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第14話 黒炎のグロムザーザ

「よし、ザックス君たちは全速力でスタンピードの危機を町に伝えてくれ。 もし途中でスタンピードの群れを見付けても関わるなよ? 先ずは報告を優先してくれ」


「ハ、ハイ! それで……ガロウ様は?」


 スタンピードもギルドの緊急特別任務に指定される程危険な現象だが、俺はそもそものスタンピードの元凶の方が気がかりだった。

 なにせ、逃げ出した魔獣たちが殺されると恐れ、束になって逃げ出してしまう程の存在が出現したと云う事なのだから。

 放っておけば確実に近隣住民の脅威となるだろう。


「俺は元凶を断つ。 直ぐに片付けて後を追うから、早く町に戻ってくれ」



 ザックスたちは、俺を信用してくれたのか、しっかりと頷いた後に、言う通り町へ向かって走って行った。

 最初に出会ったターニャだけは、最後まで俺を心配そうに見つめていたが。


 俺を心配してくれているのか……か、カワイイなあ……いかん、勘違いしそうだ! しっかりしろ、俺!


「……さて、じゃあゴブキン。 おまえらが恐れる元凶の下に俺を案内しろ」


 ゴブリンキング、略してゴブキンは、心底嫌そうに仰け反っている。


 そりゃ怖いのは分かるが、おまえそれでもゴブリンのキングか?


「案内するのか? しないのか? ……どっちだ?」


 指をコキコキ鳴らしながら威圧すると、ゴブキンは涙目で渋々頷いた。

 実際は自力でも探せたのだが、森に詳しいゴブキンに案内してもらった方が早いだろうし。



 すると、気絶から目覚めたゴブリンたちも徐々に起き上がり、ゴブキンの指示を受けて散って行った。 様子からしてただ逃げた訳ではなさそうだが……。



 ……木々を掻き分け、疾走するゴブキンの後を着いて行くと、次第に瘴気が濃くなっているのを感じた。 この瘴気の源は、魔獣などでは無い、別の何かだ。


 すると、ゴブキンが立ち止まり指を指す。 その方向は、一際濃い瘴気が充満していた……。


「……なんか、偶然にしては不自然だな」


 魔獣とは異なる存在。 瘴気を感じた時から、頭のどこかで予想はしていたものの、それを実際目にすると、本当に今日はとんでもない日だな。



「……ほう、まさか貴様、人間か?」


 見た目は人間と変わらない。 だが、不気味な程に青白い肌と、頭には角、そして背中には黒い翼が生えている……それは、魔族の特徴と一致していた。


「……この瘴気の中で平然としていられる人間がいるとはな」


 魔族特有の闇の瘴気。 しかも、かなり濃い……普通の人間なら意識を保つのは不可能だろう。


 聖騎士である俺だからこそ、瘴気の影響を受けずに立っていられるのだ。


「……さっきはリッチって云う骸骨野郎を消して来たんだけど、おまえら仲間か?」


「リッチを? 冗談はよせ。 アイツを倒せるとしたら光属性……しかも聖職者や聖女などの弱い攻撃魔法では無理だ。 可能性があるとすれば……」


「……俺がその、可能性がある光属性をの攻撃を操る、聖騎士だと言ったら?」


 聖騎士という言葉に、魔族の男の表情が引き締まった。 闇属性である魔族にとって、光属性の攻撃手段を持つ聖騎士は天敵とも云えるから。



「聖騎士だと? 何故だ? 今世の聖騎士は……まさか、リッチが向かったのはアルカトラウス刑務所か?」


「そう、そのアルカトラウス刑務所に、俺がいたってわけ」


「……チッ、運の悪い奴め」


 どうやらこの魔族は、聖騎士である俺がアルカトラウスにいた事を知っていたみたいだな。


「まあいい。 戦闘力の低いリッチにとって、聖騎士との相性は最悪だ。 だが、純粋な戦闘力で上回る俺には、聖騎士など恐るるに足らん」


 魔族の男を、漆黒のオーラが包み込む。


 こいつ……ヤバいな。 余計な事を考えてる暇が無い程に、強い。



「少々計算が狂った様だが、元々俺は聖騎士など怖れておらん。 そう考えると、他の光戦士と手を組まれる前に聖騎士を葬れるのだから、かえって好都合と言えるな。 我が魔族の悲願を果たす為にはな」


「悲願? まさか、性懲りもなくまた人間界にちょっかい出すつもりか?」


 俺の存在を知っていたのだから、そう考えるのが妥当だろう。


「ちょっかい? そんな生易しいものじゃない。 殲滅してやるのさ! そして、この地上は我々魔族が頂く!」


 最後に魔族が人間界に侵略したのが一○○年前。


 最後に聖騎士が誕生したのも一○○年前。


 教会は明言を避けていたが、魔族の侵攻と聖騎士の誕生は深く結び付いてるのではないだろうか?


 だとすると、教会は魔族が侵攻して来るのを知っていたのだろうか? それなら、聖騎士である俺には教えておいてくれても良かったんじゃないか? それとも、何か俺に伝えられなかった理由が?


 この魔族は、間違いなく聖騎士である俺がアルカトラウスに収容されていた事を知ってた。 それは、俺という存在を魔族全体が警戒していたからだろうが……一体どうやって知ったんだ?


 ……どっちにしろ、今は答えの出る問題では無い。 問題は目の前にいる敵をどうするかだ。 聞きたい事は、この魔族を動けなくさせてから聞けばいい。


「……させるかよ。 おまえら魔族が侵略を始めるっていうんなら、それを止めるのが聖騎士である俺の役目だ」


 今後、世界各地で魔族の侵攻が始まるとなれば、聖騎士の力を秘蔵して、魔族を無視するなど出来る訳もない。 だって、放っておけば世界に危機が訪れるのだから。


 求めていた、自由気ままな生活が、早くも脅かされるな……あ~もう! 俺の自由の邪魔しやがって!



「フン、聖騎士と云えど所詮は人間。 魔族七将軍の一人、この『黒炎のグロムザーザ』の敵ではないわ!」


 黒炎のグロムザーザか。 名前が長いから心の中で黒炎野郎と略そうかな?


 すると、グロムザーザの掌から、文字通りの黒炎が放たれる。


 これを難なく避けたが、黒炎はそのまま木々を燃やしながら貫通した。


 黒炎とは人間界には存在しない、魔界の炎だ。 その威力は、人間界の炎を軽く凌駕する。



「シェアアアッ!」


 間髪入れずにグロムザーザは鋭い爪で飛び掛かって来たが、これを双剣で弾く。


「人間にしてはやるではないか! だが、これならどうだ!」


 鋭い上に速いグロムザーザの連続攻撃。 なんとかその攻撃を全て双剣で弾き、一旦間合いとる。


 やっぱり強いな、コイツ。 パンクライス帝国の大将軍・バース・ルッデンと同等か、それ以上かもしれない。


 バース・ルッデンは、俺にとって過去最強の敵だった。 つまり、黒炎野郎・グロムザーザの実力は、そのまま俺史上最強と言っても過言ではなかった。



「さて、今度はこっちから行かせてもらう!」


 一気に間合いを詰め、双剣を振り回す。 だが、黒炎野郎は人間とは思えない動き……関節の可動域を無視した軟体動物の様な体捌きで、俺の攻撃を躱す。 なんか動きがムカつく。


「気持ち悪い野郎だな、タココラッ!」


「魔族は人間と違って優れた身体を持っているのだ、ほらっ!」


 黒炎野郎の肘打ち。 しっかりブロックした……つもりが、肘の関節が外側に可動し、俺の側頭部に裏拳がヒットした。


「ぐっ……戦りずれえっ!」


「ハッ! 所詮聖騎士といえどそんなものよ! 恐れるに足らぬ! 」



 やはり、どれだけ魔力の練度が上がり身体能力強化したと云えど、そもそもの身体が弱体化しているのがここに来て響いていた。 今の裏拳一発で、頭がクラクラするダメージを与えられてしまったのだから。


 これは光属性を出し惜しみ出来る状況じゃない。 幸いこの場には人間はいないし、俺も本気を出させてもらうか!


「オイ黒炎野郎。 悪いが俺も本気を出させてもらうぞ……」


 全身、そして双剣に一際強く光のオーラを纏わせる。


「ほう……遂に光魔法を使うか。 流石は聖騎士だな……人間にしてはやるようだ」


「お褒め頂き光栄だ。 ……いくぞ」


 光魔法と身体能力強化の魔法を幾重に重ね掛けし、全神経を集中させる。


 先ずは初撃。 先手で戦況を有利にする!



 瞬足を発動。 そのまま黒炎野郎の首を狙う。


 ブロックされようがかまわない。 相手のバランスを崩す事が出来れば、追撃がしやすくなる!



 一閃………………だが、手には、何の手応えも残らなかった。



 ……? 空振り? なんの手応えもなく、黒炎野郎を通り過ぎてしまった。 まさか、今のスピードに反応し、避けたのか?


 今のを避けられたとなると、本格的に黒炎野郎の強さを上方修正する必要がある。

 スピードでは自分にアドバンテージがあると思っていたが、黒炎野郎のスピードは自分と同等以上なのだと。



「チッ、やるじゃねーか。 流石は魔族七大将軍の……ん?」


 黒炎野郎の方を見ると、後姿で……首が無かった。


 …………あ、地面に転がってる。



 そして、黒炎野郎は、頭部の消えた首から血をピューピューと吹き出しながら、崩れるように地面に倒れた……。



 ……これ、もう倒しちゃったのかな?


 こうして、過去最強の敵、魔族七将軍の一人、黒炎のグロムザーザは、聖騎士である俺の本気の一撃で、一瞬にして絶命したのだった……。

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