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第21話 ハンターの心得

「…………人違いです」


 思わず、コピロフの言葉を咄嗟に否定してしまった。


 確かにガロウという名は、騎士学校の入学金と学費を稼ぐ為にハンター活動をしていた頃の登録名だ。


 でも、あの時は仮面で顔を隠していたし……そもそも、なんでこのオッサンが、昔の俺を?



「いえいえ、誤魔化そうとしたって無理ですよ。 あれ程見事な双剣術は一度見たら忘れません。 そもそも、ガロウという名は珍しいですし。 貴方は昔、リングース王国領内で数々の伝説を残した、あの双剣のガロウさんですよね?」


 完全にバレてる!?


 でも……そもそもヴォルグとガロウが同一人物だとバレなければいいのだ。 だったら、別に俺がガロウだと云う事はバレても良いんだよな。


「まさか、一○年前に突如として姿を消したのに、またお目にかかれるとは……。 私、あのケオケでのスタンピード以来、貴方の大ファンだったんですよ。 それにしても一○年間も何をされてたんですか?」


 一○年間は、学費を充分に稼いだから学業に専念し、卒業後も騎士として忙しかったからハンター活動する暇も無かったんだよな。


 でもまあ、やっぱりハンターのガロウと、騎士団のヴォルグが同一人物だとは分かっていないみたいだし、ここは認めてしまった方が早いだろう。


「……バレたら仕方ないですね、そう、俺は昔、ハンターとして活動してました。 ですが一○年前、自分の力不足を痛感しましてね……ちょっと山籠りの特訓をしたり、色々とあったんですよ」


「あの強さで力不足と? ……でも、確かに先程のガロウさんの戦いは、一○年前から更に動きが洗練されてる気がしましたな」


 やっぱり、双剣のガロウであった事は認めしまっても問題はなかったな。 だとすると、新たに登録し直す必要もないのかな?



 すると、ザックスが興奮して問い掛けて来た。


「ちょ、ちょっと待って下さい! コピロフさんの言ってた一○年前のハンターって、本当にガロウさんなんですか?」


 コピロフが頷くと、ザックスが羨望の眼差しを向けてくる。 この分だと、折角口調がフランクになりつつあったのに、元に戻りそうだな。


「……そうだ。 でも、別に畏まらなくて良いぞ。 今で通り、敬語は不要だ」


「……やっぱそれは無理です! それで、だとしたらガロウさんは一○年前は本当に一六歳だったんですよね? それでスタンピードを一人で収めちゃったのか!? ありえない……俺が一六歳の頃なんて、まだ学園に通ってる青二才だったのに……やっぱり凄すぎる」


 その頃は俺もまだ騎士学校に通いながら、長期の休みだけバイト感覚でハンターをしてたいたのだが。


 それに、なんか話に尾ひれが付いてるな。 あのスタンピードは、ケオケを拠点とするハンターたちが必死に戦ったから勝てたんだ。 今回と違ってAランクの冒険者も数人いたし、決して俺だけの力じゃなかったのに。



「マジかよ……つーか、二七って、俺より一つ歳下かよ!?」


「ガロウ様……やっぱり二七歳だったんですね。 メモメモっと……」


 そりゃおまえよりは歳下だろう、ガンツよ。 おまえは見るからにアラサー……いや、アラフォーだぞ?


 そしてターニャちゃん、別にテストには出ないからメモらなくていいぞ?



「それで、コピロフさん。 俺、実はハンターカードを失くしてしまって、面倒だから新たに登録し直そうかと思ってたんですが、俺がガロウだと認識してくれているのなら、再発行してもらえると助かるんですが……」


 実際、また最下位のEランクからスタートだと、ある程度稼げる様になるまで時間が掛かるのだ。 どうせガロウという存在がバレているのなら、Bランクから再開した方が都合が良い。


「いいですよ、任せて下さい。 本当は凄~く面倒な手続きが必要なんですけど、あの双剣のガロウさんたっての頼みなら、直ぐに再発行させて頂きますよ」


 良かった~! 確かギルドカードの紛失って、本来はペナルティがあったり、再発行も面倒だったハズなんだけど、それが免除されるなら願ったり叶ったりだ。



「それで、ガロウさんよう。 アンタはそれだけの実力があって、なんでAランクに昇格してねえんだ?」


 ザックスとは異なり、歳下と分かったからか、ガンツが馴れ馴れしく話し掛けて来た。


 ザックスには気軽に接しろとは言ったが、おまえが俺の事をオッサン呼ばわりした事忘れた訳じゃねーからな?


「そうですよ、ガロウさん。 俺ですらAランクに昇格できたんだ、ガロウさんが残した伝説を加味すれば、とっくにSランクに昇格しててもおかしくないのに」


 ん〜なんて言ったらいいのかな。


 騎士を目指していた俺にとって、Sランク……Aランクすら、弊害でしかなかったからなのだが。



「コピロフさん! ガロウさんの残した伝説って、他にはどんなのがあるんですか!?」


 伝説って……ザックスの俺を見る目が眩しい。 俺はただ依頼を忠実に片付けてただけなんだけどな。


 ……とりあえず、なんでターニャちゃんはいちいちメモ帳を開いてるんだ?


「そりゃあもう色々あるよ。 スタンピードの件は勿論、リングース領最凶最悪の犯罪組織壊滅。 レベル6の魔獣討伐。 そして、スタンピードによる活躍。 どれか一つでもAランク……功績全て加味したら確実にSランクに昇格出来たのに、なんで拒んだのか、私も気になりますね」


 Aランク以上を拒んだ理由……。 当たり前だ、当時はまだ騎士を目指す為に騎士学校に通っていたんだ。


 ハンターはAランクになると、国からの指名依頼が来る様になり、その依頼は余程の事がない限り断れない。 ハンターとしてはそれこそがステータスとなるし、当然、報酬はBランクの頃と比べものにならなくなる。

 ハンターは基本誰でも登録出来るので、最初の審査は案外甘い。 でも、Aランクに上がる段階で、人格や出生に問題があると不味いので、素性を細かく審査されるのだ。


 騎士学校は格式が高く、ハンターとしての活動など認められてなかったから、バレたら退学になってしまう。

 スタンピードの件をクリアした時に、もうこれ以上Aランク昇格を拒むのは無理だし、当面の学費分の金は貯まったと判断し、ハンター活動を辞めたのだ。



 それから一○年が経ち……一年間の獄中生活を経て、ヴォルグ・ハーンズは近々国王殺害及び脱獄の罪で、全世界に指名手配されてしまうだろう。


 だからこそ、俺は生まれ変わって自由に生きると決めたのだ。 素性がバレてしまうリスクは少しでも回避したいし、その上色々と束縛される可能性があるAランクは今回も避けたいと考えてる。


「……縛られるのが嫌なんだ。 だから今後もBランクで活動しようと思ってる」


 この言葉に、今までニコニコしていたコピロフの顔色が変わった。


「……ガロウさん。 これまでも多くの人を救ってくれたであろう貴方にこんな事言うのは私も気が引けますが、この世界は、まだ誰もが平穏安全に生きていける世界じゃありません。 日々、どこかで誰かが、魔獣や悪党に殺されてる。 そして、犠牲になるのは力弱き者達から……そんな脅威の犠牲になってるんです。 だから、ハンターがいるんです。 力のある者は、その力を正しく使う義務がある。 その為のハンターランクなんです。 ……と、私はギルドマスターとして信じています」


 ……コピロフの言う事は分かる。 ハンター登録する際にも、その文言はハンターの心得として教えられる内容だ。


 でも、ひねくれた考えだと言われるかもしれないが、俺はこれまでずっと戦って来たんだ。 愛する人達と、愛する国の為に。


 なのに、俺を待っていたのは暗い地下牢だった。


 ……もういいだろ? 奇跡の様な出会いを経て、奇跡の様にあの地獄から抜け出す事が出来たんだ。


 もういいだろ? これからは、自分のためだけに、自由に生きても。



「この一○年……俺には、多分コピロフさんが想像も出来ない程の出来事があった。 常に人の為に戦って来た……でも俺を待っていたのは、裏切りと地獄だった。 だからこれからは、ただ自分の為だけに、自由に生きたいんだ。 それでも、これからも俺に人の為に生きろと、犠牲になれと、そう言うんですか?」


 コピロフはジッと俺の目を見つめて、それでも力強く頷いた。


「ええ。 それが、力ある者の……ハンターの心得です……」



 ……まあ、それが正解だよな、うん。


 俺だって、自分の力は人を助ける為にあるんだって、ずっとそう思って戦っていたのだから。


 でも……それでも、自分の身に降りかかった理不尽を許せなかった。


 どんなに頑張っても、どんなに人の為に戦っても、裏切られ、冤罪で投獄される様な理不尽を。



 なんか……なんとも重苦しい雰囲気になってしまったな。 でも、俺にはコピロフの意志を否定も出来ないし、真実を話す訳にもいかない。


 だから、ただ微妙な笑みを浮かべて、逃げるようにその場を後にした……。

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