明理の子役時代
明理は過去を語ります
14話です
「光が言っていた通り、かつて私は子供の頃に役者業をしていたの」
彼女は上を向き、少し懐かしむように語り始めた。元々彼女は児童劇団出身でそこで練習をしていたそうだ(カズキも元はその劇団員だったが、初めから遊び感じだったそうだ)。そしてその可愛さと芝居の表現力で人気子役になり、テレビなどに引っ張りだこになったと言う。
「『神山江美』という名前は元々私の芸名だったの」
「そうだったのかい?」
「えぇ。そしてその頃は順風満帆で、色んな子役と交流したり切磋琢磨したものよ」
彼女はその頃のことをしみじみと楽しそうに言う。しかしそこから彼女の声色が変わる。小学校の中学年になると転機が訪れるのだ。そう妹・光さんの存在だ。
「光はそのころからめきめきと頭角を表して、遂にあの子の表現力が私より上手くなってしまったの!」
明理さんは声を震わしながら言う。
めきめきと才能を伸ばしていく光さんはあっという間に彼女を抜いたそうだ。
「そういう時テレビ局は聡いわよね。次は光にスポットを当てるようになったんだから……」
「……」
そして明理さんは努力を積み重ねたが上手いように表現が出来なくなったという。
「そしてどんなに芝居を練習しても良い表現が出来なくなったのよ。そこでテレビ局は困ってしまった。このままでは女優・『神山江美』が死んでしまう。そこで彼らは私達が双子だということを利用した」
「まさか……」
まだ光さんがテレビに出始めたばかりで、そこまで有名じゃない頃。そうつまり、世間では彼女達が双子だと言うのをまだ知らないのだ。
「まだその時光はそこまで売れてなかったから。私の芝居の表現が限界になって、入れ替わるように光が『神山江美』になったの」
それから明理さんは自分の才能の限界を感じてその世界を引退したという。
「……」
「それから光が『神山江美』として全国的に有名になったのは周知の事実よ」
それからの明理さんは女子力を極めようと心掛けて、家事をするようになったという。
「まぁそれで光は女優業、私は家事をするようになった訳」
「そうだったのか……」
才能の差。それだけは努力ではどうにもならないことだ。それに自分が楽しいと思ってたことを才能ある妹に故意じゃないとはいえ取られてしまったのだ。かなりツラかったのは想像に難くない。
「でもなんでそんなツラいことをわざわざ僕に言ってくれたの?」
「貴方には私のこと見て欲しいから。それに……」
彼女はすっと公園の椅子から立ち上がり、
「これ以上光に大切なことを奪われたくないしっ!」
「ん? それは一体どういう……」
「今は別に分からなくても良いわよ、にぶちんさん」
「……?」
「あ、もうこんな時間。そろそろアパートに戻って料理を作らないと」
「あぁ、そうだな」
「帰るまでがデートだから、気を抜かないでね」
「なんか遠足みたいだ」
「あぁ、それと私のことはもう『明理』で良いから」
「え、でも……」
「そう言ってくれないと、ここで泣いちゃうから」
そう変な脅しを言われた後、公園をもう少し散策して僕達はアパートに戻り、料理の支度をした。
それから数日後、遂に母親から銀行に仕送りが入金された。
「……や、やっとこれで気兼ねなく自由にご飯を食べられるぞ~~」
やっとの思いで仕送りが手に入り、喜びも一入だ。これで明理と……もう暮らす必要はなくなるな。元々食費の引き換えに住む約束だったから。
「……」
さて明理には何て言おう。仕送りが届いたからもう食費の心配はしなくて良いよ、とかかな? しかし彼女も分かっていたはずだ、この約束は限定的だったと。まぁ素直に事情を説明して、ここを第二の家と思っていつでもアパートに来ても構わないみたいな感じで伝えるか。
そう僕は吞気に構えていたらまさかのになった。
「へ? 僕とこれからも一緒に住むだって!?」
「うん」
「えっとー、けどもう明理がここに住む理由は……」
「このアパートの家賃を私と折檻するの。遠藤家の家計の負担が少なくなるし、そうすれば私が住む理由が出来るでしょ?」
「いや、しかし……」
「え? もしかして私との生活は不服だった???」
「いやまさかっ! そんなことないよ!! 居心地良かったよ!? ……でもただどうしてそこまでするの?」
「それは……もう少し遠藤君と暮らしてみたい~からかな?」
「……けど月々だから結構な金額になるよ? 二週間の食費どころの問題じゃあ……」
「今まで私が稼いできたお金があるから問題ないわ」
「…………」
うちの親は軽いから承諾するだろうな(案の定承諾した)。僕……こんな綺麗な子と同じ屋根の下に住んで、気持ちを抑えられるかなーっ??
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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