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まさか!俺は死んだのか。  作者: ぎるてぃまん
2/2

トカゲとケモノとロリババア

 生暖かく、薄暗い。

 漂う腐卵臭のような鼻をつく匂いに今にも気が狂いそうだ。

 体を動かそうと体をよじるが、窮屈な空間では一回寝返りうつのがやっとといったところ。

 生暖かく、生臭いドロドロした液体がからだにまとまわりつく。

 頑張れば人間が3人分寝られるかどうかといったスペースにおれは押し込められていた。

 おれは想像を絶する悪臭の中ゆっくりと瞼を上げる。


「ここは....って..臭ッ!」


 開口一番真っ先に出た言葉がそれだった。

周辺は真っ暗で奥行きはかなりあるが天井が低く、少しでも頭を上げると後頭部に衝撃が走る。

 

 「おいおい、どこだここは?俺は崖から落ちて死んだはず..だよな」


 再び先ほどの恐怖のシーンが脳内でフラッシュバックした。


 「薄気味悪いし、臭いし、なんかヌメヌメするし」


 状況を把握するため、天井に頭をぶつけないよう右手を天井にくっつけ、屈みながら周囲の壁のようなものペタペタと触って広さを確認する。

 暗闇で遮られた視界はしばらくの間、使い物にならない。

 

 「あぁ、今何時なんだ?そろそろ出勤しないと本格的にヤバいかも....」


 おれは状況を理解するよりも会社に遅刻しているかもしれないということを危惧した。

 そんなこんな考えているうちに目も暗闇に慣れていった。

 ひとまず、会社のことは考えることを辞めて今は状況把握から行うことにした。

 

 「んーやっぱり、行き止まりか〜」


 空間の奥の方(どっちが手前とかはわからない)歩数にして10歩ほどで行き止まりだった。

 正確には道はあるのだが、とてもじゃないが入れそうにないほど小さいな穴だ。

 ヌメヌメドロドロの液体がその穴に吸い込まれるようにして流れている。

 

 「んーどっかの下水道とかかな?崖から落っこちたはずなんだけどなー」


 おれはぶつぶつと独り言を言いながら来た道を10歩ほど歩きまた戻る。

 次は逆方向の手前(どっちが手前か分からない)に歩を進めることにした。

 地面は少々凸凹しており、ヌメヌメドロドロの液体に足をとられて歩きにくい。

 農作業の田植えの時に経験したあの感じだ。

 慎重に一歩ずつバランスを取りながら進む。

 だが、やはり慣れないことはするものではない、


「うわぁーーあ!」


粘りつく液体に足を取られて顔面から液体にダイブ!

 これがまた臭い。


 「イタタタッ!」


 ぬくっと起き上がり、頭にまでべっとり液体が絡み付いた。

 

 「はぁーもう勘弁してくれよ〜」


 すかさず右手を天井に添えて立ち上がる、正確には前屈みになって天井にぶつからないように中腰になるのだが。

 そこでおれは体中から妙な違和感を覚えた。

 何か小さい生き物がおれの体を這うような感覚がところどこに。

 そしてその感覚の一部はおれの左手の甲にもあった。

 恐る恐る、ゆっくりと左手の甲に視線を移す。

 ソレはいた。

 俺を崖から突き落としたオオトカゲの口の中に生息していたあの枝分かれしたウニウニの寄生虫だった。

 戻ったはずの顔色が再び青ざめる感覚と共におれは悲鳴を上げた。


 「ヒェぇぇー!キモいキモい!」


 大慌てで左手の寄生虫を左右上下に振って振り落とす。

 だが体を這う感覚は体中あちこちでしていた。

 右太ももとその付け根、左膝に左ふくらはぎ両肩甲骨におしり、右頬と、右肩。


 「どんだけいんだよっぉぉぉぉ!」


 両手で体から感じる感覚の場所全てをはたく。

 だが減るどころからどんどん他の部位からもその感覚は増えていく。

 おれが活発に動いたことで慌てた寄生虫達は動き出したみたいだ。

 最悪だ。

 ショックで失神しそうになるが今失神すると後々取り返しのつかないことになる事を想像する。

 再び正気に戻り体中の寄生虫をはたいていく。

 右脇腹、首筋、鼻、尾骶骨、左胸。


 「ん?」


 左胸?自分が触っている左胸に小さくではあるが確実に膨らみがあった。

 右胸に視線をやるとこちらも同様に小さな膨らみがある。

 俺の格好は昨日寝ていた時のままなのでパンツ一丁なのだが、よくよく見るとそのパンツもトランクスではなく、幼い頃、雑巾掛けの時に中腰で女子の雑巾掛けの後ろを続くことを許された者だけに見る事ができた真っ白のパンツだった。

 恐る恐る、パンツの中に手を入れる。

 引っ掛かりがない。

 俺の脳内はキャパオーバーし、本日2度目の失神をしたのだ。






 時を同じくして、ルナは板状の光源を作り出してオオトカゲに勢いよく投げつけた。

 オオトカゲは真っ二つにそれは見事にぱっくりと割れ、ルナはあまり慣れていないのか、その光景から目を伏せる。

 つもりだったのだが、オオトカゲのグロさを超越するほどの意外な光景を視線の端で捉えた。

 それは自分と同じくらいの背丈のほぼ全裸の少女だったのだ。

 驚きで動揺するルナ。

 

 「えっ?なにこ....」


 途中で口にするのを辞めて真剣な表情に変わった。

 ルナはすぐに少女の下に駆け寄った。


 「おいっ!お前!大丈夫か?息はあるか?」


 ルナはその少女を体から引き摺り出した。

 まとわりついた寄生虫に嫌悪の表情を表しながらも少女の右腕を引っ張り、自分の肩に担ぐ。

 凄まじい激臭が漂う中、何の躊躇もなく自らの肩に担ぎ、オオトカゲから5メートル離れたところでその少女を地に下ろした。


 「おい!お前っ!生きてるのか?返事しろよっ」


 必死で訴えかけるルナ。

 だがその少女からの返答はない。

 白目を剥いて青ざめた表情の少女、ぱっと見、死んでいると言われてもおかしくないその少女を見てもなお、ルナは生存の可能性を諦めない。

医療の知識は皆無に等しかったルナは昔一度だけ村の住人が倒れた時にその者の愛する者が行っていた治療法を実践することにした。


 「クソっ!相手は女だしノーカンだよなっ」


 そっと少女の首筋に手を回し、ゆっくりと持ち上げる。


 「たしか、こうだったよな....」


 ルナは赤くなる頬とは裏腹に真剣な表情で少女の唇まで顔を近づける。

 そして少女とルナの唇が触れ合った。

 時間にして15秒その状態を保つ。

 人工呼吸というものは息を吹きかけるものなのだが、ルナは曖昧な知識の上に極度の緊張状態。

 15秒の間ずっと息を止めており、苦しくなったのか16秒後にその行為をやめた。


 「はぁはぁ、....これでどうだ!」


 ルナはこれでもかと頬を赤らめながら強めに発言するがやはり返事は帰ってこない。

 当然だ。自分が息を止めていたのだから。


 「あぁ〜見ちゃいましたよ〜ルナ〜!何やってるんですか〜」


 そこで寝床の材料を集めていたユーラムが物陰から悪そうな顔で微笑みながらプププと口元に手を当てて登場した。


 「ばっ!ちげぇよ!こいつが息してないからっ!人工呼吸をだな!」


 恐らく全てを見られていたであろうユーラムにルナは慌てて説明する。

 身振り手振りで大袈裟に説明をしようとしているが、動揺しているのか全く伝わらない。


 「いや〜その人、最初から息してますよぉ〜

それに〜人工呼吸で息止めたら意味ないじゃないですかぁ〜」


 プププと再び悪そうな笑み浮かべ、ルナを嘲笑う。


 「はぁ?息してな....」


 ルナの脳内にイカズチが走る。

 そういえば自分はこの少女が息をしているかどうか確認していなかった。


 「もぉ〜ロマンチックお化けさんですね〜ルナはぁ〜」


 ロマンチックお化けとはユーラムの造語で大体の事をロマンチックに捉えてしまう思考法のことらしい。

 ポジティブシンキングの強化版みたいな感じだ。


 「ちっ..違う!こいつが死にそうだと思って....

まぁいい!それでこいつ大丈夫なのか?」

 

 「ん〜〜」


 ユーラムは首を斜めに傾けて少し考える


 「まぁ今は、問題なさそうだよ〜?」


 その言葉を聞きルナは安堵する。

 一気に力が抜けたのか、先ほどまで立っていた地面にへたり込む。


 「そうか....よかった」

 

 「それより〜あの魔物どうします〜?

見たところ大量の幼寄中(ワーム)に体を乗っ取られて食べれそうにないですよね〜」


 意識を失っている少女に全く関心がないのかユーラムは今晩のご飯の心配をしていた。


 「そーだな、ただでさえグロい見た目なのに幼寄虫(ワーム)までいるんじゃ..あたしは遠慮しとく....」


 ルナの表情はかなり引き攣っており、オオトカゲをどう処分するか検討していた。


 幼寄虫(ワーム)は放っておくと、大量発生し、成長すると魔物と互角に戦えるほどの魔蟲(マムシ)に成長する。

 物理的戦闘能力はないが、生物の体内に寄生しその体を自由に操る個体などもおり、環境の変化によってそれぞれが独自の進化を遂げる。

 このオオトカゲも恐らく後者の魔蟲(マムシ)に操られていたのだろう。

 真っ二つにしたオオトカゲの傷口から魔蟲(マムシ)が産んだ幼寄虫(ワーム)がウジャウジャと湧いているのが良い証拠だ。

 魔蟲(マムシ)に進化する前の幼寄虫(ワーム)であれば赤子でも簡単に殺すことができる。

 というか特に害はないのだ。

 だからといって放置してしまうと魔蟲(マムシ)に成長する。

 かなり厄介なので見つけ次第、即排除が世の常なのである。


 「ルナぁ〜もう食べられないなら〜この子達、焼いちゃっていいですかぁ〜」


 ニコッと天使のような表情を浮かべるユーラムだが、発言した内容と顔があっていない。


 「あぁ頼むよ。でもその前にコイツみたいに丸呑みされたバカがいないか見てくれ」


 幼い見た目に反したその口の悪さはユーラムにとっては今更なので気に留めることはない。


 「ん〜〜いないみたいですよ〜」


 ユーラムは大きな胸を突き出して夕暮れの光を阻むように、目の上に手を添えてそう言った。


 ユーラムは中(胃袋)を確認していないが、テキトーな事を言ってる訳ではない事をルナはわかっている。

 ルナはユーラムの言葉に軽くうなづき指示を出す。

 

 「わかった。燃やしてくれ」


 「わかりました〜」


 元気いっぱい手をあげて返事をするユーラム。


 「ふぁ〜いあ〜ぼ〜る〜」


 そう言ってユーラムは両手を前に突き出すと両肩から螺旋状の炎が肘へ渡り、手の平に集まった瞬間にそれは炎の球体へと変化し、ユーラムの正面に勢いよく飛んでいく。

 ユーラムの正面に倒れているオオトカゲと幼寄虫(ワーム)に直撃した瞬間、手の平サイズだった炎の球体はオオトカゲの体全体を一瞬で包み、猛々しく燃やしていった。


 「ボカーン!ルナぁ〜やりました〜クリーンヒットです〜」


 ユーラムは時々こうして効果音を挟む癖がある。

 的にあたったのがよほど嬉しかったのかその場で盛大にジャンプする。

 それを5回繰り返した後、着地の際に足を捻り、勢いよく転ぶ。

 というか崩れるように地面に倒れた。


 「ズテーンッ」


 またしても倒れる直前で効果音を挟んだ。これもルナにとってはいつものことなので気にも止めない。


 「おいおい大丈夫かよ。真っ正面の敵に5メートルの距離であたってそんなに嬉しいのか?」


 「いてててっ....」


 地面に崩れ落ちた時に捻った足をさすり、また笑顔になる。


 「もちろんです〜初心忘れるはずです!ですよ〜」

 

 「忘れるべからずね。それだと初心忘れちまってるから」


 適度なルナのツッコミに対してポカーンと口を開けたまま固まるユーラム。


 「まぁいいや、それよりコイツどうするよ?今日はここで寝泊まりするから面倒は見てやるとして目覚まさなかったらヤバいんじゃねーの?」


 ルナはそう言うと再び少女に目を移す。


 「そうですね〜間違いなく死んではいませんし〜外的被害受けた形跡もありませんね〜あるとしたら精神的に参って失神した感じですかね〜」


 普段は鈍感でアホなユーラムだが、状況分析能力には素晴らしく長けており、すぐに少女の状態を把握した。


「そうか。なら明日までに目を覚まさなかったらこいつはここに置いていく。助けてやる義理はないしな」


 すでにオオトカゲの胃袋の中から助け出した事を自分でもすっかり忘れて、また無愛想なルナに戻る。


 「ん〜でもおかしくないですか〜?その子見た感じ人間ですよね〜?この辺に人間の里はないはずですよ〜」


 この熱帯雨林の面積は約220万kmほどある。

 ユーラムもルナも熱帯雨林全てを把握しているわけではないが、ここ500年近く、この熱帯雨林に人間を発見した、もしくは人間の里を確認したという話は聞いたこともない。


 「別になんでもいいだろ。あたしには関係ないしね。それよかお前ここにくる道中、山菜やキノコ拾ってただろ。それ晩飯にしよーぜ」



 「ギクッ」


 口にしてはいけない効果音まで口にしてしまうこの癖は素直なユーラムの美徳の一つだろう。

 バレてしまったという表情が顔に出てしまった。

 

 「ひゅーひゅー。な〜んのことですか〜?ユーラムよくわからないです〜」


 口先を尖らせて口笛を鳴らそうとし、失敗する。

 ルナと目を合わせようとしないユーラムは額から嫌な汗が出てきている。


 「出せよ。はやく」


 「は..はい〜」


 隠し持っていた大量の山菜やキノコをルナの前に差し出す。

 どこにこんな量を隠していたのか。


 「よろしい」


 ルナはそう言うと掌を広げて呟く。


 「サーフェス」


 オオトカゲを切った巨大な板状の光源ではなく掌に収まるほどの光源を収束させて山菜やキノコ近づける。

 光源が山菜に触れた瞬間に大量の山菜とキノコが食べやすい大きさにカットされたのだ。

 

 「ユーラム。コレをそこの湖で洗ってこい。後ついでにコイツにこびりついたクッセぇ匂いもとってきてくれ」


 ルナの言うコレとは山菜とキノコ詰め合わせのこと。

 コイツとは白目で失神している少女のことである。

 

 「わかりました〜」


 そう一言だけ言うとユーラムは右手で軽々と少女を持ち上げ、左手で山菜とキノコの詰め合わせを持つ。


 「頼んだぞー」


 ルナの言葉に軽くペコリと笑顔でお辞儀してユーラムは少女と共に木々を掻き分けて湖に向かった。








 一部割れた窓ガラスに倒壊寸前の廃れた廃墟。

 穴の空いた天井から薄気味悪い月光がまばらに部屋中を照らしていた。

 本日3度目の目覚めと思ったが今回は夢のようだ。

 夢と理解できると言うことは明晰夢なのだろうか。

 とにかく、色んなことが起こりすぎて頭が現実に追いつかない。

 自分の部屋で寝て、起きたら森の中。

 トカゲモドキに追いかけられて崖から転落。

 生き残ったと思えば大量のウジムシ。

 そして極め付けはこれ。

 再び自分の体を確認する。

 やっぱり付いていない。

 そして僅かに感じる膨らみ。

 

 「訳わかんないな本当。」


 おれはボソッと呟いた。

 そして新たな違和感を発見する。

 今まで緊張状態が続いたせいで気にしていなかったが、ちょっと..というかだいぶ声が高くなっている。

 

 「あー....あー....マイクテスト....あーあー」


 右手で喉を押さえて自分の出せる一番高い声と一番低い声を出してみる。

 明らかに自分の声ではなく、幼い少女のような甘い声色だったのだ。

 

 「お..お..お....落ち着けオレェェ....焦るなぁぁ....失神するなぁぁ!」


 自分で自分を落ち着かせていく。

 僅かに膨らみのある胸に右手を添えて深く深呼吸。

 吸ってーーーー。

 吐いてーーーー。

 これを何度か繰り返してようやく落ち着いた。

 

 「これ性転換ってやつ....だよな..いやでもなんで?そんなことありえるの?」


 おれは廃れた廃墟の中で自問自答を繰り返した。

 答えが出ないまま10分がすぎた頃。


 「クハハハハッ!!戸惑っているようじゃの!人の子よ」


「だっ誰だッ!」


 突如として聞こえてきたその声におれは動揺を隠すことができなかった。

 その声は恐ろしく低く何かノイズのようなものが入った声色でこう続けた。


 「全て説明してやろう。汝の今の状況と今後の身の振り方を....な」


 声の主の姿は未だに見えないが声色だけでわかる。

 こいつは絶対悪者だ。

 おれはこうなる前は割とアニメや漫画をかなり読み尽くしていた。

 こういう声を偽って上から目線で見下すような口調のやつは悪者だと相場は決まっている。

 だがいまのおれにはどうすることもできない。

 仮にここが異世界だとして、何故おれがここにいるんだ。

 おれの知識で異世界に行ける方法は大きく分けて2つ。

 一つめは異世界召喚。

 二つめは異世界転生。

 だが自分の中で正解はもう出ているのだ。

 二つ目の異世界転生だろう。

 仮に異世界召喚だった場合はこの身体の説明ができない。

 異世界召喚は通常、元の世界の人間の身体ごと異世界に召喚されるはずなのだ。

 だが、おれはそうじゃない。

 今の自分の身体は明らかに元の世界のものと異なる。

 というかそもそ性別が違うし。

 であるのなら信じたく無いが、二つめの可能性しかない。

 

 「異世界転生....か」


 思わず口に出してしまっていた。


 「な..なぜ....それを....」


 おれは低い声色の悪者の言葉には身を傾けないように両手で両耳を塞ぎながら思考を深める


 「おい....お主よ..なにをしておるのじゃ....わらわの話をきかぬかっ!」


 仮に異世界転生だった場合、言葉通り転生しているのだ。

 まさか!おれは死んだのか?

 元の世界で?

 嘘だろ?いつだよチクショー。

 

 「おーい....お主よ〜..お〜い?....聞こえておらぬのか〜....」


 だがまだここが異世界と決まったわけじゃ無いしそもそもアニメや漫画の設定だからな。

 リアルとフィクションを混合してはいけないな。


 「話を聞くのじゃ!耳を塞ぐのを辞めぬかっ!」


 「えーいッうるさい!人が考え事してる時にペチャクチャペチャクチャと!」


 おれは考え事を邪魔された怒りと訳の分からない

状況を理解できずに自暴自棄になっていた。


 「え..えぇー....」


 低い声の主もちょっぴり引いちゃっている。


 「大体な。姿も見せずに上から目線で何様なんだよお前は!口調や声色からして悪者オーラがびんびんに出てんだよ!」


 頭が混乱して訳のわからないことを言っているのは理解していた。

 こともあろうか、この悪者に八つ当たりしてしまった。

 だが、色々と吐き出してみると思考がまとまり冷静になれた。


 「む....むぅ....口調と声色でお主を警戒させてしまったかのぅ。

姿も見せずに失礼した。では、これでどうかの?」


 そう言うとおれの目の前からピキッという音共に空間に亀裂が入った。

 ますます広がっていく亀裂をみておれは生唾を飲む。

 目の前の空間の亀裂が小さなドアくらいの大きさまで広がるとパキパキと音を立て広がった空間部分の亀裂が砕け散る。

 砕け散った亀裂の先は真っ暗闇で何も見えない。

 カラン....カラン....

 鈴の音の様な音が亀裂の中から響き出したと同時に真っ暗闇だった空間から背丈が低く銀色の長髪の女児が姿を表した。

 神社の巫女が着るようなものしては少々派手すぎる気もするが、そんな感じの格好で銀色の狐耳と狐の尻尾のようなものが歩くたびに揺れていた。


 「よっこらせっと」


 先程の低い声とは裏腹に幼さを感じさせながらもどこか大人の魅力を醸し出すその声を聞いた時、おれは既に警戒する事を忘れていた。

 銀髪の巫女装束の少女は亀裂が砕けたことによってでできたドア形の入り口に足をかけて跨ぐ。

 右足がこちらの空間の地面についた事を確認して、左足もこちらの空間に運ぼうとするが。


 「アダッ!」


 左足で空間を跨ごうとした時に亀裂の入っていない空間に頭が当たって、変な声が出たようだ。

 結構痛そう。

 銀髪の巫女は痛がるよりも先におれの方に視線を移し、不甲斐ない自分を見ていたかと確認する。

 おれは咄嗟に顔を横に向けて視線を逸らす。

 見られていなかった事を確認した銀髪の少女は何事もなかったかのように今度は頭上に注意しながらこちらの空間に降臨なされた。


 「ど....どうじゃ?警戒も解けたであろう?」


 先程打ったおでこが少々赤くなっており、銀髪の巫女も少し涙になっているが、威厳を保とうと必死に涙を堪えていた。


 「あぁ悪かったよ。悪者なんか言って。君みたいに純粋無垢そうな子が悪者な訳ないな」


 第一印象で人のイメージの9割が決まると言うがこれは本当らしい。

 今、身をもって実感したのである。


 「うむ、素直でよろしいッ!」


 銀髪の少女は腰に手を当て、胸を張り、高らかに言う。

 あるようには思えない胸を頑張って強調しようとしているのが可愛らしい。


 「それで、今のこの状況を説明してくれるんだよね」


 「おぉ、そうであった。その事なんじゃが..お主、先程異世界転生などと申しておったな?」


 「あぁ。言ったけどそれが?」


 異世界転生って漫画やアニメだけの話ではないのか。

 

 「うむ..そこまでわかっているなら話は早い。じゃが....正確にいうとお主は異世界召喚の方じゃの。」


 まぁ異世界やらファンタジーやらは漫画やアニメでは鉄板のネタだからそっち系の趣味をかじっている人なら誰でもわかるとは思うけど。

 だが、それよりも今この銀髪の少女は聞き捨てならない事を言ったのをおれは聞き逃さなかった。

 

 「って、ちょっと待ってくれ。異世界転生じゃなくて異世界召喚?仮に異世界召喚ならこの身体の説明がつかないよ」


 銀髪の少女は両眼を瞑りながらおれの話を聞き、大袈裟にうなづいていた。


 「うん。うん。うん。うん。そうじゃな。

じゃが、お前が今使っている身体(ソレ)は間違いなくお主のものじゃ」


 そう言いながら微笑む銀髪の少女。

 笑った時に口元から覗かせる尖った八重歯がこれまたかわいい。


 「説明してくれないか?異世界召喚なのに何でおれが女に、いや幼女の姿で召喚されたのか」


 銀髪の少女はキョトンとした顔で目をパチクリさせながら驚いたような表情を作る。

 そしてしばらく黙り込んだあと恐る恐る口にする。

 

 「わからぬ」


 (直球!まぁそんな気はしてた。今は女の身体だけど元の世界?では女装趣味なんて一切ないドストレートなおとこですよ!)

 と、言いたいのを押し殺し紳士に対応する。

 

 「わからないって....君が召喚したんだよね?」


 「うむ、そうなのじゃが。わらわも初めての召喚じゃからのぅ勝手がいかぬのじゃ」


 だめだこのロリ、説明になってない....。

 

 「わらわから言える事はたった一つ!お主は勇者となり魔王からこの世界を救うのじゃ!」


 (きました〜お決まり展開。)

 これ以上このロリに説明を求めても意味がないだろう。

 だがしかし、異世界で冒険ができる。

 しかも勇者になって魔王を倒すために仲間とか集めて。

 考えるだけでワクワクが止まらない。

 もう前世に未練はない、まぁ死んでないみたいだけど。

 女体とかロリとか色々不満な部分はあるけど、それら全てを含めても異世界の冒険に比べても些細な事だ。

 (うん。そう思う事にしよう)


 

 「....はぁ..わかったよ。それでほかに何か説明しとく事はある?」


 銀髪のロ....少女は腕を組みながら目線を左上に向けながら思い出そうとする。

 (段取りが無茶苦茶じゃないか)


 「んむぅぅ....ない..かの?」


 疑問系で答えられても困るんだけど。

 

 「わかったよ。諸々の情報とかは酒場の宿屋とかから聞くとするよ。」


 「うむ、それにしてもお主。何か手慣れておるのぅ。普通はもっと戸惑うと思ってたのじゃが....まぁその方がわらわも楽で良い」


 どこまでも素直な子だ。

 こんな子が俺の召喚主なのか。

 まぁ偉そうに上か目線であーだこーだ言われるよりかは、ちょっと抜けてる可愛い女の子の方が良いよね。


 「では、最後に能力付与を行うとするかの」


 (きたー!お決まりのチート能力!)

 おれはぶっちゃけこの世界が異世界と決まり、召喚された事を知った時からこの瞬間が待ち遠しかったのだ。

 もちろん顔には出さないし、自分からチート能力くださいと言うほど愚かではないのだ。

 お決まりはしっかり守らなければ格好がつかないからね。

 ここはあえて謙虚に、主人公らしく立ち振る舞う場面だ。

 

 「えー....コホン....気持ちは嬉しいけど、おれも勇者の身。君に頼ってばかりというのも申し訳ないよ」


 そう。

 俺はできる日本人男性。

 施しを受ける時は一度遠慮して二度目で受け入れる。

 がめつい奴とは思われたくない。


 「うむ、良い心がけじゃな。ではお主が魔王を討伐するのを楽しみにしておるぞ!ではな!」


 銀髪の少女がそういった途端、視界が霞み意識が遠のいていく。


 「おいおいおい!嘘だろー!素直すぎるのも限度..が....ある....」


 そこでおれの意識は完全に途絶えた。

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