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第13話 我が名はガロウ

 マフラーを靡かせながら瞬足で駆け出す事数秒。


 アッサリと目的地へ辿り着くと、そこには、あの娘の仲間であろう三人と、ゴブリンキング一体並びに数十体のゴブリンが交戦していた。


 にしても、やはりゴブリンキングか……。 そりゃ並のハンターなら歯が立たないだろうな。



「待たせたな、助っ人に来たぞ」


 突然現れた俺に、ハンターの男二人と女の子一人がキョトンとした表情で俺を見つめていた。


 ……ついでにゴブリンキングまでキョトンとしてるのは意味不明だったが。


「で、状況は?」


「あの……お一人ですか?」


 多分パーティーのリーダーであろう男が、俺の質問に質問で返して来た。


 むっ……質問返しって嫌いなんだよな~、時間の無駄だから。


 騎士団でもたまに、新人で生意気な口を聞いて質問返ししてくる奴もいたが、しっかり教育したものだ。

  ……が、今の自分は団長ではなくハンターだ。 彼等とはハンターとして対等な関係なのだからと、説教するのはやめた。


「一人だが……助太刀に来た」


 すると、仲間の一人であるガタイの良い男が舌打ちをした。


「チッ、『ターニャ』の奴、ちゃんと町のギルドまで逃げなかったのか? こんなオッサンじゃ、なんの役にもたたねえぞ」


 オッサン? ……いやいや、俺はまだ二六歳……いや、今は二七歳か。 でも、断じてオッサンなどではない!


「ちょっと『ガンツ』! 失礼でしょ! ……でもオジサマ、悪い事は言わないから、すぐにこの場を離れて。 無駄死にする必要はないわ」


 オジサマ? ……いやいや、俺はまだ二七歳だ。 断じてオジサマなどではない!


「ガンツも『リリア』も、折角助っ人に来てくれたんだ。 今は猫の手も借りたいのは分かってるだろ?」


 猫の手? ……この俺を猫の手と同列に扱うとは、いい度胸だな、小僧。



 ちょっとイラっとしたが、取り敢えず状況を確認する。


「……で、このゴブリンどもをぶっ倒せばいいんだな?」


 俺が鋭い視線をゴブリンたちに向けると、ゴブリンたちは一斉に後退りした。 どうやらAランクハンターよりも、野生の勘の方が、俺の実力を正しく判別したらしい。


 見た所、三人は軽口を叩いているが、既に限界が近付いていた。


 Aランクの男とガンツは前線で戦い体力が限界に迫っているし、リリアという娘も魔力切れを起こして顔が真っ青になっている。 もし、あと数分到着が遅れていれば全滅していただろう。



 すると、後を着いて来たであろうターニャが息を切らして現場に到着した。


「ハァ、ハァ、皆、無事で良かった!」


「ターニャ!? なんで戻って来た! おまえだけは逃げて生き延びろと言っただろう!?」


 Aランクの男がターニャに向かって、戻って来た事を怒って叫んでいる。


 うむ、やっぱりこいつらは仲間想いのパーティーで好感が持てるな。 ここはしっかり助けてやるか。


「ごめんなさい、『ザックス』! でも、皆を置いて私だけ生き延びるなんて無理よ! それに助っ人の……えっと……まだお名前を聞いてませんでしたね?」


 ここで、一つの問題が表面化する。 それは、名前……。


 素直にヴォルグだと名乗れば、もしかしたらリングースのヴォルグだとバレない保証はない。


 ……のんびり旅しながら考えようと思ってたのに……う~ん……やっぱり、あれしかないか。



「俺は……そう、『ガロウ』だ」


 餓狼とは、元々は東の島国“ジャパング皇国”の言葉である。


 俺の剣術は、師匠の影響でジャパングの刀術がベースになっている。

 ヴォルグという言葉はジャパングで狼と言い、師匠が子どもの頃の俺の眼を見て、 「まるで餓えた狼の眼だな」 と言ったのを参考にして、オリジナル流派の名を餓狼流剣術、そして狼牙双剣術と名付けたのだ。


 そして、ガロウという名は、以前のハンター時代にも名乗っていた名前である。 それに、狼牙双剣術は門外不出なので、誰もガロウとヴォルグを結び付けはしないだろう。



「ガロウ様ですね。 皆聞いて、ガロウ様はとても強い御方です!」


「このオッサンがか? そうは見えねーけどな!」


 ……決めた。 ガンツって奴はあとで泣かす。


「いくら強いって言っても、一人増えた所でコイツは倒せん……」


 そう言ってザックスがゴブリンキングを見上げる。


 確かにゴブリンキングは危険度レベル4の魔獣だが……。



「さて、取り敢えず君たちは休んでおけ。 ここは俺が一人で片付けるから」


 ヴォルグ改めガロウこと俺は、自信ありげにゴブリンの群れに立ちはだかった。


 もう説明するのも面倒なので、チャチャっと片付けちまおう。


「そんな、無謀だ! Aランクの俺でも無理なのに…………って、はぁ?」


 ザックスの言葉を無視し、瞬足を発動。 双剣で的確にゴブリンたちの頸動脈に峰打ちを叩き込んだ。


「……と、云う訳でゴブリンは片付いた。 次はおまえだ」


 時間にして一◯秒足らず。 その間に計一五体のゴブリンを気絶させ、剣先をゴブリンキングに向けた。



「え~……っと、ターニャ、あの御方は、Sランク?」


「……Bランクらしいけど、Sランクだと言ってました……」


 ザックスもターニャも、理解が追い付いていない。



 それよりも、改めて自分の動きを確認して思ったのだが、魔力の練度が上がっただけでなく、体重が軽くなった分、一年前よりスピードが上がってる気がする。

 ある意味、騎士としての正統な剣術である餓狼流剣術だと、この身体ではパワーが落ちるのは否めなかった。 だが、俊敏性が重要となる狼牙双剣術だと、この身体の方がフィットしてるかもしれない。 これは、不幸中の幸いだな。



 ゴブリンキングも、今ので俺戦力差を悟っているのだろう、ガグガクと震え出していた。


「逃げたきゃ逃げな。 別にギルドから依頼を受けてる訳でも無いし、俺は魔獣と云えど無駄な殺生は趣味じゃないんでね」


 ここは魔の森……元々魔獣の住処だ。 人里に降りて悪さをしたと云うなら問答無用で始末するが、勝手に森に足を踏み入れて魔獣たちの住処を荒らしたのはターニャたち人間の方なんだし、ゴブリンたちになんの恨みも無い。

 本来なら自己責任だと無視ししても良かったのだが、関わってしまった手前、無下にする事も出来なかっただけで、無駄な殺しは避けたいし。



「そんな、オッサン……ひえっ!?」


 ガンツの足下に短剣が突き刺さる。 ……勿論俺が投げたのだ。


「さっきから聞いてりゃあ……誰がオッサンだって?」


 大体、どう見ても俺より歳上にしか見えないガンツにオッサン呼ばわりされる謂れはない。


「……いや、ガロウさん、俺たちはギルドから魔の森の異変を調査する依頼を受けてるんだ。 大体、本来ならこの辺はゴブリンキングの生息地じゃねーし、ここでコイツを殺しておかないと町にも被害が及ぶかもしれねーんだ!」


 ビビりながらも、ガンツは事情を説明した。


 森の異変? ……でもなぁ、このゴブリンキング、完全に俺に怯えちまってるし。 向かって来るんなら相手してやるけど……あ、そういえば!


「そうだ! キング系の魔獣って人の言葉を理解できるんだよな? なあおまえ、人里に降りて暴れたりする?」


 ゴブリンキングに向かって話しかける。 すると、ゴブリンキングは激しく首を横に振った。 やはり言葉が通じた様だ。



「えっ? ええーーっ!? 魔獣が、人語を!?」


「そう驚くなよ、ザックス君。 君もAランクなんだから、その位の情報は知ってただろ?」


「知りませんよ! なんですかそれ!?」


 あれ? ランクが上がるとハンターズギルドでも魔獣に関する様々な知識を教えてくれるハズなんだけど……あれ? 師匠に聞いたんだっけ? 忘れちゃったな。



「オホン、で、おまえは本来この辺には出現しないってそこのデカブツ君が言ってるけど、本当か?」


 ゴブリンキングが激しく首を上下に降る。


「そうか。 じゃあ、なんでこの辺にいるんだ?」


 ゴブリンキングは身振り手振りで何かを伝えようとしてるが、人語を理解は出来ても喋る事は出来ない様で、サッパリ意味が理解出来ない。


 とすると、質問を厳選する必要があるな……。 本来いるハズの無い場所に魔獣が現れる。 当てはまる事例は……まさか!


「“スタンピード”。 ……もしかして森の異変って、おまえら魔獣たちが縄張りを放棄しなければならないぐらいの、とんでもない魔獣が現れたのか?」


 ゴブリンキングがまたも激しく首を上下に振った。



「スタンピードって……もし進行方向が町の方だったら、とんでもない事になるぞ!?」


 スタンピードと聞き、ザックスたちが一様に青ざめた顔をしている。 だが……


「それより、俺はそのスタンピードを巻き起こした存在が気になるな……」


 スタンピードか……脱獄早々、また厄介な事に巻き込まれちまったなあ……。



 脱獄、魔族、スタンピード……。 まったく、なんて日だ……と、叫びたくなるわ。

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