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第64話 創魔術

「さーって続き続き。……ん? 母さん、どうしたの?」


 強くなる決意の思いを新たにした僕は、続きを読むべく始祖の手記に目を戻そうとしたんだけど、母さんが僕の方を見ながら眉間に皺を寄せブツブツと小声で呟いているのが目に入った。

 一瞬僕に話し掛けているのかと思ったけど、その声は小さいし何より視線は僕じゃなくて手元の手記を見詰めている。

 どうやら考え事をしているだけのようだ。


「ん? あぁごめんなさい。ちょっと考え事をね。……しかし、始祖がそれだけキツイ条件と書き残しているのにマーシャルはそうじゃないと思ってる。それは周りが助けてくれたってのも大きいのだけど、やっぱり当時の世情に比べ今の世の中は平和と言う事なのでしょう」


「平和……かぁ。うん、そうだね。そりゃいまだに魔物との戦いは続いているけど、僕なんかが一年間冒険者をやれたんだ。守って貰っていたにせよ、人魔大戦の頃だったら多分死んでたと思う」


 始祖が魔王を封印した事によって、魔王の眷属だった魔物達は弱体化したと伝わっている。

 だからこそ、人類はその生活圏から魔物を追い払う事が出来たんだ。

 それから三百年の間、人類の営みは平和だと言えると思う。

 母さんが言うには『だから文明が衰退するのよ』って事らしいけどね。

 そりゃ魔物が人里に現れて被害が出る事は有るけど、冒険者達の働きによって大事には至っていない。

 人知れず『従魔戦争』なんてのもあったけど、それは誰も知らない事だ。


「始祖は条件に付いて詳しく書いてないの?」


「うん、ちょっと先まで目を通したけど、厳しいのに頑張ったねみたいな事しか書いてないよ。まぁ、心当たりは有り過ぎるくらいだから想像は付くけどね」


 弟子の子孫達の封印によって歪められた僕のキャッチ。

 弱い魔物は魔石が小さ過ぎて契約出来ず、かと言って強い魔物に対しても魔石を掴めたとしてもそのままじゃ契約紋を刻めるかは正直微妙だと思う。

 弟子の子孫達の封印はBランクまでの魔物しか契約出来ない様になっているからね。

 多分刻める程の出力が出ないんじゃないのかな。

 それを覆す僕の魔力マシマシキャッチに関しても今度は威力が高過ぎて下手したら魔石を破壊してしまうし、それに今じゃ始祖の力を受け継いだ所為でそんな魔物と契約したら死ぬ恐れだって有るんだから酷い話だよ。

 結局ライアみたいに魔石はデカいけど封印によって弱体化されているなんて普通は有り得ない境遇の魔物と契約して絆を結ぶしか方法が無いんだもん。

 これが条件と言われたら、そりゃ厳しいでしょ。

 何より始祖が生きていた頃の従魔術はデメリットが無い強い魔物相手に掛け放題だからね。

 こんな制限ばかりの役立たずなんて、自分で言うのもなんだけど弟子達が『そんな奴居ねぇよ』って突っ込む気持ちも分かるよ。


「なるほど……。だとしたら恐らく始祖は自分が守った人類がここまで平和な世を築けるとは思ってなかったって事かもね。人を信じていなかったと言ってもいいかもしれない。だから普通の従魔術師では契約出来ない程の高魔力の魔石を持つのに、最弱であるライアちゃんと契約をして深い絆を結べるまでになるには、とても険しい道程だと思っても仕方無いわ」


「信じていなかったって、そんな。始祖は人類の為に戦っていたんじゃないの?」


「それはそれ、これはこれってやつだと思うわ。そこに書いていたじゃない。共存の道が有ると信じていたけど、従魔術師達の蛮行は凄惨を極めるって。まだマーシャルには言っていなかったけど、従魔術によって従えた魔物を虐殺するのを見世物とする従魔術師も当時居たのよ」


「その事については叔母さんに聞いたよ。……そうだね、人を信じられなくなるのは分かるかも……」


 手記にも魔物を憎む気持ちが分かると始祖は書き残しているけど、文字の荒れようから多分納得した訳じゃないのかもしれない。

 ここまで読んだ文章からしても始祖の魔物に対する想いは大きい事が分かる。

 そんな始祖が人類に絶望したとしても不思議じゃないだろう。

 だけど、始祖は将来人類に訪れるであろう新たなる脅威の為にライアを……そして自らの力を本当に現れるかどうかも分からない後継者へと託したんだ。

 始祖の気持ちを思うと少し胸が締め付けられる気がした。


「ほらマーシャルそんな顔しない。問題なのは今その平和を脅かす者が現れようとしていると言う事よ。対応出来るのは始祖が残した力を受け継ぐあなただけなの。その為にも続きを読んでみて、恐らくあなたが強くなる為の何かが書かれていると思うの」


「分かった、じゃあ読むね」


 そうだ、折角始祖が取り戻してくれた平和なんだ。

 後継者になった僕は、その平和を守らなくちゃ。

 ……まだそこまでの自覚は無いんだけどね。

 兎に角、続きを読もう。

 そうしなきゃ何も始まらないや。


『さて、後継者くん。文体で気付いてるかもしれないけどあたしは女の子だよ。びっくりした? あっ! 後世に伝わってるとかないよね? 皆に内緒にするよう言ってるんだけどバラしちゃう人が居たら今の恥ずかしいかも』


 ここまで読み進めて少し今更感が有るけどやっぱり女の子だったんだな。

 安心して、始祖が女性だって事は伝わってないよ。

 母さんの顔には笑みが浮かんでいる。

 父さんはと言うとその真実を真剣な顔で噛み締めているようだ。

 

『これ読んだ時、女の子と言っておきながら本当はおばさんなんだろ? とか、実はオネェなおっさんなんじゃね? とか思った? いや本当にマジで女の子だから! ピチピチのJKだから!』


「ブフォッ!」


 『ピチピチのJK』と言う謎ワードを言った途端、急に母さんが吹き出した。

 慌てて顔を見ると肩を震わせて笑っている。


「どうしたの母さん?」


「いや、ぷぷ、ピチピチの…ぷふっ、JKって。それにオネェ……ぶっ。一体始祖っていつの時代の人なのよ。あははは」


 母さんは堪え切れなくなった様でとうとう吹き出してしまった。

 全く言葉の意味が分からない僕にとってどこがおかしいのかチンプンカンプンだ。

 母さんの若い頃に流行った言葉かなと思って父さんの顔を見たけど僕と同じ様に訳も分からず首を捻っている。

 いつの時代って言われても三百年前の人だよね?

 なんか古典的なギャグなのかな?

 しかし、それにウケるって本当に母さんっって不思議な人だ。


「もう、続き読むよ!」


「ご、ごめんごめん。ぷぷ。どうぞ読んで読んで」


 笑いを噛み締めている母さんを無視して僕は続きを読む。

 

『そりゃあたしが仕出かした功績からしたら、こんな若い子が~と思うかもしれないけど、まさにそれが悩みの種なのよね~。

若い女の子だと舐める奴らが多くいるのよ。

だから最近は髭生やしたナイスミドルのジジイに変身してるんだ。

多分後世にはその姿で伝わってるんじゃないかな?

ふふふふ、この変身は誰にも見破られない自慢の魔法よ。だってこれも創魔術の一つなんだもん』


「そ、創魔術だって!?」


 始祖の姿についてナイスミドルのジジィどころか特に何も伝わっていないよなぁって考えていた所に、何気無く書かれた『創魔術』の文字に最初は気付かず普通に読み上げてから遅れて驚きがやって来た。。

 僕は思わず大声で言い直してしまう。


 『創魔術』

 禁書でもたった一か所だけ、しかも隠されるように記述されていた今では忘れられた魔術体系。

 母さんによるとそれによって魔物が造られたと言う事らしい。

 始祖はそれを元に従魔術を開発し、その後絆魔術の開発を目指したって話だ。


 それがこんなにあっさりと記述されているなんて……。

 色々と言いたい事が有るけど、母さんから早く続きを読めと言う無言の圧力を感じるので、取りあえず続きを読む事にする。


『えっと、後継者くんは知ってるのかな? 創魔術のこと。

他の章から読んでるかもしれないから名前だけは既に知ってるかもだけど、第一章特典として創魔術についてレクチャーしてあげよう。

後であたしが従魔術を思い付くに至った『起動』の魔法も教えるから楽しみにしておいてね』


 『起動の魔法』?

 もしかして母さんが苦労して解読した『原初の従魔術』の事なんだろうか?

 いや、まさかね……だって母さんは始祖の言葉は見えてなかったんだから。


『まず創魔術だけど、厳密に言うとこれは魔術体系とは言えないんだ。

その誕生は神に属する神聖魔法を除く四大魔術体系が確立する先史魔法文明よりさら以前まで遡る。それは今よりももっともっと大地に魔力が満ちていた時代。時の魔術師達はそれこそ天地創造に似た強大な力を持っていたの。


街には高層ビルが立ち並び、昼夜問わず光が溢れている。

大地にはハイウェイが網目の様に地の果てまでも広がり、空には飛行機が飛び交うそんな世界よ。

あっ! 後継者くんにはこの説明で伝わらないかな? ごめんごめん。


兎に角、先史魔法文明の更に前にはそんなすんごい超文明が栄えていたのよ。その栄華の源が創魔術と言うわけ。

けれどそんな強大な力がなんの代償も無く使える訳が無い。ある日を境に無限と思われていた大地の魔力も急激に減少し始めた。

人間焦るとダメねぇ、そんな事態に陥って始めたのが資源戦争って話よ。

なんやかんやあってそれが原因で超文明は滅んだらしいわ。ここら辺の事情は今回関係ないからカットするわね。

辺境界を見ればその壮絶さが理解して貰えると思うんで機会が有ったら見に行ってみて、本当に凄いんだから。

その後反省した人類は大地から無尽蔵に魔力を行使する創魔術を使用するのを止めて、自身と深淵を結ぶ門を身体に刻み必要に応じて魔力を行使する四大魔術体系を創ったのよ。

それが先史魔法文明。

けど人類は馬鹿でね、ささやかながらも文明が発達するにつれてまた創魔術に手を染める人間が現れた。

その結果は、まぁ知っての通りだわ。

それ程危険な存在ってわけ。

と言いながら、それを元に五番目の魔術体系である従魔術を創設したあたしが言うのもなんだけどね。

普及用に改造するにあたって、魔力供給要らないぜ! やっふう~って感じでやっちゃった訳だけど、まさか大地の魔力があれ程枯渇するなんてねぇ? 本当に焦ったわ~。

実際上で説明したのはやらかしちゃった後に文献漁って知った話だから許してね。てへぺろっ!


念の為に聞くけど、後世で創魔術が復活してるとかないよね? もしそうなら先史魔法文明みたいに既に文明が滅びてウンボボな生活送ってるのかな? う~ん、だから後継者くんが出て来た事も考えられる?

いやいや、そうなってない事を祈るよ。弟子達にも喋らない様に言っとくね。キミも喋ったらだめだよ!


んで、何故あたしが従魔術なんてのを思い付いたかって言うと、実は魔物ってば創魔術によって創造された存在なの。

え? 冗談だろうって? それが違うんだにゃ~。嘘みたいだけど本当の話よ。

まぁケモナーのあたし的にはグッジョブなんだけどね。

信じられないなら後で教える『起動』を適当な魔物に使ってみてよ。今言った事が本当だって分かるから』


 僕はここまで読んで息を呑んだ。

 なんて事だ、情報量が多くて頭で処理し切れない。

 先史魔法文明より更に昔に超文明と言うのが存在しただって?

 その文明は大地の魔力を使い信じられない様な栄華を極めていた。

 それを可能としたのが創魔術……。

 滅んだ原因も創魔術。

 そして先史魔法文明が滅んだ原因も……。

 細かい事は別としておおよそ母さんの推測が正しかったって事だ。

 それに『起動』と言う魔法が『原初の従魔術』に間違いないと思う。

 僕は母さんの意見を求める様に顔を上げた。


「母さん……これ……」


「うん『違うんだにゃ~』は無いわよね」


「ちょっと! それ今関係無いよね?」


「冗談よ。しかし、ここまでは想定通りの様ね。しっかし、ご先祖様ってなってないわ。折角始祖が手の込んだ方法で残してくれた事を暗号化しているとは言え概要を書き残してんだもん。全く新鮮味が無いじゃないの」


「いや、だからそれも違うって!」


 母さんが残念そうに文句言っているので思わず突っ込んだ。

 僕的にはとっても新鮮な情報ばかりなんだけど、もしかすると母さんは始祖が女の子だった事や重度のケモナーだった事さえ先祖の手記から読み取っていた可能性が高いな。

 一番凄いのは母さんかもしれないや。

 まともに返してくる気が無さそうなので続きを読む事にした。

 母さんの事だし、もしかしたら今の僕には知らなくても問題無い情報なのかもしれない。


『先史魔法文明の人達はまず原初の四体を創った。この四体はとんでもなく強かったんだけど、人類ではコントロール出来なかったから封印されたの。

酷い話よね。勝手に創って扱えないから封印するって……、ってこれに関してはあたしも強く言えないか。

結局スフィアを封印する羽目になったのは、あたしが扱い切れなかったからって事だしね。

そう、今の言葉でわかったと思うけど、原初の四体の一体はカイザーファングのライアスフィアよ。

ちなみに同じく封印するしかなかった魔王もそう。

後の二体は人魔戦争では姿を見せなかったからあたしでも行方は知れない。

逢いたかったな~邪龍と不死鳥。

デカくて角が生えてる以外はほぼ人間だった魔王と違ってケモケモしてたんだろうなぁ。

まぁ結局あたしの力では契約は無理だったんだろうけど。

っと、話を戻すね。先史魔法文明の人達はその後野生動物をベースに魔物の開発を行ったの。

繁殖によって世代交代して増殖するタイプのね。

何でそんな酔狂な事をしたのかと言うと、別に彼らがケモナーだったからと言う訳じゃないわ。

目的は戦争の為の兵隊を創る事。

かぁ~! 本当に馬鹿。けどエライ!! なんたって魔物と出会う機会をくれたって事なんだもん。

野生動物ベースは原初の四体と違って比較的コントロールがし易かったみたい。

けど怠け者いつの時代も存在してね、面倒臭い魔物の管理を魔物に任せようとしたのよ。

そこで管理者権限を持つ魔物を創り、その下に副権限を持つ魔物を何体か配備して管理を行った。

そんな管理者ナンバーズなんだけど、始動当初は上手く管理出来ていたようね。

何処と戦争していたのか知らないけど、残っていた文献によると連戦連勝だったと書かれていたわ。


あっ、その文献だけど燃えちゃって残ってないの。ごめんね。

ったく、死神ちゃんってばあたし達が出掛けた隙にアジトを急襲するなんて酷いと思わない?

えっと今書いた死神ってのが管理者権限を持つ魔物よ。

そして彼女こそが先史魔法文明を滅ぼした原因……』


「なんだって!! ちょっと、この死神ってまさか……?」


 衝撃の事実に読むのを止めた僕は再度母さんを見る。

 さっきははぐらかされたけど、今度は話してくれるまで食い下がろう。

 なんたって僕を襲ってきた()()()の事かもしれないんだから。


「あ~その件ね。それ本当よ」


 母さんは意気込んで聞いた僕がズッコケるくらいの軽さでそう答えた。

 軽っ! すっごく軽っ!

 もしかして魔術界隈では常識的な話なんだろうか?


「なんだ驚いたの僕だけなの?」


「……いや父さんも驚いたよ。先史魔法文明を滅ぼした存在が死神だったとは……。マリア、いつ知ったんだい?」


 あっ、父さんも知らなかったのか。

 もしかして母さんお得意の何でも知ってるってやつ?

 母さんの常識に合わせるのは大変だよ。


「違う違う、本人に聞……ゲフンゲフン。あ~昔読んだ本に載っていたのよ。人間に命令されるのが鬱陶しかったから原初の四体を目覚めさせたってね」


「そ、そうなの? じゃあやっぱり一部界隈では常識だったのか~」


 なんだか理由が具体的で生々しいのが気になるけど、始祖の時代にも超文明の文献が残ってたんだから、それより後の時代の先史魔法文明時代の文献が何処かに残っていてもおかしくないか。

 けど、と言う事はだよ? 僕ってそんな化け物に狙われてるって事だよね。


 ゾゾゾゾォ~~……生きた心地がしないんだけど……。

 母さんでも勝てるか分からないって魔物だよ?

 うぅぅ早く強くならなきゃ。


更新遅れてすみません。

書き上がり次第投稿します。

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