作りすぎた弁当
彼女が放った一言とは!?
2話です
「よっ、遠藤。昨日の明理の料理はどうだった?」
僕の親友カズキは事もなげに訊いてくる。
「いや、至って……美味しかったよ?」
「だろーー? あいつの料理はそこら辺の料理屋よりよっぽど美味いよな!?」
「う、うん……」
確かに美味しかった。昨日は青椒肉絲とご飯と葱をまぶした冷や奴だった。どれもシンプルな味付けで見栄えがするものではなかったが、家庭的な味で青椒肉絲の油とご飯が絶妙にマッチして米が進み、冷や奴は冷や奴で葱と豆腐と醤油しか使ってないのに、これ以上ない組み合わせで無駄がなかった。
しかしここで美味しいと褒めすぎてしまうと、僕が神城さんのことに興味を持ったと思ってカズキが僕のことを気にしては困る。
いや、待て。カズキと僕との魅力度は雲泥の差、月とすっぽんだ。カズキのライバルにすらならない。あんまり気にし過ぎないようにするか。
そしてそうこうしていると休み時間にいつものように神城さんが来る。
「明理か、また性懲りもなしに来た来た」
彼女の幼馴染みがニヤニヤしている。
「え? もうっ、そんな言い方はないでしょう?」
彼女は戸惑った言い方をしながら、ちらちらこちらを見てくる。
クラスの男子達は彼女を傍観しても話かける人はいない。他の連中もある程度二人の仲を知っているし、傍から見てもベストカップルだ。男女ともに邪魔しようとする輩はいない。
それに僕とカズキの仲も知っている。だから僕がカズキ達の輪の中にいても、周りからのやっかみも特にない。まぁ、僕と神城さんが話ている時は、少し男子からの羨望の眼差しがあるが……。しかし考え方に寄れば、もしかしたら僕は彼女と話せるだけである意味幸せかもしれない。
「昨日の料理、美味しかったそうじゃないか。良かったな明理」
「当然よ。遠藤君、昨日は瞠目してがむしゃらに食べていたもの」
そうだったのか。こんな可愛い子にそんな姿を見せてしまって恥ずかしい……。
「空腹だから美味しく感じただけじゃないのか?」
「え? そうなの?」
「え?」
彼女は不安な顔をしてこっちを見てくる。僕は急いで首を横に振る。
「そんなことないよ! とっても美味しかったよっ」
彼女はほっとした顔になっていた。
「もう、一喜。余計なこと言わないでよ」
「メンゴメンゴ♪」
二人の掛け合い見ると相変わらず良いコンビだな。相性ぴったりだ。さて二人の邪魔は極力避けよう。
そして僕は立ち上がる。
「遠藤。どこか行くのか?」
「いや、えーっと、自販に行こうかと」
「あ、じゃあ俺達も行くか」
「そ、そうね。そうしましょう」
え!? いやいや、何でだよ? せっかく気を回して席から離れようとしているのに、それじゃあ意味ないじゃんっ。
「良いよー。一人で大丈夫だから」
「何言ってんだ。俺達親友同士だろ? それぐらい大したことないだろ? なぁ、明理もそう思うだろ?」
彼女はコクンコクンと頷く。
困った。何でだよ~?
「そうか、それなら…………行く?」
断る理由も思い浮かばず、気を回して席を立っただけなのに僕は仕方なく彼らとともに自販でジュースを買った。
そして昼休みになり、急いで購買に行き、今日の昼の食費代300円でパン二個を買ってきたが、やはり若さみなぎる16歳。…………足りない。
「はりゃ(腹)減った……」
机にへばりつきながら、僕は項垂れた。
「まだ入金はないのか?」
「うん……」
「……」
昼休みは来ない神城さんが珍しく来ていた。
「腹が減って目眩が……」
「あれ? 明理、そのべんとう箱はどうした?」
「え? これ? これはすこし料理をつくりすぎたんだ」
「そうか、そうか。それはたいへんだな」
「うん」
「俺もおなかいっぱいだし、だれかそれをたべてくれる良き男子はいないかな?」
僕はその話を聞きながら、その弁当から目が離せなかった。
「あら? どうかしたの遠藤君?」
「いや、その……もし良かったら僕が……」
「いや、僕が食べましょう!!」
「いや、俺だ!!」
横から二人の会話を聞いたであろうクラスの食べ盛りの男子達がわーっと二人を囲むように集まった。
やんややんやと席の近くが騒がしくなり、空腹には少しこたえる。
そしたら彼女はきっぱりと周りに言った。
「待ってっ。良い? ここに私の友人が空腹で弱っているの。悪いけど彼を優先にさせてもらうわっ」
僕は驚いた。彼女のことをただの親友の幼馴染みとしてしか思ってなかったが、彼女は僕のことを既に友達と認識していたようだった。
周りは少々不満そうだったが、彼女が言うならという理由で僕にその弁当をもらった。(弁当箱は洗って返すつもりだったが、彼女はなぜかそれを不許可した)
プーーピーー、と豆腐屋さんの鳴らす音を聞きながら、今日の彼女の言動を回想する。
──私の友人が空腹で弱っているの。(略)彼を優先にさせてもらうわっ。
友人……か。僕はその言葉を彼女の口から聞けてほっこりしてしまった。
そして少しスキップしながら帰っているとまた僕の部屋の前に誰かいた。
誰だろうと思い見ていると、また神城さんが手提げカバンを携えて立っていた。
「神城さん!?」
「こんばんは遠藤君」
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