17.酸とアルカリ!
タクトは、重要なことを忘れていた。
思い切り爆裂魔法を放ったのだ。
自分達がいるところにも、それ相当の被害が出る。
彼は急いで、
「結界!」
自分とアルカの周りにドーム型の強固なバリヤーを張った。
超爆裂魔法を受けて、十二死達は、呆気なく全滅した。
遺体すら残らない。
それ以前に、インジュウの街の大半が、爆風で消し飛んでしまっているのだが。
これを目の当たりにしてアルカは、
「凄く激しい。もう、ラメ……」
とかボケた言い回しをしながらも、顔は非常に蒼褪めていた。
この威力は、アルカの想像を遥かに超えていた。
完全にトラウマ級である。
そのまま彼女は全身脱力したかのように、その場に座り込んだ。
多分、アルカは、しばらく歩けないだろう。
それに、ここインジュウの街は既に無いに等しい。
なので、
「結界解除&転移!」
タクトはアルカを連れて、転移魔法で一つ前の街セクロースへと空間移動した。
一度イッた……じゃなくて行ったところであれば、転移魔法で移動できるのだ。
ただ、一回の転移距離は二キロなので、連続で転移する必要はあるが……。
そして、改めて、セクロースの宿で一発……じゃなくて一泊することにした。
爆裂魔法の主と同じ部屋に泊まるのは、アルカとしても精神的に厳しいだろうとタクトは判断した。
それで、
「別の部屋に泊まることにしないか?」
とタクトはアルカに提案した。
さすがに、今日ばかりは、
「そうします」
アルカも別室にすることを受け入れた。
やはり、あの超爆裂魔法は恐ろしかったのだ。
タクトとしても、
「(俺への畏怖の念も生じているだろうな)」
と思った。
しかし、
「ただ、私がいないからと言って、他の女性を連れ込んだりしないでくださいね。これは、私が予約したんですから」
とエロ関連についてだけはブレていない様子だった。
これを聞いてタクトは、
「(前言撤回。コイツ、俺への畏怖の念は無いわ)」
と認識を改めた。
とは言え、お陰でタクトは、この旅をスタートして以来、初めてベッドの上で、ゆったりと一人遊びができる状態になった。
この日の夜、彼は、十三倶楽部のことを思い出しながら、一人頑張るのだった。
…
…
…
そして、スッキリした後、アンドウサンメニューの定食を食べた。
これを食べるのは、まさに転生初日以来であった。
しかも、今日はアルカのエロ要求もエロボケも無い。
なので、ゆっくりと眠れる。
まさに、性欲・食欲・睡眠欲を完全に満たせた平和な夜であった。
…
…
…
翌朝、タクトとアルカは、それぞれチェックアウトした。
タクトは、最初はアルカの様子が気になったが、
「セクロースなのに、タクト様とセク〇ス出来なくて残念です。でも、タクト様は、お一人で楽しめました?」
とか聞いてくるくらいなので、多分、大丈夫だろうと判断した。
そして、タクトは、アルカの問いには返答せず、そのままアルカを連れて、
「連続転移!」
インジュウの街まで空間移動した。
連続転移終了。
改めて、昨日の爆裂魔法の威力が良く分かる。
街が、ここまで綺麗に消し飛んでいるとは。
もしかしたらインジュウには、一夜明けたらハイエナのような魔獣共が、何処から湧いて来て、たくさん蔓延っているのではないか……とも考えていた。
この街の住人達の死体を目当てに集まって来ると思ったのだ。
しかし、ハイエナ魔獣など一匹もいなかった。
理由は簡単。
遺体すら綺麗に消し飛んでいたからだ。
それ以前に、街の大半が吹き飛び、もはや何も無い状態に等しいのだが……。
タクトは、何事も無かったかのように、そのまま一気にアルカを連れてインジュウの街を通り抜けた。
それから数時間後、次の目的地が見えて来た。
その街の名はスワップ。
別名、『アシッドの街』とも言われている。
ここに魔王軍ナンバーツーのアシッドが住んでいるため、このように呼ばれているのだ。
「タクトさん。ここまで送り届けていただき、ありがとうございました。私の家は、この街にあるんです」
「えっ? たしか、家はリリアンにあるのでは?」
「リリアンにもありますよ、別邸が」
「はっ?」
この時、タクトは、
『これって、コイツの正体が、アレって意味だよね? 多分』
と思っていた。
そして、それは現実となった。
「実は、アルカって言うのは偽名でして、私の本当の名前はアシッドなんです!」
「やっぱりか。ってことは、魔王軍ナンバー2の?」
「はい。魔王リリスの妹です」
アルコルがアルカの耳打ちをされた時に怯えだしたのは、恐らく、その時にアルカの正体を知らされたからだろう。
そして、アルコルがタクトとアルカの前から逃げるように走り去って行ったのも、魔王の妹であるアルカを恐れていたからに違いない。
それと、タクトは、一瞬、
「(アルカが今まで俺にHを迫っていたのは、俺からの大賢者の力を奪おうとしていたってことなのか?)」
とも思ったが、タクトは、アルカに自分が大賢者であることを明かしていない。
だったら何故、アルカは今までタクトを性的な意味ではなく、命を奪おうとする意味で襲わなかったのだろうか?
それが、タクトにとっては疑問だった。
少なくとも、タクトはアルカの姉を倒そうとしているのだ。
普通なら、姉を守るためにタクトの命を狙ってきてもおかしくは無い。
それと、もう一つ。
「(アルカのフルネームはアルカ・リンだったよな。つまり、アルカリ。アシッドは酸だから、足したら中和するな)」
とか、別にどうでもイイことを、タクトは、ふと考えていた。