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第15話 ハンターたちの焦燥

 ◇



 ガロウがまだ黒炎野郎と遭遇する少し前……Aランクハンター・ザックス達は、全速力で森を抜けた所にある町・“ディープ”へ向かっていた



「それにしても、まさか実際にスタンピードが発生するなんて!」


 ザックスはAランクのハンターだ。 だが、スタンピードに遭遇するなど滅多にある事では無く、焦る気持ちを抑え切れていない。


「ええ、でも一先ずはガロウ様がいてくれて助かりましたし、私たちは出来る事をやりましょう」


 ガロウと出会ったのは、『ターニャ』にとっても奇跡と云えた  仮に、町まで救援を呼びに戻ったとしても、あれ程の実力者はいやしないのだから。


「にしても、あのガロウって奴は何者なんだ? あの強さ……本当にSランクハンターだって言われても納得しちまいそうだぜ」


 ガンツも強さだけならAランクと遜色無い実力者だ。 そのガンツをして、ガロウは計り知れない強さを誇っていた。


「実は、本当に有名なハンターだったりして? マフラーで隠してたから顔もよく見えなかったし」


 リリアから見て、ガロウは口元をマフラーで隠していたし、髪は真っ白、身体の線も細かったから、年配の熟練ハンターにも見えたのだ。



 四人は正直、ゴブリンキングと遭遇した時はもう駄目だと思っていた。 だから、三人は応援を頼む口実で……自分達を犠牲にしてターニャを逃がしたのだが、ターニャは自分だけ生かされるなんて絶対に嫌だった。


 だから、ターニャは早く町に戻って応援を呼ぶ必要があった。 でも、今から町に戻っていたら間に合わないと判断し、町に戻るのではなく、自分達の他にも、魔の森の調査依頼を受けたハンターがいる事に賭けたのだ。



 ザックスは二四歳にしてAランクにまで登り詰めた将来有望なハンターだ。 ガンツやリリアだって、いずれはAランクに届くであろう才能の持ち主で、自分なんかよりこの世界にずっと必要な存在なんだとターニャは思っている。


(そう……“一国の皇女”という肩書きしかない私とは違うんだ)


 ターニャは気配探知能力に長け、弓の技術も非凡な才能を持つ。 だが、ゴブリンキングには無力だった。


 直ぐに戻って来ると誓って戦線を離脱し、人の気配を探知した。

 するとそこにいたのは、真っ白な髪の男性……ガロウだったのだ。


 ターニャのガロウに対する第一印象は……正直、白髪だったから高齢の方かと思ったが、近くで見ると目元は若々しく整っていたし、口元をはマフラーで覆われていて見えない為に年齢不詳の印象だった。


 ……そして、残念ながらガロウは強そうには見えなかった。 なので、自分の代わりに町へ応援要請を頼み、直ぐに仲間たちの下へ戻るつもりだったのだが……突然ガロウの雰囲気が変わり、とてつもない強大なオーラを溢れ出した。 そして、同時に風圧と共に巨木が薙ぎ倒されたのだ。


 気配探知に長けてるターニャでも、これ程のオーラを目にした事は無い。 その剣筋は全く認識する事も出来なかったし、Aランクであるザックスをも凌駕する強さだと瞬時に理解した。


(……ガロウ様は、私の予想通り、あっという間に私たちを助けてくれた。 その上、魔獣に対して慈悲の心を見せるなんて……あんな御方には、初めて出会った)



 一国の皇女……『ターニャ・アムウェイ』は、ベラドール皇国の第一皇女だった。


 皇位継承権は第四位で、兄が二人と、妹と弟がいる。 次期皇帝の座は兄二人のどちらかにほぼ決定しており、ターニャには貴族との結婚が義務付けられていた。


 だから、ターニャはお見合いが嫌で、城を飛び出してハンターになったのだ。


 ハンターズギルドに登録し、早い段階でザックスたちと出会い、パーティーメンバーになれたのは運が良かった。

 勿論、少しでも皆の役に立ちたいと、斥候役を買い出て、必死に頑張った。


 隠しておくのが辛くなり、実は自分がベラトール皇国の皇女だと打ち明けても、ザックスたちは変わらずターニャに接してくれた。


(本当に、私には過ぎた仲間達だ……)



 その後もターニャたちは高難易度の任務をこなし、色んな人に出会う機会も増えたが、その誰とも違う雰囲気を、ガロウは漂わせていた。


 危機は去ったと云うのに、ターニャは胸の高鳴りが収まらない。 ガロウを思い出せば出す程、心臓は早鐘の様に鼓動が速度を上げる。


(この感情はなんだろう? 絶対的強者に対する憧れか、はたまた恐怖なのだろうか?)



 だが、今はそれ所ではない。


 スタンピード……。 魔獣による大進行に、まさか自分が遭遇する事になるとは思ってもなかったのだ。


 でもターニャは、ガロウがいればなんとかなるかもしれないと思ってしまった。 そんな身勝手な期待をガロウ様に抱く自分がいたのだ。


 ……別れ際、ターニャはガロウが心配なのではなく、ガロウと離れるのが嫌で、ずっと見つめてしまった。

 今はそんな状況じゃないと、なんとか気持ちを切り替えたが。



 町へ戻る途中、スタンピードの群れを発見した。 ……大小併せて三○○○体近くの魔獣がいる……しかも、進行方向的にこのままではディープの町が呑み込まれる可能性は高い。

 そうなれば、 死者は一○○○人を越す大惨事になるかもしれないのだ。



 ガロウの言う通り、スタンピードの群れを追い越し、町に到着する。 そこで傷だらけのターニャたちを見付けたディープの門番が、何事かと聞いて来たので、ザックスがスタンピードが迫っていると告げると、門番は急いで町の憲兵隊の支所へ報告に走った。


 ターニャたちも急いでハンターズギルドのディープ支部へと駆け込み、スタンピードの報告をする。


 ギルドマスターの『コピロフ』は、かつてリングース王国領のとあるハンターズギルドにも勤めていた経験もある優秀なギルドマスターで、状況を的確に判断し、直ぐ様緊急任務を発令し、ハンターをかき集めて町の防衛を始めた。



 憲兵隊の一部が住民の避難を誘導し、残りはこの町を拠点にしていたハンターと共に魔獣を迎え撃つ体制を整える。


 でも、その数はせいぜい一○○人程度。 三○○○体もの魔獣が群れをなしてるのに比べれば、圧倒的に足りない。 それでも、とにかくやるしかないのだが。



 今の自分たちに出来る事は、スタンピードがこの町に向かって来るまで身体を休める事たった。 ザックスたちは、この町ではトップクラスのハンターなのだから。


 その間、ターニャたちはコピロフと少しだけ話をした。


 なんと、コピロフは過去にも一度、スタンピードを経験していたのだそうだ。 今回の件も、その時の経験を活かして迅速に対応を進めたらしい。


 その話の中で、ターニャはコピロフから、リングース王国にとんでもないハンターがいた事を聞いた。


 そのハンターは、なんと殆んど一人で、約一〇〇◯体の魔獣を戦闘不能にし、スタンピードの群れを元の生息地に追い返したのだそうだ。


 これにはAランクのザックスを含め、全員が驚きを隠せなかった。


 その冒険者は、著名なSランクハンターだったんですか? と聞いたザックスに、コピロフは言ったんだ。


「いや、ランクはBだったよ。 ランクは……ね」 ……と。


 何故だろう。 その言葉を聞いた時、ターニャの脳裏にガロウの顔が浮かんだ。


 Bランクだけど、Sランク……。 ガロウなら、もしかしたらスタンピードの群れを一人でも追い返してくれるかもしれない……と考えてしまったが、それでも、それを期待しては駄目だと自戒する。

 元々ガロウは自分たちとも、多分この町とも無関係な存在だ。

 しかも、スタンピードの元凶を止める為に森に残ったのだ。 それはある意味、スタンピードを止める事よりも危険な任務だ。



(やはり、私たちが……この町を拠点にしている私たちが守らなければならないんだ。 自分たちの町を! )


 ターニャはそう決意した。 スタンピードを迎え撃ち、必ずこの町を守ってみせると。

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