連絡先
二人が近づいている感じはします
6話です
寒くて目が覚めると神城さんは相変わらず僕の布団の中に潜って頭部以外は布団に包まって寝ている。
「……」
これからはお陰でいつもより早起きをする日々になりそうだ…。
時間は今、朝6時過ぎ。僕は学校の制服に着替えて、鳥たちのさえずりが聞きながら彼女が予め買っている食材で二人分の朝食を作る。
今日のメインは卵をからめた野菜の炒めものだ。味噌汁も野菜を多めに入れてご飯は炊飯器でそろそろ炊く頃合いだな。
彼女が寝る(予定のはずの)部屋を開けて、暖気がキッチンの方まで徐々に来る。そして料理での熱気も相まって適度な室温になる。
「…ん、暑い……」
と色気づいた声でまだ布団の中でぐっすり寝ている。
まったくドキッとしてしまう声だ。それより朝は苦手なのか?
そろそろ料理も終盤に入ったので彼女を起こしにかかる。
「おーい、そろそろ起き……」
僕は彼女の寝姿についギョッとした。寝間着が乱れてへそが見えて、上着の下のボタンが1つ外れていた。
「~~~。おーい、起きてくれーっ!」
「…むにゃむにゃ、……おはよう遠藤君……」
「服、直してくれないか?」
「……え? ……あ、……うん」
思考がまだ回ってなさそうな抜けた声だ。
まったくもう少し節度を持ってほしい……、まぁ、寝起きの人間には酷か……。
そして彼女はパタパタと準備をし、僕は二人分のお皿に料理を盛り付ける。
「もうお皿に料理を盛ったから~っ」
「はーい、もうちょっと待っててねーっ」
僕は彼女の準備が終わるのを待った。
女は準備に時間がかかるとは聞いていたが、やはりそうなのか。男は顔を洗ったらもう終わりだけど、女子は綺麗にするという作業があるから、やはりこれは性別の特徴なんだろうな。
「ゴメン、お待たせーっ」
きちっと身だしなみを整えた公に行く時の彼女の姿は相変わらずうっとりしてしまうぐらい綺麗だな。
「なに、どうかした? 何か付いてる?」
「いや、別に……。外と内の違いを感じてただただ驚いているだけ」
「そう? 女は魔性なのよっ。あらっ、ご飯食べるの待っててくれたの?」
「え? あ、あぁ」
「そ、ありがと…」
彼女は控えめにすっとやたら女性らしく座った。
(やけに殊勝な感じだな)
そして僕達は共に朝食を摂り始めた。自分で作ってなんだが、我ながら美味いな~。感服する味だ。朝から幸せな気分になる。あ、そうだ。
「嫌いな食べ物とかない?」
「え? うーん、生レバーが嫌いね」
「あー、まぁ分からなくもない」
「遠藤君は?」
「椎茸だな」
「へー、そうなんだ。干し椎茸は出汁が効いて美味しいのに」
「あー、駄目駄目。あの味だけは苦手だな」
「他のキノコ類は?」
「それは不思議と大丈夫なんだな、これが」
「へぇ、そうなんだ~」
今日はお互いの好みを知る時間になった。話を聞いて印象に感じているのは、どうやらドラマが好きなみたいだ。朝ドラ、昼ドラ、夜ドラどれも好物らしい。
しかし僕はドラマはほぼ興味ないので、このアパートにはテレビを置いていない。だからエンタメ情報は疎い(ニュースとかはスマホで見られるし)。
彼女にもの寂しくないかと訊いてみたら、動画サイトで見えるから大丈夫だそうだ。
まったくスマホ様々だ。
「あ、話していればこんな時間だ。料理を弁当につめないと」
「ん、これ私の分?」
「そうそう。弁当にもうつめたから先に学校に行ってて」
「ラジャー」
そう言って彼女は先に登校した。まったく静かな空間が好きなのに、これから朝から忙しくなるな~。
と小言を言いながらも、別にそこまで嫌な感じではなかったのは不思議な気持ちだ。
そして僕も登校してクラスに着くと、
「おはよう遠藤ーっ」
親友・カズキがいつもの調子で明るく僕に声をかける。何やら後ろめたい気がして、ついドキッとしてしまう。
「あ! あぁ、おはようカズキ」
「どうした? 朝から元気だなーっ!」
「そ、そうか? まぁ、気持ち良い朝だからかな?!」
これは元気というより、なんか気まずい感じだな…。
カズキの表情を見ると、なにやらいつもよりニヤニヤしている気がする。
何か良いことでもあったのかな?
そして昼休みになり僕はそわそわしてしまう。なぜなら神城さんが一向に僕のクラスに来ないからだ。
(どうしたんだろう? いつもカズキと話しているのに)
いつもと違うことが起きると、少し気になったりするものだ。カズキに悟られないように聞かないと。
「あのさ~カズキ」
「ん? どうした?」
「今日は神城さん来ないね」
そしたら新たな策略に気づいた策士のような笑みを浮かべて僕に尋ねる。
「ほう、明理がどうかしたか?」
「いつも来ているから、珍しいこともあるな~と思って」
「そりゃあ明理が来ない時もあるさ」
「そ、そうだねっ」
カズキは彼女のことをどうでも良さそうに言う。良い風に言うと放任的なのだが……。
(信頼しているってことなのかな?)
僕は二人の見えない絆みたいなのを感じ、少し寂しく感じた。
そしてアパートに帰ると、彼女はもう玄関の前に立っていた。
「は、早いね」
僕は急いで鍵を取り出す。彼女を待たせてしまったことを少し悪く感じた。
「早く帰っているなら、連絡……先はそう言えばまだ知らなかったね」
「そうなの。だから連絡送れなくて」
「……」
彼女は優しい表情でじっと僕を見つめる。一言も言わない、ただ何かを待っているような表情だった。
……も~。
「……連絡先、交換……する?」
「……ん、ありがと」
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価頂き励みになります。