第1話 堕ちた英雄
※新作始めました! のんびりダラダラ投稿して行きますので、気が向いたら読んでみて下さい。
※文章を一人称に修正しました。 ストック溜まり次第、ボチボチ更新する予定です。
世界中の凶悪犯罪者が収容されている絶海の孤島・アルカトラウス刑務所。 難攻不落、脱出不可能とされる監獄島である。
そんなアルカトラウスの最下層には、国家転覆レベルの犯罪を犯した者や、存在自体が最高レベルの危険度を誇りながら、何らかの理由で死罪にする事が出来なかった犯罪者が収容されている。
そして、そんな最下層の牢屋には現在、たった一人だけ、犯罪者が収容されていた……。
なんで……なんでこうなった?
そう自問自答しながら、永遠とも感じられる時を、カビの匂いが充満する暗闇の中で過ごしている男の名は、『ヴォルグ・ハーンズ』。 つまり、俺である。
俺はかつて、平民の生まれでありながらリングース王国の騎士となり、数々の武功を挙げて騎士団の団長にまで登り詰め、更には全世界でも稀である聖騎士として神に認められ、英雄とまで呼ばれた。
六歳の時、魔獣に村を襲われた際に両親を亡くし、天涯孤独の身となった。 それからは食うものも食えず、なんとか物を盗んで生きながらえていた。 そうでもしなきゃ飢え死にしていたからだ。
だが九歳の時に、育ての親となる“師匠”に拾われ、生きる術……戦う術を徹底的に叩き込まれた。
そして一五歳になり、立身出世を胸に、王都の騎士学校に入学したのだ。
リングース王国の騎士学校では優秀な成績で卒業すると、騎士団入団後に出世コースであるキャリア組の権利を得る事ができるのだが、殆どの生徒は貴族の子息であり、学費はおよそ平民には出せない莫大な金額が必要とされる。
勿論、俺には金銭的余裕など無かったのだが、師匠の教えに従い、魔獣ハンターズギルドのハンターとして日銭を稼ぎ、入学金を含む全ての学費は全額自分で工面した。 その上で、馴染みのギルドマスターが推薦状を書いてくれたおかげで、平民であるにも関わらず、俺は騎士学校に入学する事が出来たのだ。
だが、周りがほぼ貴族家の子息の中、平民である俺は只でさえ腫れ物に触れるみたいな扱いを受けたし、迫害されたりもしたが、持ち前の意地とプラス思考で学力・武力共に学年一位を維持し続け、卒業後は、平民としては異例のキャリア組として騎士団への入団を成し遂げたのだ。
平民である俺がキャリア組として騎士団に入団したのは貴族間でも相当問題になった。 それは、騎士団の上層部が全員貴族の出であり、これまでは平民が出世コースであるキャリア組に入る事などほとんどなかったからだ。
だが俺は、騎士団上層部の嫌がらせにもめげずに、コツコツと成果を上げ、武力の面では並ぶ者無しとリングース王国内でも名が知れ渡る様になっていった。
そんな俺の活躍が面白くない貴族連中は、あの手この手で彼を陥れようと画策していたが、ちょうどその頃から隣国の“パンクライス帝国”との戦争が始まったのだ。
本来、キャリア組は戦場の最前線に送り込まれる事は少ない。 だが、俺の存在を忌々しく思っている上層部や貴族の思惑により、俺は騎士団でも問題児ばかりを寄せ集めた部隊の隊長を命じられ、半ば強制的に戦場に駆り出された。
ヴォルグ・ハーンズ率いる“餓狼隊”が赴く戦場は、常に劣勢……を通り越して絶望的な戦況だった。 全ては、俺に戦死してもらいたいと考えている者たちの思惑が働いた結果だった。
だが、そんな絶望的な戦場を、俺は常に生き延びて来た。
初陣は、敗戦濃厚だった国境沿いに送り込まれ、形勢を逆転させて敵国を撤退させた。
また、味方の罠に嵌められて森の中で一対一○○という過酷な状況で、全員を撃破してみせた。
そして、四方から三○○○の敵兵に囲まれ、それを僅か三〇人の餓狼隊で撃破した事もあった。
生き残る度……相手を撃退する度、餓狼隊を率いるヴォルグ・ハーンズの名声は、王国内のみならず他国にも轟いていた。
この頃には俺に対して、騎士団の貴族も平民も関係なく、俺を慕い、憧れてくれる人が増えていた。
そこで俺は師匠から授けられた剣術を自分なりに進化させ、他の団員に教えていった。
そして俺の剣術は“餓狼流剣術”として、リングース王国騎士団に浸透していったのだ。
騎士団の中でも認められるようになった俺は、地位も上がり、気が付けば貴族連中を差し置いて団長になっていた。
いくら俺が強くて、戦場で武功を挙げたとしても、本来であれば平民出の者が騎士団の団長になる事などあり得ないのだが、そんな俺の活躍を賞賛し、後ろ盾になってくれた人物がいたのだ。
それが、リングース王国の国王である『アンドレイ・グロム・アルティス』様だった。
如何に貴族連中が平民の俺の団長昇進を拒もうとしても、国王であるアンドレイ様に逆らう事はできなかったのだろう。
……その後も俺は、団長であるにも関わらず、他国との戦場では常に餓狼隊を率いて前線に赴き、次々と武功をあげていった。
そして気が付けば、敵国からは、“戦場の死神”と畏怖される様になったのだ。
二五歳になり、パンクライス帝国との戦争が始まって三年が過ぎ、いよいよ最終決戦を迎える事となった。
パンクライス帝国は世界最強の軍人と言われた敵将・『バース・ルッデン』率いる常勝部隊“白鯨軍団”が全軍を率いる。
対するリングース王国は、人数も増え、騎士団最強の部隊となったヴォルグ・ハーンズ率いる餓狼隊が全軍を率い、互いの最強部隊が真正面からぶつかり合う事となった。
どちらも一歩も引かない戦いは長期戦の様相を呈していたが、最期は埒があかないと痺れを切らした俺と、同じ考えに至ったルッデンによる一騎討ちとなった。
ルッデンとの戦いは一進一退の攻防が続いた。
最強の軍人と云われるだけあって、ルッデンは強かった。 間違いなく、俺が戦った中で最強の男だっただろう。
だが、追い詰めたその時、天啓が舞い降りたかの如く、俺の身体に白く輝く光が降り注いだのだ。
そして、新たな力に目覚めた俺は、見事にルッデンを打ち倒したのだ。
俺が目覚めた力は、光属性だった。
世界には火・水・土・風の四大属性がある。 そして異なる世界……魔界の住人である魔族にのみ与えられる属性が闇。 その闇に対抗できる唯一の属性が、光。
光属性の魔法や力を使える者は少なく、その上使えても殆んどが回復魔法や補助魔法のみ。 しかも、その多くは教会に所属し、何年も神に祈りを捧げる事で神の祝福を受け、ようやく習得する事ができる。
長い歴史の中で、魔族は定期的に人類に侵略を試みて来た。 だが、その侵攻を尽く跳ね返して来たのが光属性に目覚めた者たちだった。
最も近しい過去で魔族が侵攻して来たのが一〇〇年前だったのが、この時も光属性に目覚めた四人……聖騎士・聖女・聖魔導士・聖弓士が、魔族の王を撃退したのだそうだ。
そして、光属性に目覚めた騎士である俺には、世界最大の組織である“教会”から、正式に一〇〇年ぶりとなる“聖騎士”の称号が与えられた。
聖騎士の主な力は、身体や武器に光属性の魔力を纏わせる事。
その力は強大であり、魔族だけでなく、他の生物に対しても、大幅に攻撃力がアップするのだ。
結果的に俺、ヴォルグ・ハーンズはパンクライス帝国との戦争に於いて幾多の武功を挙げ、勝利の立役者となった。
世界最強の軍人を倒し、リングース王国騎士団団長であり、餓狼流剣術の創始者、聖騎士・ヴォルグ・ハーンズ名は、一気に世界中に轟く事になったのだ。
そしてリングース王国とパンクライス帝国との戦争が終戦した三ヶ月後、俺はかねてより交際していた、王女である『アリシア・ラムータ・アルティス』と、正式に婚約する事となったのだ。
国中が、英雄である俺と、才色兼備で国民の人気も高いアリシアとの婚約を祝福してくれた。
……だから、これで五月蝿い貴族連中も黙ってくれるだろう……と、思っていた。
なのに……俺は今、アルカトラウスの最下層にいる。
何故、英雄だった俺は、大罪人が送られるアルカトラウス刑務所の最下層に送られてしまったのか?
……俺の罪状は、リングース王国国王・アンドレイ・グロム・アルティス様の殺害……つまり、“国王殺し”だった。
運命のあの日……俺と、アンドレイ様の娘でありリングース王国第一王女・アリシアとの婚約が発表され、国中が祝福ムードになっていた。
その夜、アンドレイ様に呼ばれて俺は国王の私室を訪れると、アンドレイ様が倒れていたのだ。
慌ててアンドレイ様の安否を確認すると、その背中には俺の……団長就任の際にアンドレイ様から頂いたオリハルコン製の刀が、背中に突き刺さっていたのだ。
何故俺の刀が? ……と困惑したが、それよりも恩人であるアンドレイ様の身が心配だった俺は、既に息をしていないアンドレイ様を抱き抱えた。
……すると、そのタイミングで第一王子の『アレクセイ・アキィラ・アルティス』と共に、同じく騎士団の一員で親友でもあった騎士団副団長の『ディック・ドールマン』が、数名の騎士を引き連れて国王の私室にやって来て俺を取り囲んだ。
そして、有無を言わさず俺を、国王殺害の被疑者として捕らえたのだ。
身に覚えのない罪を着せられようとしていた俺は、本来であれば現場から逃げようと思えば逃げる事も出来ただろう。 一旦その場を離れ、自分で自分の無実を証明する事も出来たかもしれない。
だが、常に俺に目を掛けてくれていたアンドレイ様が亡くなったショックで動けなかったのだ。
更には、親友であるディックが俺に、捕縛は一時的なものであり、自分が直ぐに無罪を証明して釈放してやるから、今だけ大人しく捕まってくれと懇願しきたのだ。
ディックとは騎士学校の頃からの仲だ。 だから俺はその言葉を信じ、抵抗せずにおとなしく捕まった。 正確には、ショックで抵抗する気にもならなかったから。
その際に魔力を含むあらゆる力を封じ込める特注の手錠で手足はおろか口まで封じられた。
それでも、俺は自分の無実が証明されるまでの形式的なものだろうと思っていたのだ。
だが……三日後には、あれよあれよと有罪判決が下ってしまった。 俺には、一切の発言機会すら与えられぬまま……。
つまり、俺は嵌められたのだ。 俺の存在を疎ましく思っていた何者かに。
こうして俺は……ヴォルグ・ハーンズは、国を救った英雄から、国王を殺した罪人へと堕ちたのだった……。