3.惑星コ〇ナの小国クリトリ〇?
ここで一人の男性が、
「異世界の前に、地球が思い切り危機に瀕しているんですけど?」
と天使に向かって苦言を呈した。
まさにその通りと拓斗も内心思っていた。
すると、壇上にいる天使が、
「地球は、必要以上に堕落しましたので、これを機会に生き残った少数の人々で原始時代から文明の再構築をしていただきます」
と、サラッと説明してくれた。
恐らく、地球で生き残るよりも、大賢者として異世界で生きる方が幸福な人生を送れるに違いないことを再認識させてくれた。
一応、拓斗は、
「俺が大賢者か……」
それなりに期待に胸を膨らませていたが、その一方で複雑な思いもあった。
他のメンツを見れば一目瞭然な気がするのだ。
三十代後半まで未経験者だったことが選出された理由と予想される。
すると、壇上の天使が、
「清く正しく美しくと言われますが、ここにいるみなさんは、正しい存在かどうかとか美しい存在かどうかはともかくとして、少なくとも全員が性的に清い存在です。故に大賢者になる資格が得られました。では、みなさん。一方的な依頼ですが、よろしくお願い致します」
と、イヤな解説を入れてくれた。
拓斗の予想が当たったと言える。
全員、拓斗の仲間と言うことだ。
それから間もなく、その場に集められた者達の身体が、次々と消えて行った。恐らく担当する異世界に、瞬間移動で強制的に送り込まれているのだろう。
数分後には、その場に残された地球人は、拓斗だけになった。
すると、ステージから天使が降りて来て拓斗に言った。
「岸野拓斗さんですね」
「はい」
「アナタには、特別に二人の神様から加護が付与されております」
「付与? ですか?」
神様からの付与と言われると、正直期待してしまう。
しかも二人だ。
期待せずになどいられない。
「そうです。アナタは、たしか埼玉県の鸗宮町の出身でしたね?」
「はい」
「子供の頃、そこの神社の境内に、よく自転車で入り込んでは、境内奥の林の中まで自転車を走らせていましたね」
「えっ? 何故そのことを?」
「しかも、本堂とは別に、林の奥の方に置かれた小さな祠の周りを自転車で回って遊んだりして……」
「済みません。バチ当たりなことをして」
与えられるのは付与ではなく、天罰の間違いでは無かろうか?
拓斗は、一瞬にして天国から地獄に落とされた気分になった。
「たしかに、傍目にはそうですね。しかし、その祠に祀られた神様は、むしろ神様の存在を身近に感じてくれていると喜んでおられました。それで、その神様からアナタの額に魔法反射の力が埋め込まれました」
「魔法反射ですか?」
「そうです。どんな攻撃魔法でも無詠唱で跳ね返します。その際には額に第三の目が浮き上がりますが、塞がれますと発動しませんのでご注意ください」
「分かりました」
一先ず、天罰ではなくて拓斗はホッとした。
「それから、もう一人の神様は、アナタが通っていた大学の近くに祀られていた神社の神様でして、転生先で飢えないようにと、大学時代にアナタが通っていた定食屋と同じメニューのモノを出せる魔法を授けられたそうです」
「そ……そうなんですか?」
「はい。この大津波で、その定食屋自体は無くなりましたけど」
「それは、そうでしょうね」
「ステータス画面を開くと、定食屋のメニューのページがありますので、そこから注文ボタンをクリックすると目の前に注文したモノが現れます」
これは有難い。
異世界に行かされても、これなら絶対に飢える心配は無い。
「そんな便利なモノ、アリなんですか?」
「今回は特別です。駅前のラーメン屋のメニューにしようとの発想もあったそうですが、それでは野菜不足になってしまうことを懸念して、定食屋にしたそうです」
「そ……そうですか」
「たしか定食屋の名前はアンドウサンですかね?」
「はい。123と書いて、12はフランス語でアン・ドゥ。何故か3だけサンと呼んでアン・ドゥ・サン。そこから、アンドウサンになったそうです」
「おもしろいネーミングですね。では、よろしくお願い致します。行き先は惑星ココナの小国クリトリアになります」
そう天使から言われた直後、拓斗の目の前が真っ暗になった。
鷲宮ではなく鸗宮です。