金欠
新連載です
宜しくお願いします
僕は遠藤洋文、今年高校2年生になる。顔は普通、成績普通のどこにでもいる普通の高校生だ。まぁ、唯一変わっていることと言えば実家が学区外のため一人で学校近くのアパートに住んでいることくらいだ。
季節は春だ。陽気な春! さて学校に着いたことだし……寝るか。
と僕は気持ちが良い気候に当てられて、うたた寝しようとするのだが……、
「……一喜もそう思うでしょ?」
最近よく聞くこの声は……多分……、
声の方を見るとやはり学校一の美人さんである神城さんが僕の親友の真宮一喜(以下:カズキ)と話をしに、またこのクラスに来ていた。
カズキと神城さんは昔からの幼馴染みであるらしく、二人がいる時を見ると非常に仲がよく見える。またカズキはサッカーのレギュラーでイケメンで成績優秀で女子からよくモテるし、神城さんもかなりの美人で去年の校内のミスコンで優勝を飾った。そして勉強も優秀らしくまさに才色兼備だ。
モブの僕から言うのもななんだが、二人はお似合いな感じがする……が、
「お前はどう思う? 遠藤?」
「……え? どうっと言われてもだな……」
そもそも話を聞いてないんだけど……。
カズキと僕の席は隣同士で話しかけやすい距離ではあるが、今は二人が楽しんでいるから、僕は彼らの邪魔をしないように気配を抑えているのに、話を振るなって。
そして彼女もちらっとこっちを見てくる。
「ゴメン、何の話だ?」
「だからなっ、明理がまた光とケンカしたそうなんだよ」
明理とは神城さんのことだ。光というのは話から神城さんの妹らしい。
「そうなんだ。ふーんっ……」
「それがさ、光が明理のお気に入りのマンガをなかなか返さないんだって」
彼女は僕を見ながらコクンコクンと頷く。
「は、はぁ……それは良くないね?」
どう反応したら良いか分からず、ありきたりの言葉で返してしまう。
しかしそんな並の返答しかしてないにも関わらず、彼女は少し口角をあげ嬉しそうな顔をする。
「遠藤君もそう思うでしょ?」
「え、う、うん……」
「まったく、いつもいつもよくそんな些細なことでケンカ出来るな?」
「まぁ、それが姉妹ってもんでしょ? 一人っ子の一喜には分からないだろうけど」
「あー、まったく分からないぜ。遠藤は妹いるんだろ? やっぱりケンカするのか?」
「うーん、うちは今妹が思春期真っ最中だから、家に帰ってもあまり話をしないかなーっ」
「……」
「……あー、そうか。それはそれで大変だな」
「特に思春期の女子は気が難しいから、遠藤君も気をつけてねっ」
「あ、ありがとう……」
そう優しく諭してくれる彼女の顔は相変わらず本当にアイドル顔負けの可愛さだった。
(本当に綺麗な顔だな……)
そう思いながら僕は机の方に向き直し、横になった。
そして日が変わっても彼女はいつものようにカズキの席でいつも楽しそうにその親友と談笑していた。
(こいつらいつ付き合うのだろう?)
しかしそうのんびり考えていられない事態になった。ある日のこと、今月の親からの仕送りが途絶えてしまった。原因は親の中期の旅行である。うちの母親は少々抜けている性格で、どうやら入金するのを忘れていたみたいだ。
「ゴメ~ン洋文、入金し忘れちゃった。テヘペロ」
「いやいやテヘペロじゃないよ! こっちは死活問題だよ!」
「アメリカ$で良いから送ろうか?」
「日本じゃ使えないし!?」
(母さんめ~~~~! これで3回目だぞ! お金入れるの忘れんなよーーーっっ!)
それからというもの、銀行にある分のお金で節約しているものだから、食費を減らすしかない。だからお陰で腹が減る、授業中にお腹が鳴り響く。
「大丈夫か? 遠藤?」
親友が心配そうに言ってくる。
「大丈夫……ではないな……」
「どうかしたの遠藤君?」
またいつものようにクラスにやって来た神城さんがカズキに訊いてみていた。
「なんか親が仕送りを忘れたみたいで、今金欠気味だそうだ」
「え!? そうなの!?」
そして僕のお腹がぐ~~っと返事をする。女子にしっかりしたところを見せる余裕もなく、僕は液体のように机に項垂れていた。
そして僕の肩に温かく優しい感触が当たる。
え?
「だ、大丈夫?」
神城さんがこっちに来て、心配そうな顔で僕の肩をゆさゆさしていた。
「え、いや……だ、大丈夫……」
ぐ~~~~~~~~~~~。
「……じゃない」
僕はとても恥ずかしい気持ちになった。
「そうだ明理、遠藤に料理を作ってやれよ」
「え?」
「とりあえず食事さえ食べられれば大丈夫だからさ、料理を作ってやれよっ」
「……」
「いや、だからそもそもの食費があまり……」
それに二人の仲に割り込む訳には……、
「分かった、やるわっ」
「え?」
彼女はそう言ってクラスから出て行った。
(一体どうなって…………それより腹減った)
そしてふらふらしながらコンビニでお菓子を買い、アパートにゆっくり帰って部屋に向かうと、僕の部屋の前に誰かいる。
(だ、誰だ……?)
じ~っと見ているとなんとそこには神城さんがいた。
「え? 神城……さん?」
彼女は手提げカバンを持って立っていた。
「あ、遠藤君!」
「どうしてここに?」
「一喜に教えてもらったの」
(カズキが? 何でまた?)
「お腹空いているでしょう? 料理作ってあげるわ」
「え?」
「さぁ、ドアを開けて」
「いや、しかし……」
「さぁ、早く!」
彼女がやたらグイグイ来るから仕方なく、ドアを開ける。
「わ、なんか男子の部屋って感じ」
僕の部屋は一人で住んでいるせいか色々と物が散らかっている。
(なんか済みません……)
「さー、料理を作るぞーー!」
そして彼女はなんか気合いを入れ始めて料理を作り始めた。それから30分満たないうちに三品出来た。見るからに美味そうだった。
「これ、食べていいの?」
「もちろんっ」
「けど食費はどうしたら?」
「それより先に食べて。料理が冷めちゃう」
確かにせっかく作ってくれたのに、勿体ないな。
「いただきます」
そして僕は一口食べて久しぶりの美味しい料理に感激し、無我夢中で食べた。
「いや~、美味しかったー。生き返ったよ。ご馳走様ー」
「それは良かったわっ」
とはいえなぜ彼女はこんなにも嬉しそうなんだろう。いやそれよりも、
「それより今作ってくれた食費代まだ払えないんだけどっ……」
「あ、それより今日余った食材、冷蔵庫に入れてあるから」
「え? う、うん」
「じゃ、遠藤君。またね」
「え? うん、また……明日?」
そう言いながら彼女は颯爽と僕の部屋から出て行った。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
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