1.海なし県に波浪注意報(?)が出ています
2021年6月11日に何が起こるのでしょうか?
「今日の天気は全国的に晴れるでしょう。続いて明日の天気です。明日は日本近海に小惑星が降るでしょう」
普通、こんなセリフが天気予報で言われるとは誰も思わない。
その有り得ない言葉に、世の多くの人々は、
「はぁ?」
と、ついテレビに聞き返したと言う。
岸野拓斗も、その一人だった。
この時、彼はサウナの休憩室でテレビを見ていた。
彼は、埼玉県在住で、今年で三十七歳になるが、未だに性体験無し。既に大魔法使いになれると言われる状態に突入していた。
もし、このまま異世界に転生したら大賢者も夢ではないだろう。
お天気キャスターの言葉が続く。
「小惑星の直径は約三十キロメートルと巨大なモノで……」
それって、白亜紀末期に地球に衝突したチクシュルーブ小惑星よりも大きいのではなかろうか?
もはや、降ると言う表現は正しくない。むしろ、
『激突だよ!』
と多くの人々がテレビに向かって口を揃えて言った。
お天気キャスターの言葉は、一方的にまだまだ続く。
「小惑星の激突後は、全国的に曇りマーク。空は一面、舞い上がったチリに覆われ、太陽光が遮断されるでしょう」
この時、記された曇りマークは、いつものような白とか灰色のモノではなかった。今回のために特別用意された焦げ茶色のマークだった。
恐らく、広義の意味で雲と呼ばれるモノではなく、舞い上がったチリで空一面が埋め尽くされることを指しているのだろう。
「また、栃木県、群馬県、埼玉県、山梨県、長野県、岐阜県、滋賀県、奈良県に波浪注意報が出ています」
「何じゃそりゃぁ!」
拓斗が、思わず大声を上げた。
とは言え、それが普通の反応だろう。
全ての海なし県に波浪注意報が出るとは、前代未聞である。つまり、小惑星が海に落ち、とんでもないスケールの津波が発生すると言うことだ。
埼玉県まで津波が届く。
それどころか、長野県にまで津波が届くと言うことだ。
言うまでも無く、日本どころか世界中で陸の大半が波に飲み込まれる。
まさに六千六百万年前に恐竜を絶滅させた大事件が繰り返されようとしているのだ。恐らく高さ一キロを余裕で超える大津波が発生するのだろう。
少なくとも、ここで言う、
『ハロウチュウイホウ』
とは、少なくとも、
『ハロー!』
と誰構わず声をかけて来る明るい外人さんがいるので注意してください……と言う意味ではない。
そんなアホみたいなことを拓斗は一瞬考えたが、さすがに口に出したら周りから白い目で見られそうなので、このことは、彼も敢えて声には出さなかった。
ただ、こんな途轍もない巨大津波の襲来を波浪注意報と表現して良いのだろうか?
この件については、拓斗をはじめ、多くの人々が疑問に思っていた。
恐らく、波浪注意報ではなく、大津波警報の方が正しいだろう。
「続いて気温です。小惑星衝突後は、日本各地では猛暑日となります。大変な猛暑が予想されます」
当然、尋常では有り得ないほどの高い気温になるだろう。
恐ろしいレベルの高温に達した熱風によって、全てが焼き尽くされてしまうものと思われる。
なので、一応、温度自体は猛暑日の定義に入っているのだろうが、もはや猛暑日などと言う表現で済まされるモノではない。
日本全国が火炎地獄と化すとでも言うべきだろう。
しかし、そもそも小惑星が激突するなら、何故、もっと早く全世界的にアナウンスされなかったのだろうか?
今の科学力なら、もっと早い段階で分かっていたはずだ。
それを敢えてアナウンスしなかったのは、小惑星激突の確率が100%だったからである。