お泊まり
明理は行動に出ます
3話です
「……」
僕はキッチンで鼻歌を歌いながら料理をしている彼女の後ろ姿を見る。この状況が不思議でならない。
(……なんで普通に料理を作っているんだろうか?)
彼女はカズキとデキていないのか?
よく分からなくなってしまった。それにまだ食費のお金を払えていないから、より申し訳ない気持ちになった。しかしどう切り出せば良いか分からず、僕はただ漠然と彼女の料理を出来るまで待った。
「お待ちどうさま」
「あ、ありがとう……今日はなんか多いね」
「うん。この分は私の食べる分だから」
「え? 一緒に食べるの?」
「う、うん。ついでに自分の分も作ったの。……駄目だった?」
「いや、神城さんが良いなら全然構わないよ?」
「そう、それは良かったわ」
彼女はほっとした顔になった。
(……なんでほっとするんだろう)
そして僕達は一緒にご飯を食べ始めた。相変わらず美味しい。優しい味だ。野菜の炒め物とナスの煮浸しと生姜焼きだ。
うん、美味し……ん? 待て、炒め物と生姜焼きはここで作ったのは分かる。こんな美味しい煮浸しは1時間弱で作れないし、そういえばなんか保存容器みたいなのから出してなかったか?
「あのさ神城さん」
「どうしたの?」
「ナスの煮浸しっていつ作ったの?」
「え? あらかじめ作っておいたのよ」
え? なんでそんな用意周到なんだ? まさか……いやいや、まさかまさか……。
「家の残り物とか?」
「違うよ? 昨日のうちに作っておいたの」
「……」
「ふんふ~ん♪」
「……うちに来る前提だったの?」
「……!?」
彼女はしばらく沈黙する。そして恥ずかしそうにしながら言う。
「……だ、だって遠藤君。栄養偏ってそうだし、滋養のあるものと思って」
キュンとなってしまった。か、可愛い。恥ずかしがって、いごいごしているのが余計に可愛い。天使かな??
「それにナスには造血作用があるから、栄養が足りていない遠藤君に丁度良いかなと」
天使確定です、はい。
「……いや、だった?」
「と、とんでもない! 嬉しいよ!」
「そう、良かった」
かなりの笑顔だ。とても嬉しい。しかしやはり一抹の不安がよぎる。カズキのことだ。
「カズキを差し置いてこんな料理作ってもらっていいのかな?」
「? どうしてそこで一喜の名が出てくるの?」
その顔は少し不満そうな表情だった。え? カズキのこと好きじゃないのか?? いや、そんなはずはない。いつも楽しそうにいるんだ。しかし……、
「いや、だっていつも僕のクラスに来てカズキと仲良く楽しんでいるから」
「! ……」
彼女はだんまりして、少ししてからボソッと、
「そう見えているのね……」
「?」
と不思議なことを言った後、彼女はきりっとした表情で席を立ち上がり、
「分かったわ……こうしましょう」
「え?」
「遠藤君は私に借りがありますね」
「うん、食費代がまだ返せてないから……」
「今それを返してもらいます」
「え!? いや、それはまだお金がないから……。もう少し待ってほしい……」
「いえ、お金は大丈夫です。その代わり私の言い分を聞いてもらいます」
「え? それで良いの?」
「ええ」
どんなことだろう? 彼女のことだ。そんな無理な要求はしないだろう。
「う、うん。僕が出来ることなら何でも」
彼女はニヤリと笑う。
「私をこのアパートで泊まらしてもらうこと」
「え?」
僕はしばらく思考停止した。え? 彼女が泊まる。ここで? なんで?
「理由はまだ言わないわ。けど約束はしてもらいます」
「いや、しかしっ!」
彼女がここに泊まれば、そもそも僕の理性が持つだろうか。いや、もたない!!(反語)
「男はみんな獣だよ! 僕だって例外ではないはずだよ」
「大丈夫。女は蛇だから」
それは大丈夫と言えるのだろうか。
「とにかくそれは駄目だよ」
「……けど私はこう言ったわ。『今返してもらいます』って。そして遠藤君はこう言ったわ。『うん』って」
「! ……」
「だから、今借りを返してもらうわっ」
「いや、しかし……」
「だ~めっ。今返してもらうの」
「じゃあ、別の条件を……」
「だめ~~っ」
彼女は折れる気配がまったくなかったので、僕はため息をもらして承諾した。
「じゃあ、親御さんにはどう言うの?」
「うちの両親共働きで帰ってくるの遅いから、『友達の家で泊まる』って送ったらそれで大丈夫よ」
娘の家族ってそんなものなのか? 緩いな……。
「じゃあ遠藤君。ふつつか者ですが、宜しくお願いしますね」
最後まで読んで頂きありがとございます。
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