとしたら、ターニャが縁談を反故にしたのは、ラウジーニャにとってかなりの痛手だったのだろう。 もしかしたら、身柄の確保ではなく、仕返しで暗殺を企てた可能性だってあるかもしれないのだ。



「同じ王族であり妹であるターニャを拐おうとしたんだぞ!? そんなの、許される訳がない!」


 ザックスは、王族の後継者争いになど縁が無いのだろう。 その、目的の為ならなんでもするドロドロとしたおぞましい骨肉の争いに。


「この件は、私の方から御父様に報告はしてみます。 でも、問題にはならないでしょう……」


 悔しいが、現国王も高齢であり、後継者の決定は急務だ。 その後継者争いの有力派閥であるラウジーニャを、決定的な証拠も無く断罪する事は無いだろう。



 それより、ターニャはガロウが去ってしまった事にショックを受けていた。 一度二度ならず、三度も命を助けてもらい、その恩を返す事も出来ていなかったから。


「ターニャ、今はガロウの事を考えてる暇は無いわよ。 第二の刺客が来ないとは言い切れない、一刻も早く城へ戻りましょう」


 さっきまでガロウに御執心に見えたリリアも、今は別人の様に表情を切り換えてる。 こういう所は、ターニャは流石にリリアは自分とは経験量が違うと感心する。



「……でも、誰がピットブルを倒したかは隠し通せない、ガロウさんの事は報告しなければならないだろうな」


 確かに、捕らえたピットブルの部下達を生かしておくのなら、全員の口を塞ぐ事は難しいだろう。 実力的にも状況的にも、ザックスが倒したとは信じられないだろうから。


「そうですね……でも、下手したらラウジーニャ御兄様がピットブルを倒した事の責任を追及するかもしれません。 私のせいでガロウ様を王位継承争いに巻き込みたくはありません……」


 ターニャの知っているラウジーニャなら、自分の事を棚に挙げてガロウを糾弾する可能性は充分にある。


 あんなに自由を渇望していたガロウを、ターニャは絶対に巻き込みたくはないと思っていた。


「ラウジーニャ御兄様の思惑が、私の身柄を確保する事だったのか、それとも暗殺だったのかは定かではありません。 でも、私が襲撃されたのは事実です。 その件と引き換えにしてでも、私が必ずガロウ様を守りましょう」



 ……考えれば考える程、ターニャの中でラウジーニャに対する怒りの感情が沸き上がって来た。


 勝手に縁談を決め、ターニャが逃げた腹いせに殺そうとしたかもしれないのだから。



(終いにはガロウ様まで巻き込もうとするのなら……私だって黙ってはいないわ……)

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