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第24話 出発

 朝……久しぶりに拝む朝日は、寝起きの身体にエネルギーを注ぎ込んでくれた。



 それにしても、昨日はとんでもない一日だったな……。


 ジェイクと出会い、脱獄し、魔族を倒し、スタンピードに巻き込まれた。 これでもかというくらい、イベントを色々と詰め込み過ぎの一日だった。



 そんな、運命の変わった一日を終え、新たな朝を迎えた。


 スタンピードでは結局人間側の死者は○。 負傷者を数名出したが最小限の犠牲で済んだ事もあり、ディープの町は既に普段通りの日常を取り戻してる様にも見える。


 昨日一日、自由について色々と複雑に考え過ぎたのだが、まあそれもまた自由だと割り切る。



 ロビーへ移動すると、宿屋の店主が朝食の準備をしていた。


「あ、おはようございます、ガロウさん! ちょうど朝御飯の準備が出来たんで、食べて下さいな」


「ありがとうございます……でも俺、今持ち合わせが……」


「そんなのいいって言ってるじゃないですか! アンタがいなかったら、俺は今頃この朝飯も作れてなかったんですから。 気にしないでどんどん食べてって下さいな」


 うう……、一年間孤独を味わった心に、人の温かさが身に染みるぜ……。



 手に取ったパンは柔らかかった。 今思えば、あの刑務所の硬い岩パンはなんだったんだと悲しくなる。

 スープも温かい。 ……今思えば、よく天井から落ちるカビ臭い水滴なんて飲んでたなと悲しくなる。


 目玉焼き! アツアツジューシーな食感に舌鼓を打つ。


 ……うう……美味しいご飯って、なんて素晴らしいんだ。


 ジェイクの所の携帯用非常食を遥かに上回る食事に、ガロウの目からは自然と涙が零れていた。



「ガロウさん……俺の料理で涙まで……ぐす、おかわりいっぱいありますんで、好きなだけ食って下さい!」


 結局、俺はふっくらロールパンを三○個、野菜のポタージュスープを一○杯、目玉焼きを二○枚平らげた。 おかげで減量明け? の胃がビックリしている。



 その後、宿屋の主人に深々と御礼をし、宿屋を出た。


 さて、昨日の件もあるし、コピロフさんやターニャちゃん、特にリリアと会うのは気まずいので、このまま町を発とう。



 門までの道のりで、俺を見つけた町の人々は皆俺に感謝してくれて、町を出ると言えば早過ぎる別れを惜しんでくれた。


 そんなこんなで歩いていたので、結構時間を食ってしまった。


「……げっ」


 漸く門の所に辿り着くと、そこには既にギルドマスターのコピロフと、ターニャたち一向が立っていた。


「げっ、ってなんですか? ガロウ様」


 ターニャが優しく微笑んでくれる。 その足下には、まとめられた荷物が置かれていた。


「おはようございます、ガロウさん! ……やっぱり、ガロウさんもこの町を出て行くんですね」


 いつも好青年のザックスは今日も爽やかだが、ガロウも? という事は……。


「え? 皆も、もうこの町を出るのか?」


「ハイ、一度故郷に帰る事にしたんです」


 ターニャがニッコリと返事をする。


 故郷か……。 昨日は色々あったし、暫く休暇を取るつもりなのかな?



「そうか。 まあ、ハンターも大変な職業だから、たまには休暇も必要だよな。 ゆっくり休んだらいいよ……って、ところでザックス、やっぱりってなんだよ?」


「……昨日の様子からして、多分そうなんじゃないかってターニャとも話してたんですよ。 で、折角だから待ってたんです」


「ハイ。 ガロウ様には、改めて御礼もしたかったですし……」


 ちょっとターニャちゃんの表情が曇ったぞ? もしかして、ただの休暇って訳じゃないのかな……。



「それで、ガロウはこの町を出てどこに行くのよ~?」


「おわっ!? き、急に抱き付かないでくれ!」


 リリアが俺の腕に抱き付いて来る。 またもたわわが腕に……おっと! こんな所で鼻の下を伸ばす訳にはいかん!


「…………リリア、随分ガロウ様と親しくなったみたいですけど……いつの間に?」


 すると、隣から氷の様な空気を漏らすターニャが、無表情で俺とターニャを睨んでいた。


 ……この冷たい視線、なんか懐かしいな……。


「ん~? 昨夜ちょっと、私がガロウの上に乗ってエロエロ……じゃないや、イロイロとね~」


 なっ!? なんちゅー誤解を招く発言を!?


 突然のリリアによる爆弾発言に、ザックスとガンツは呆れた視線で俺とリリアを見つめ、そしてターニャは……


「な、なんですって!? ……ガロウ様、本当なのですか……?」


 上目遣いで、今にも涙を溢しそうな表情で見つめて来た。


 ええーっ!? なんでそんなに悲しげな顔してるのよ! それにザックスもガンツも! なんか、俺が物凄く悪い事したみたいじゃないか!



「オホン、流石は英雄だな。 ガロウさん、リリアの事、宜しくお願いしますね」


「ハッハッハ、おまえもとんでもない女に捕まっちまったな、ガロウさんよ!」


 こ、こらっ! ザックスとガンツまで、完全に誤解してるじゃないか! ああ~、俺のキャラが~!


「違う違う! 昨日はただ、疲れてた俺にリリアがマッサージしてくれただけだって! ちょ、リリアもなんとか言ってくれ!」


「え~、女の私に恥をかかせる気~? ……って、冗談だって! ターニャがヤキモチ焼くもんだから面白くって! ごめんね~、ターニャ」


「え? もう~~、リリア!」


 そう言ってリリアはターニャを背後から抱きしめる。


 ……これはこれで尊いな……。



「で、ガロウさんはどちらへ向かうんですか?」


「ん? ああ、海鮮料理を求めてベラドールまでね。 ま、気ままな旅って所だ」


「そ、そうなんですか!? 俺たちも目的地はベラドールなんですよ!」


 奇遇というか、ベラドールは王国の王都なんだから、同じ目的地になる確率は高かった。


「……そうだ! ガロウ、良かったら一緒に行かない? ね、ターニャもその方が良いでしょ?」


「えっ? ……ガロウ様が良ければですけど……」


 一緒にか……。 思えば、脱獄してジェイクと別れて、一時間もしないうちにターニャちゃんと出会って、ザックスたちとも一緒に危機を乗り越えた。 ある意味凄い縁だよな。


 ここからベラドールには、のんびり歩いて向かうと二日は掛かる。 一人も気楽かもしれないが、ザックスとターニャは良い奴だと思ってるし、ガイルもまあ悪い奴じゃない印象だ。 リリアも仲間たちの前で襲っては来ないだろうから、一緒に行動するのも賑やかで悪くはないかもな。



「それではガロウ様、間も無く“魔動車”が迎えに来るので、良かったら……一緒に乗って行きませんか?」


 魔動車とは、魔力を動源として走る四輪駆動の乗り物だ。


 魔動車は高価な乗り物であり、所持しているのは一部の貴族と大商家等の裕福な家庭である。


 もしかして、四人の内誰かは大金持ちの生まれなのか?



 ……すると、タイミング良く魔動車がやって来て、ターニャの側で停車した。


 ただでさえ魔動車など自分が乗る事はなかったので縁はなかったのだが、今目の前に停まってる魔動車は、黒光りした豪華な外装だった。 こんな立派な外装の魔動車、リングース王国だと乗ってるのは王族ぐらいだぞ?



 すると、今まで黙っていたコピロフが、神妙な表情で近寄って来た。


「ガロウさん……昨日は、言い過ぎました」


 コピロフが頭を下げる。


 ハゲとるやないかい!? ……とは絶対に言えないな。


「いや、俺もコピロフさんの言った事は全て正しいと思ってます。 だから、頭を上げて下さい」


「私は……ハイランクハンターの心得を貴方に押し付けてしまった。 人を助けるのも、金を稼ぐのも、それぞれの目的がそれぞれ違うのが、ハンターズギルドが他の組織と異なる自由な組織である利点なのに」


 そう言って頭を上げると、コピロフは胸元からカードを取り出した。


「これ、再発行したギルドカードです。 ランクはBランクのままです」


「えっ……良いんですか?」


 昨日のやり取りがあったから、Bランクのギルドカードの再発行は諦めていたのだが……。


「力有る者は、力無き者の為に戦わなければならない……誰に何と言われ様と、私はハンターズギルドの理念を信じています。 ですが、Bランクでもそれは実行出来る……貴方ならきっと、これからもそう行動してくれると思ってますから」


 ……人を助けるのも、助けないのも、どっちも自由だ。 なら、自分で判断し、助けられるのなら助けたい。 それもまた自由だと、俺は割り切ろうと決めたんだ。 例え、本来ならAランク以上が担当する高難易度な任務でも、自分の手が届くのなら……。


「ありがとうございます、コピロフさん」


 期待に応えます……と言うのは避けた。 でも、コピロフは固い握手をし、別れの挨拶を済ませた。



「さ、それでは乗って下さい」


 ターニャに言われるがまま、車内へ誘われる。 運転手を除くと四人乗りなのだが、これだと全員は乗れない。


 だが、ガンツはハンターとして、パーティーを代表してスタンピードの後処理の為に町に残るらしく、助手席にザックス、後部座席に左からターニャ、俺、リリアと乗り込んだ。


 ……狭いんだけど嬉しい……けど、両手に花過ぎてこんなん緊張するわ!



 魔動車、飛空艇、海洋船などは全て、魔力が動力となり、風や炎を創り出して動いているのだが、この魔動車は流石に高級車である。 魔力と魔法の練度がスムーズだから、走行中の音が静かだった。


 ……おかげで車内が静まり返って微妙な空気になってしまってる。 原因は、左隣に座るリリアが、俺の腕に抱き着いているのを、右隣に座ってるターニャが、凍てつく波動を放出しながら睨んでるからなのだが……。



 俺、やっぱり一人で歩けば良かったな……。

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