アパートの掃除
こ、これは……!?
16話です
くっ、一体どうすれば……。
前には余裕の笑みを浮かべる光ちゃん、後ろにはなんか負のオーラをふすまから覗いてくる明理。またしても挟まれた。しかし今回は物理的なだけでなく、心理的にもだっ。
「見たくないの~~??」
スマホをぶらぶらさせながら僕を煽ってくる。
見たい! ちょー見たい!! 彼女のあられも無い姿がかなり気になる!!
しかし……僕は後ろにいる明理をちらっと見る。目を細めてじーっと見てくる。なぜか冷や汗が流れる。……なんとなくだが、明理を差し置いて行く訳にはいかないか。
僕ははぁとため息を吐いたら、
「……いいわ、光のアパートに行ってきたら?」
隣の部屋にいる主の声がそこから聞こえてきた。
「え? 良いのかい?」
「まぁ、構わないわ……っ」
そう言って彼女はふすまをすっと閉めた。
「……行って良いそうです」
「…………」
次は光ちゃんがじーっと目を細めて見てくる。
「何だよ…?」
「……別に!??」
彼女はぷいっとそっぽを向く。
なんか久しぶりに彼女のツーンとした言い方を聞いた気がする。
そして彼女の仕事が休みの日、僕は光ちゃんの案内で初めて彼女のアパートに見に行くのだが、
「…………」
言葉が出ないほどデカいマンションだった。
何だこれ!? デケーーーーッッ!!? 流石は売れっ子女優、金持ちだな……。
そして彼女の部屋に入ると、これはこれで見事なほどかなり部屋が散らかっていた。
「こ、これは凄い……」
「いや……、それほどでもないけど……っっ」
「褒めてない、褒めてない。絶賛幻滅中だ」
「えーー……」
いやまあ、しかしこんだけ散らかっていたら、掃除のやり甲斐があるってもんだなっ。
そして僕は三時間かけてこの部屋のゴミを片付けた。
「ひゃーーっ、疲れた……」
「お疲れーー、体汚れたでしょ? お風呂に入っていきなよ?」
「あーー、そうするか」
そうして僕はあまりに広いバスタブに驚き呆れながら、そこで体を洗った。
やけに香りの良いシャンプーだなーっ。……高いのかな?
「ふーっ、さっぱりしたなー。ん? 僕の服は??」
洗面所に脱いだはずなのに、その服がなぜかなくなっている。
(?? 何でだ?? まぁ、仕方ない。少々恥ずかしいがタオルを巻いた格好で出るか)
「……なぁ、僕の服は?」
「汚れていると思って洗濯機に入れといたわっ」
「お!? やけに気が利くじゃないか。日頃は面倒くさがってしないのに珍しい」
「う、うん……」
彼女はもじもじしながら目をキョロキョロとする。
「どうかしたか?」
「え? いや……その……意外と……筋肉あるのね……?」
「え?」
彼女は手をもじもじしさせながらこっちを見たり、あっちを見たりする。彼女がやたら恥ずかしそうにするもんだから、僕もなんか変に意識して急に恥ずかしくなってきた。
「あ、あの洗濯機はどこっ?」
「あ、あの向こうにあるわっ」
「わ、分かったっ」
僕はその場から離れるようにそそくさと洗濯機の方へ向かった。
お、そろそろもう終わる。……あれ? そう言えばここ……、
「ここ乾燥機あるのか?」
「えーー? ないけど?」
彼女はさっきの場所から大きい声を出して言う。
おぉーい!?? 何だって!?
「どこで渇かしたら良いんだ!?」
「えー? 普通に部屋干しで渇かないの??」
おい、何時間かかるんだよ……。
そして洗濯機のタイマーがピーッと鳴り服を取り出すと、……なんかあんまり洗剤の匂いがしないぞ?
「な、なぁー?」
「どうかしたー?」
「洗剤……使った?」
「え? これ洗剤付きの洗濯機でしょ?」
「いや、これ違うぞ!?」
「えーー!? そうなの!? てっきりそうだと思ってたわーっ?」
これじゃあただ服を濡らしただけじゃないか!? この生活力皆無者めー!!
仕方なく僕は一から洗濯をし直した(そして近くに洗剤があった)。そして服を部屋干しをしながら、タオル一枚でくつろぐ。
まったく初めての部屋(しかも女子の部屋)で、こんな格好になるのは勘弁してほしい。
「あ、そうだ! 大塚詩音の写真見せてくれよっ」
「あ、うん。そうだったわねっ」
よしっ、これで大塚詩音のあられも無い姿が!!
だがしかし……、
「全然あられもない姿じゃないじゃん!?」
「えーー!? こういうゆるゆるなプライベート写真って、有名人からしたらあられもない姿よ!?」
くっ、騙された……。折角ここまで掃除頑張ったのにっ……。はぁ~~、早く服を渇かして、帰りたい……。
「あーー、しょげてる!! ひどいっ! 折角こんな貴重な写真見せてあげたのに!!」
「いやだってさ~、期待したのとかなり違ってたから……」
「なに? Hなこと期待してたの?」
はっ、しまったっ! ついっ、本音を!?
「は!? バカっ! 違……」
「顔紅くしちゃってっ。Hっ♪」
「だ、だから違うって!!」
僕は熱くなり、勢いあまって膝立ちしようとしたが、足元がおぼつかなくなった。
「わっ!?」
「え? ちょっ……きゃっ!?」
僕は光ちゃんを不意に押し倒してしまった。そしてお互いに見つめる状態になる。
「……」
「……」
部屋の中がいきなり静寂になり、僕達の空気が一変する。
(こ、これは……)
腰に巻いていたタオルがはだけた状況に僕たちが気づくのはもう少し後だった。
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