表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/103

第99話 魔物誕生の理由

「原初の……母……エターナル?」


 僕はその名を聞いた時、ライアの涙を思い出した。

 今朝ライアは僕に泣きながら言ったんだ。


 『ままはいたのに、おもいだせないの』と。


 始祖の封印によって消された記憶。

 スフィアと言う過去の呼び名に『ぽかぽか』すると言っていたけど、それが何を意味するのかライア自身は分かっていないようだった。

 母さんは始祖が記憶を消した理由を『始祖との別れの悲しみを消し去り、目覚めた後に幸せが訪れる事を願って全ての記憶を消した』と推測している。

 それについては僕も賛成だ。


 だけど、始祖が消したかったのはそれだけじゃなかったんだと思う。

 だってライアには始祖の封印を以てしても消えない記憶が存在していた。

 『ままはいた』と言う記憶はライアの中に深い悲しみと共に残り続けていたんだ。


 始祖が『まま』だった? ううん、多分違うと思う。


 最初はそうかもしれないと思っていたけど、始祖の手記を読んで違うと思った。

 始祖の手記の中にはライアの事を愛でる言葉は並べていたが、それは母性ではなく、ちょっと言葉が悪いけど愛玩動物的な物だったんじゃないかな。

 何しろ当時のライアは今と違って身の丈三メートルの毛むくじゃらな齢千歳を超える巨人な訳だし、逆に始祖の方がライアに甘えていたんだと思う。

 それに始祖は自分に包容力が足りないからサイスとの契約に失敗したと後悔していたしね。


 だったら始祖の封印でさえ消せなかった『まま』の存在とは誰なんだろうか?

 そしてその悲しみの意味とはなんだったんだろうか?

 それが気になっていたんだ。


 その答えを知るのがこれから始まる僕の旅の目的の一つだった訳なんだけど、こんなにも早くその手掛かりが齎されるとは思わなかった。

 トレ爺の語る原初の四体のそして全ての魔物の母エターナル。

 その存在こそが、ライアの消せない悲しみの記憶にある『まま』その人なんだろう。


 それに思い至った僕は慌ててライアの方を見た。

 もしかするとその名前を聞いた事によって悲しみの全てを思い出してしまうんじゃないだろうか?

 始祖が幼体では耐えられないと判断したからこその記憶消去なんだ。

 それをこの場で思い出すなんて事になったら……。


「ライア!」


 僕はライアの名を呼ぶ。

 お願い! 思い出さないで!!


「うにゅ? なぁにぱぱ?」


「あれ?」


 僕の目線の先のライアは、なにやら地面にしゃがみ込んだ状態で僕の方を振り返りキョトンとした顔していた。

 手元を見ると、どうやら地面に転がっている何かを拾っていたようだ。


「い、いや。な、なにしてたの?」


「にゃんかぱぱたちがむつかしいこといってるからどんぐりひろってたの!」


 僕の問い掛けにそう言って満面の笑顔で両手いっぱいのどんぐりを僕に見せてくるライア。


 …………。


 良かったーーー!! 今の話を聞いていなかったのか。

 精神まで幼児退行していたお陰で助かったよ。


「そうか、偉いねライア。……母さんお願い」


「分かったわ。ほ~らライアちゃん。 美味しい飴玉をあげるわ。あっちでおばあちゃんと遊びましょ」


 ライアを褒めつつ母さんに声を掛けると、僕の考えを察してくれた母さんはすぐさまポケットから出した飴玉をライアの口に放り込んだ。

 するとライアは嬉しそうに飴玉を頬張り母さんに抱っこされながら離れていく。


「トレ爺なら気付いているかもしれないけど、ライアはあんな姿していても実は原初の四体であるライアスフィアなんだ。そして――」


 僕はトレ爺にライアの身に起こっている特殊な事情を話すことにした。

 従魔術の始祖によって記憶を封印され三百年の眠りに付いたこと。

 僕がその封印を解き絆魔術によってちっちゃ女の子の姿になっちゃったこと。

 それでもなお、失われた『まま』の記憶で涙を流すこと。


 これ多分ダンテさん達にも聞かれちゃったな。

 けど創魔術の事は口にしてないし原初の四体の事やライアスフィアの名前はよほど魔物学に通じてないと知らない筈。

 僕の秘密に関してはもう普通じゃないと言う事はバレてるし今更か。

 

「なるほどのう。その様な事情があったとは。儂とした事が迂闊じゃったわい。魔石の波動にてライアスフィア様に連なる眷族であろうことは察っしておったが、あまりの変り様によもや同存在だとは気付かなかったぞ」


「まぁ、元のライアを知っているなら仕方無いよね。……って、トレ爺は元のライアを見たことあるの?」


「あぁ、あるともさ。第一世代である儂は魔物達解放のあの日あの場に居たのだからの」


「な、何だって!」


 トレ爺の言葉に僕は驚きの声を上げる。

 サイスが原初の四体を封印から解き放ち『パンゲア』を滅ぼした事は始祖の手記にも書かれていた。

 その出来事を知る存在が当事者であるサイス以外にも生き残っているとは思わなかった。

 第一世代ってのはそう言う事なのか。


「言っておくが儂は解放に加担した訳ではないぞ。その逆じゃ。如何にパンゲアの楔から解き放たれた我らが強大であろうとも、パンゲアには創魔術が有る。その力を戦に振るえば大地のマナは更に枯渇しこの星が死滅してしまう。儂達自然種はその破滅を避ける為にデスサイス嬢を説得しようと封印の地である旧創星研究所に向かったのじゃよ」


「封印の地……創星研究所?」


「うむ、その地こそ原初の四体様が創生された場所であり、我ら全ての魔物の母であるエターナル様が逝去された場所なのじゃよ。元々魔物とは戦いの為の道具として創られたのではない。創魔術によって急速にマナが枯渇するこの星を蘇らせる為にエターナル様はマナの結晶である魔石を研究し、それを核とする生物を創った。それが原初の四体と呼ばれるお方達なのじゃ」


「そ、そんな……」


 始祖の手記でもそこまでの事情は書かれていなかった。

 魔物が生まれた理由は戦いの道具じゃなかったなんて……。

 僕達の常識が根本から間違っていたって事なのか?


「マーシャよ。辺境界の事は知っておるかの?」


「うん、知っているよ。かつての大戦の影響で生物が棲めなくなった土地の事だよね」


「そうじゃ。そして解放当時はこの辺りも辺境界の如くマナの枯渇する死の大地だったのじゃよ」


 僕はトレ爺の言葉に息を呑んだ。

 この大森林が死の大地だったって?

 じゃあ、なんで今はこんなに自然溢れる緑の土地になってるの?

 もしかして……。


「エターナル様が打ち立てた創星還元理論は、核とする魔石をマナ生成器とした生物を創り、その生物から放出されるマナによって滅びゆく星を再生させると言う物じゃった。その研究の結果、原初の四体様が誕生したのじゃ」


「ちょっと待って? じゃあ、魔物が生まれた理由って辺境界をこの森の様にする為だったの? だったらなんで人魔大戦なんかが起こったのさ」



「そうさのう。パンゲアの権力者共の欲が深かったと言う事かの。原初の四体様の強大な力に目を付けたパンゲアの支配者共がその力を戦に使おうとしたのじゃ。勿論エターナル様は反対されたが、不運にもその愚か者共に殺されてしまった。原初の四体様の目の前での。その瞬間から我ら魔物と人間達の戦いが始まったと言っても過言では無かろう」


 ライアの目の前で『まま』が殺されただって?

 そんな……、そんな事って……。

 それが始祖の封印でも消す事が出来ない悲しみの理由なのか。

 僕はショックのあまり言葉が出ず、遠くで母さんにじゃれているライアを見詰めた。

 すると、僕が見ている事に気付いたのかライアは満面の笑顔で手を振ってくる。

 その姿に僕は心の奥から悲しみが溢れ出して涙が出そうになった。

 だけど僕はその涙を必死に耐えて笑顔で手を振り返す。


 改めて思う。

 始祖が悲しみを消した理由は正しかったと。


 そして、改めて誓う。

 二度とライアにそんな悲しみを負わせない事を。


 ふと周りを見るとトレ爺の話を一緒に話を聞いていたダンテさん達もショックを受けたようで項垂れている。

 人間と魔物の戦いは、神に定められた宿命じゃなく人間達の欲から生まれた事を知った。

 それを知った今、冒険者として数々の魔物を退治して来た自分達の行いは正しい事だったのかと悩んでいるのだと思う。


「ねぇトレ爺教えて。魔物と戦うのは愚かな事なの?」


「また難しく考えておるの。そこの人間達も最後まで話を聞いてから判断するがよい」


「う……うん。分かったよ」


 これからトレ爺が語る事は、冒険者として……いや、人間として聞いておかなければならない話だと思う。

 僕達は顔を上げてトレ爺の言葉を待った。

書き上がり次第投稿します。

面白いと思って頂けたらブクマと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ