35話 現実は……
目の前には石でできた壁が見える。
手にはさらさらとした砂の感触が伝わってくる。
私たちは骨のダンジョンでモンスタートラップを踏んで、リッチのスキルを食らって、そのまま意識を失って――
私助かったの!?
あの状況でだよ!?
いやいやいや、一旦落ち着け私。落ち着くんだ。
こういう時は素数を数えたらいいって涼っちに聞いたよ。
よーし、素数ってなんだっけ……?
素数がなんだったかは思い出せなかったけど、落ち着けたから結果オーライだ。
私の頭の悪さには目を瞑ってもらいたい。
あの時、私たちはリッチのスキルによって全ステータス1にされ、さらに意識も失った。
そして、今に至る。ってそれじゃさっきと何も変わらないないじゃん!
あの状況でどうして助かったのかが知りたいの!
あの状況で助かるようなスキルなんて持って………………た!
そういえばそんなスキル持ってたよ。
私生活に影響を及ぼす迷惑極まりないスキルだけど、こういう時だけはほんと役に立つ。
確かサラマンダーの時も今回みたいな感じだったような覚えがある。
なんだか懐かしいね。ってそんな思い出に浸ってる場合じゃないの!
私は助かったけど、2人はどうなったの?
2人は隠密なんて持っていないし、手を繋いでいたわけでもない。
辺りを見渡してみたけど、2人の姿はない。
もちろんリッチの姿もないよ。
もしかしたら2人ともリッチに殺されてしまったんじゃないか。
そして、私には気づくことなくリッチは去っていたんじゃないか。
そんな嫌な予想をしてしまい私はゾッとした。
だけど、まだ殺されたって決まったわけじゃない。
私は嫌な考えを振り払い、その場に立ち上がる。
体が重く、足にもほとんど力が入らない。
頭も痛いし、気分も悪い。
このままもう一度寝てしまいたい。
だけど、私はゆっくりと歩き始める。
「早く2人を探さなきゃ……!」
私はまだ2人が生きているって信じている。
涼っちもことりさんもそんな簡単に殺されるような人じゃない。
絶対に生きているよ!
私はさっきまで倒れていた通路を真っ直ぐ進んで、右に曲がる。
そこまでの距離じゃないけど、足に力が入らないせいでかなり時間がかかった。
そして、進んだ先にはあるものが落ちていた。
「これって、ことりさんの杖、だよね……? どうしてこんなところに……」
私はちゃんと確認するために、杖を拾い上げる。
――パキッ!
軽く握っただけで、杖が折れてしまった。
嘘、杖ってこんな脆いの?
でもことりさんの杖って私と同じ時に手に入れたからこんなに劣化してるはずない。
ということはこの杖は私の杖とよく似ているだけで、ことりさんの持っていた杖とは別の杖だ…………
私はそう思いたかった。
けど、現実は残酷だ。
杖にはまっている魔石を見た時点で、この杖がことりさんの杖だってことは分かっていた。
スライムの魔石がはまっている杖を持っているのはこの世界でことりさんだけだ。
この杖がここに落ちているということは、ことりさんはここでリッチに――――
私は膝から崩れ落ちた。
「うそだ、うそだ…………おねがいだから、うそっていってよ……………………!」
私はうずくまって泣いた。
ひたすら泣いた。
泣いても何も変わらないことくらい分かってる。
けど、けど…………
その時、後ろの方で音が聞こえた。
カタカタというスケルトンの音ではない、人の声だ。
その声はだんだんとこっちに近づいてくる。
「ほかりんまだ起きないのかなー」
「リッチを倒してからもう4時間も経過しているので、そろそろ目を覚ます頃だと思いますよ」
私の名前を呼ぶ声。
聞き馴染みのある声。
「涼っちぃ……!! ことりさん……!!」
よかった……!
2人とも生きてた……!
私はすぐに立ち上がり、涼っちたちのいる所まで走った。足の力が入らないのなんて関係ない。
そして、涼っちに抱きついた。
「うわっ、ちょ、ほかりん!! 急に抱きついたら重いって!! けど、ほかりんから抱きついてくれるなんて…………」
そう言って涼っちはその場に倒れた。
あれ、死んだ……?
「安心して気絶しただけだと思うので、大丈夫ですよ!」
え、いや、それって大丈夫って言えるの?
でも、ことりさんがそうの言うなら大丈夫なんだろう。たぶん。
「ことりさんも無事でほんとによかったよ…………」
私はそう言ってことりさんに抱きついた。




