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第71話 テイマー

「この力は魔物を倒す為には使わない」


 僕はそう母さんの目を見ながらそう言い切った。

 母さんは僕の言葉を真剣な顔をして聞いている。

 恐らく理由を聞きたいんだろう。

 僕がそれを喋るのを待っているようだ。

 だから僕は思っている事を話そうと思う。


「昨日も言ったけど、従魔術は繋がる為の魔法なんだ。それは始祖も手記に書き残していた。恐らくだけど始祖のキャッチも魔物を殺す事が出来たんだと思う。だけどその方法は伝えず魔物と繋がる為の魔法として従魔術を遺したんだよ。起動にしたって同じさ。最後にあんな注意書きをわざわざ入れたのは魔物を殺す為の術ではないと言う事をアピールしたかったじゃないかな」


 昨日キャッチでエルを殺してしまった時の悲しみはいまだに胸に残っている。

 それに今朝は起動でエルをまた殺しかける所だった。

 僕は現在母さんのポケットの中に収納されているエルの方を見ながら僕の想いを母さんに伝えた。


「ふぅ……お母さんの下腹部を見詰めながらそう言われると照れるわね」


「ぶふぅーーー! ち、違う。な、なに言ってんだよ! べ、別に下腹……ムニャムニャ。とかじゃなくてそのポケットの中のエルの事を思いながら言っただけだって!」


「ふふふ、冗談よ。ちょっと思い詰めているっぽかったから緊張を解そうとしただけ」


「思い詰めるって……。あっもしかして。母さん、僕が魔物側に味方するとか思ってる? 違うってそうじゃないよ」


「あら違うの?」


「違うって。ほら、人間でも悪い奴が居るじゃないか。どうやっても友達になりえない極悪人。ギルドでもそんな人間を討伐する依頼は少なくないよ。それと同じ。僕がキャッチを使うのは友達になりたいと思う魔物だけ。言っておくけど人間を襲う様な魔物とは勿論戦うからね。ただそれを武器にして戦いたくないんだ」


 そうなんだ。

 そこは人間も魔物も同じで、いい人も居れば悪い人も居る。

 そりゃ魔物が生まれて来た理由を考えると、魔物にとって人間は明確な敵である訳なんだけど、それでも僕としては全ての魔物を敵だと思えない。

 と言うか、多分魔物を奴隷としか思っていない一部のテイマーは別としても、多くのテイマーは少なからず魔物の事が好きな人達だと思う。

 そうじゃなかったら世間から白い目で見られがちなテイマーなんて道を選ばないだろうしね。

 だから僕は今母さんに言った通りその魔物が敵となるなら戦うよ。

 けれどその手段はキャッチや起動じゃないだけなんだ。

 母さんも僕の気持ちは分かっていると思うんだけど、あえて意地悪な言い方をしているんだと思う。

 僕の口から僕の想いを聞きたいんだろう。

 続いて出てくる言葉も僕の予想を肯定するものだった。


「ふ~ん……。じゃあ、例えば今の自分じゃ太刀打ち出来ない凶悪な魔物に大切な人が襲われていた場合はどうするの?」


「そ、それは……」


 母さんが真剣な顔をしている。

 何かを聞いて来るのは予想通りだったんだけど、僕はその質問に言葉が詰まってしまった。

 正直な話今の僕ではオークにも一対一で勝てないだろう。

 ゴブリンでさえ油断出来ないくらいだ。

 そんな雑魚な僕が魔物に襲われている人を目撃したら?

 しかもその人は僕の大切な人だったら……。


 僕はどうしたら良いんだ?


 勿論キャッチや起動を使えば確実に助ける事が出来るだろう。

 だけど、僕はさっき魔物を倒す事には使わないと母さんに宣言してしまった。

 僕が囮になってその人を逃がす? いや、確実に僕は死ぬだろう。

 じゃあ一緒に戦う? これも違うな。

 だって僕の周りには僕より強い人しか居ないもん。

 そんな人達が殺されそうになる魔物なんて僕なんかじゃ足手纏いにしかならないよ。

 

 だったらどうすれば良いんだ?

 どうやったら助ける事が出来る?

 方法は……、方法は一つしか……。


「そ……その時は……キャッチを……キャッチで……」


 僕は地面を見詰めながら振り絞る様にその言葉を言おうとした。

 『キャッチで魔物を殺す』……と。



「はいはい、そこまで。それ以上は言わなくていいわ」


 いつの間にかすぐ側まで近付いていた母さんが、僕の頭を撫でながら僕の言葉を遮る。

 顔を上げると母さんは優しい笑顔を浮かべていた。


 情けない……。

 恰好を付けて使わないと言ったのに、ちょっと現実を諭されただけですぐに撤回するなんて……。


「母さん……」


「ほら、そんな顔しないの」


「でも……」


「でもじゃない。ふぅ、ごめんなさい。そこまで追い込むつもりじゃなかったのよ。けど、これではっきりしたわ。……マーシャル。今からあなたに魔力マシマシのキャッチと起動を使う事を禁じます」


「え? だって……」


「やっぱりあなたは危ない所に来ていたのよ。強い力を持つ者がその力に溺れて身を亡ぼす。特に自分の信条で使わないとしていた人間が、それに反して使ってしまった時はそれが顕著に表れるわ。身の危険が強い程……そして使用した力が強い程ね。信条を破った後悔と危機を乗り切った達成感。それが心を壊してしまうのよ。だから使ってはダメ。少なくともその力を自由に使える様になるまではね」


「だけど、もし母さんが言った様な場面になったら……僕は……」


 目の前で大切な人が殺されるのに何もしないなんて事は僕には出来ない。

 それこそ深い後悔で心が壊れてしまうだろう。

 倒せる力が有るのなら何だって使ってやる。

 僕は唇を噛み、両手のこぶしを握り締めた。


「あら? あなたには他にも戦う力が有るじゃない」


 もう一度母さんに向かって力を使う事を宣言しようとした瞬間、母さんは再び僕の言葉を遮るようにそう言った。


「こんな弱い僕に戦う力が有るだって?」


 ……いや、そりゃ初歩魔術にも攻撃魔法は有るし、それを使えばゴブリンなんかは倒せるよ?

 魔力を込めさえすればオークだって倒せるはずだ。

 でも、高等魔術と違って紋を刻んでいない初歩魔術は発動までに時間が掛かるし、敵がそんな悠長な事を戦闘中に許してくれる筈もないじゃないか。

 僕には戦う力なんて……ましてや誰かを守る力は……無い。


「もう! マーシャル。何言って言るの? あなたはテイマーでしょ。自分の従魔の事を忘れたの?」


「僕の……従魔?」


「えぇ、あなたにはライアちゃんが居るじゃない。今のあなた自身には戦う為の力が無くても、あなたにはライアちゃんと言う剣であり盾である頼もしい相棒が付いているのよ」


 僕にはライアが……。


 いやいやいや、そりゃライアの正体はカイザーファングって言うとんでもなく強い魔物な訳なんだけど、僕が無意識に掛けちゃった絆魔法の所為で今はあんなにプニプニの幼女姿なんだよ?

 戦うにはあまりにも不向きだ。

 何より僕にはブーストが使えない。

 そんな状況で今のライアに戦わせるなんて事は出来ないよ。

 

「もう少し大きくならないとライアに戦うのは無理じゃないかなぁ? いや大きくなるのかは分からないけど……。それに僕にはブーストが使えないんだし、いくら正体がカイザーファングだと言っても、まともに戦えるかどうか……」


 本当になんで僕の絆魔法はライアの姿をあんなに可愛い姿にしちゃったんだろう?

 ライアの話ではあの時元の姿に戻っていたらしけど、今の僕の力では幼女の姿にまで力を弱めないと死んじゃうからなのかな?

 やっぱり早く僕が強くならないとダメか~。


「ブーストが使えない? そんな事は無いわよ? ねぇ、みんな」


「はい。おぼっちゃまのブーストに問題は有りません」

「えぇ、マーシャル様のブーストは完璧ですわ」

「……! ……///」ふりふり


 母さんの言葉にいつの間にか部屋に戻ってきていたぶーちんとみやこがそう答える。

 声の小さいのはプラウかな?

 なんか真っ赤な頬に手を当てて恥ずかしそうに身体をくねらせて何かを言っているけど、恐らくぶーちんとみやこと同じ様に母さんの言葉を肯定しているみたい。

 他の従魔達も雄叫びで母さんの言葉に答えていた。


 僕にブーストが使える?

 そんな……、だって今まで何度もライアにブーストしたけど一回も成功した事が無いんだよ?


 ……あれ?

 そもそもなんで皆は僕がブースト使える事が分かるの?

 僕が帰って来てから一回もブーストを使ってないのに。


「ねぇ、なんで皆そんな事が……」


「あなた封印を解いた後にライアちゃんと一緒に戦った事有る? 昨日聞いた話だと無かったんじゃない?」


 僕の質問に被せる様に母さんが先に質問して来た。

 出鼻を挫かれた形だけど、その質問自体は僕が見落とした何かへの指摘な気がしてあの日からの事を思い出してみる。


 う~ん、封印を解いた後にライアと一緒に戦った事か……。

 なかったっけ? 話してないだけでなんかあったような気がするんだけど。


 そうだ! 確か僕が意識を取り戻した後に岩石ウサギと遭遇したんだ。

 そしてずっと練習してた挑発作戦が成功して……その後は……?

 あっ……叔母さんに邪魔されたんだった。


 あの日は結局魔物に襲われなかったし、里帰り中もダンテさん達がずっと守ってくれていた。

 よく考えたら封印を解いてから一度も戦った事が無いや。

 試さなかったから分からなかったけど、もしかして使える様になってるのかな?

 ぶーちん達は従魔だからテイマーの僕がブーストを使える事が分かったのかもしれない。


「確かに試してなかった。今までライアに効果が無かったのって始祖の封印と関係有ったのかな?」


「そうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それも試練だったのかもしれないわ」


 ん? ま、まぁちょっと気になる言い方だけど、確かに始祖があれだけ条件が厳しいって手記に書き残すくらいだから、ブーストが効かなかったのも試練の一つだった可能性が高いと思う。

 僕は生まれつき特殊なアレな所為で、ライアとしか契約が出来なかったから使えるかどうかなんて分からなかったよ。

 そうか、僕ってブーストが使えたのか。

 だったら僕にも戦う力が有るんだ!


「ライアと一緒だったら僕は戦える! ……んだよね? なんだかあの姿じゃ戦えるイメージが湧いて来ないや」


 ブーストが使えるかもしれない喜びに、僕とライアが敵と戦っている所を想像しようとしたんだけど、あのぷにぷに幼女が縦横無尽に走り回っているなんてあまりにも非現実的過ぎて思い浮かばないや。

 勿論もこもこふわふわのモコの姿の頃だってそんなの思い浮かばないけどね。


 ……僕等って今までのんびり過ごし過ぎていたかもしれない。

 なんか本当にグロウ達に守られて来たんだなって思う。


「じゃあ模擬戦でもしてみる? 今のあなた達がどれくらいの実力を持っているのか私も興味有るわ」


「そうか……そうだね。僕も試してみたい。じゃあライアを呼んで来るよ」


「ちょっと待って。そろそろお茶の時間だし一度休憩しましょうか。ぶーちんとみやこ。お茶とお菓子をお願いね」


「かしこまりましたご主人様」

「すぐにお持ちいたしますわ。ラウンジでお待ちになっていて下さい」


 早くブーストを試したくてライアを呼んで来ようと走り出した僕をよそに、母さんは勝手に話を進めてしまった。

 立ち止まって振り返る僕の横を執事であるぶーちんとドリーと並んで我が家のメイドでもあるみやこが、お茶の準備の為に通り過ぎていく。


「……まぁ、良いけどさ。母さんって本当にマイペースだね」


「そんな褒めないでよ」


「褒めてない! ったく……」


 相変わらずな母さんと歩き出した他の従魔達を見ながら僕は溜息を吐いた。

 しかし上で待っているドリー以外母さん従魔全員がこの実験場に居たんだな。

 しかも父さんのプラウまで居るなんて思わなかったよ。


 ……そう言えば、幼い頃に行方不明になった僕を北の大森林で発見した時に事情を聴く為に魔物と契約したって言ってたけど、その魔物ってこの中に居るんだろうか?

 もしまだ居るのなら僕が疎通を使えていた頃の話を聞けるかもしれない。


 僕は母さんにその時の従魔が誰なのかを聞く事にした。

更新が遅れてすみません。

書き上がり次第投稿します。

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