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オルタナティブ・アイ  作者: 波羅 真琴
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chapter4

ーーもう1ヶ月くらい前のことだ。俺はSGFというナノマシンのせいで何ヶ月も植物状態になっていたある日、医者の連中に隔離病棟みたいなところへ移動させられ、そこで奇妙な青い液体を体内に投与されたんだ。抵抗したくても身体が不自由になった俺には何もできなかった。投与されたその瞬間、痛みも何も感じなかった身体に衝撃が走って、気づいたら別の場所で目を覚まし、アヤトとユキに出会った。

『私たちは同じ場所でほぼ同時に目覚めたの。それでさっきまで君が経験したように、突然変な機械に襲われて…ここに来てからずっと、酷いことが立て続けに起こったんだ。』

『つまり、この無茶苦茶な場所に来た人たちは、SGF被験者ってこと?』

『そういうことになる。あと一つ共通する点があるとすれば、青い変な薬液を投与されたという点だ。』

 なるほど。じゃあここは天国でも地獄でも、死の世界でもないってことか。

 でも、理解が追いつかなないことは山程ある。

 まず、この容姿だ。どうして僕は自分の記憶にもない謎の外人女性の姿になってしまったんだ。それにさっきの鉄杭で攻撃してきた奴。僕を人間だと攻撃してきたあいつはなんだったんだ。あいつも殺戮ロボットの仲間だったのか。じゃあ何故仲間を攻撃したんだ。仲間割れだったのか。

 それ以前にーー

『ここは、この訳がわからない現象が起こっている場所はなんなの?どう考えたって現実じゃないよね。』

『…あくまでも仮、仮の話だぞ。』

 ユキに叱責され沈黙を保ち続けたアヤトがゆっくり口を開く。

『ここは仮想世界なんじゃないか?2100年代のフルダイブVR技術の実験対象として俺たちが選ばれたとする。ところが、何らかのシステムエラーで俺たちは仮想世界に閉じ込められて今に至る。これなら説明がつくと思うが。』

 アヤトの説明には説得力がある。VR技術のおかげで高齢者や傷病者のリハビリの質が向上したということをニュースで聞いたことがある。

『でも、VRってヘルメットやゴーグル、或いはAR技術を搭載したコンタクトレンズ装着する必要があるでしょ。ナノマシンやマイクロマシンを使って仮想世界でリハビリをするっていうニュースとか聴いたことないし』

『だから仮の話だって言っただろ!俺だってわかんないんだ!ここが仮想現実だって考えれば、システムが復旧したらここから出られるかもしれないっていう希望が持てるだろ!』

 アヤトの口調に苛立ちと焦りの感情が混ざっていた。アヤトの様子を見ていたシュウもユキも戸惑いの表情を浮かべている。

『…よ、よくわからないけど』

 気まずい雰囲気を変えたくて、思わず声を出した。その時だった。

『おわっ!』『なっ!』『へ?』『うわ!』

 全員の身体が何かに吸い寄せられるように、頭上へ勢いよく飛び上がった。まるで重力のような何かに引っ張られて堕ちていく感覚だ。

〈目標地点補足。目標地点へ移動開始〉

『なにが、なにが起こってるんだ!?』

『わからない!多分、移動先が決まったんだ!』

 移動速度が急上昇し、銀色と紺碧に輝く飛翔物たちが目にも止まらぬスピードで視界を通過していく。数秒後、急激に減速するとともに眩耀が視界を占領し始める。あまりの眩しさに思わず顔を背けた途端、体勢を崩してしまい床に腰をぶつけてしまった。

〈目標地点到達〉

『ニンゲン、コア、ユ、メ、キボ、ウ』

『ア、イデンティ、ティ、ソンザ、イショウ、メイ、ジ、コガ、イネン、キボ、ウ』

 ノイズ混りの歪な音声が脳内に直接響いてくる。周りを見渡すと灰色に淀んだ暗い空間の中央に2つの人型の影が蠢いていた。目を凝らすと、そこにはスクラップで出来上がった四肢を強引に動かす人形が、身体をくねらせ僕らに近づいてきていた。その人形たちの目の大きさは不揃いで、顔に亀裂のような痕が残っていた。

『ニン、ゲンカ、ラ、ユメモ、ライ、イ、キルヲ、シ、ル』

『ソンザ、イモラ、ウ、ニ、ンゲン、二ナ、ル』

『な、なんだこいつら』

 人形たちの両手から鉛色の触手のようなものが垂れ下がっている。血管のように脈打つその触手が僕らに向かって襲いかかってきた。

『危ない!』

 誰かに突き飛ばされた。気づけば、僕の代わりにアヤトが人形の操る触手に絡めとられ、身動きが取れなくなってしまった。

『今助ける!』

 シュウの右腕に装備されたレーザー光線が、アヤトに纏わり付く触手を焼き切っていく。ところが、切断部位から触手がさらに増殖していき、化け物のように膨れ上がっていく。

『アヤト!待ってて!いま助けーー』

『こっちに来るな!!』

 絶望的な表情を浮かべているユキに向け、アヤトが声を張り上げた。人形の触手が彼の身体に食い込んでいき、徐々に腕や脚が本来曲がらない方向へ歪曲していいった。助けられた僕は恐怖で身動きが取れず脚が竦んでいた。異形の生命体に殺されかけている彼らを見て、自分も同じ目に遭うんじゃないかと不安に駆られている。

 なんで、なんでだ?僕は死んでもいいはずだろ?

『がっああああ!』

 アヤトの身体が深紅の色に染まっていく。限界を迎えたのだろうか。

 そう思っていた時、彼の胸部から身体を突き破るように謎の腕が生えてきた。腕に続いて、頭、胴体、脚が順に出現し、アヤトの身体からルビーのように輝く瞳と深紅に染まった髪を持つ少年が現れた。少年の右腕には、シュウと同じ銃型の武器が装備されていた。

『おいおい、まだ死なないでくれよ。』


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