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第59話 朝食

「いっただっきまーーす」

「いったっきまーすゅ」


 食堂に着くと既に母さんがテーブルに朝食の皿を並べだしており、それぞれの席に着くように促された。

 もう少ししたら起こしに来るつもりだったらしい。

 準備が終わった僕達は「いただきます」の言葉と共に朝食を食べ始めた。

 一年振りの母さんの朝食。

 相変わらず美味しいや。

 叔母さんの料理もとっても美味しいんだけど、作るメニューはこの国ではオーソドックスなレシピによるもばかり。

 だけど、母さんの料理は変わり種が多いんだよね。


 豆を発酵させて作った色々な調味料を巧みに操って作り出される街のレストランでさえ見た事が無い料理の数々。

 卵とか油とかを使って作った少し黄色いトロっとしたドレッシングも母さんオリジナルだ。

 本人曰く遠い異国の料理に纏わる伝承のレシピを現代に蘇らせたとか言っているけど、僕の知る限りそんな異国料理の伝承って言うのは聞いた事が無いし、母さん自身その伝承の出所とやらを詳しく語ってくれた事もない。

 妹である叔母さんが言うには『多分やってみよう精神で色々試した結果上手くいった物に箔を付ける為にそう言ってるだけじゃない?』との事だし僕もそう思う。


 その破天荒な母さんが作るこの国のみならず周辺国でさえ見ない外観の謎料理の数々。

 既に味を知っている家族ならいざ知らず、今目の前に並べられている『ミソデンガク』と言うプルプルと柔らかい石にしか見えない物に茶色いペースト状の物が塗られた料理なんかビジュアルがとても()()なんで、多分初見で口にするのはそう多くないと思う。

 匂い自体は食欲をそそるんだけどね。


 そんな事を思いながら、ふと母さんの方に目を向けるとなんだかとても機嫌がいいみたい。

 ニッコニコの笑顔でご飯を食べていた。

 久し振りの家族水入らず朝食の時間が嬉しかったのかな?

 ただ、そうだとしても喜び方が凄いな。

 まるで弾むように食事している。


「母さん、今朝はとても機嫌が良いみだいだね」


 なんだか今にも鼻歌まで歌いそうな雰囲気を醸し出している母さんにその理由を聞いてみた。

 一応昨日だって僕が帰って事を喜んではくれていたけど、ここまでウキウキしていなかったんで少し不思議なんだよね。

 家族水入らずの食事ってのも既に昨晩経験済みだし、他に何か良い事でも有ったんだろうか?


「えぇ、お母さんとっても機嫌が良いの。昨晩ちょっと良い事があってね。ふふふ」


「あぁ、なんだ。てっきり僕が帰って来たのが嬉しいのかと思ったよ」


 想定していたとは言え、僕が帰って来た事を喜んでいるんじゃないと分かってちょっとがっかり。


  「私はお兄様が帰って来て嬉しいですわよ」


「あら? それもとっても嬉しい事よ? それにほら、そんながっかりした顔するんじゃないの。マーシャルにも関係有る事なんだから」


「え? 僕に関係有る事? ハッ! もしかして……何か分かったの?」


  「え? 何かって何ですの? お兄様に関係する事ですの?」


「う~ん、分かったと言うか分かっていたと言うか……。まぁ、さすがにすぐって訳にはいかないと思うし、もう少しだけ時間は必要ね。その時が来たら優しく受け入れてあげて」


「? 受け入れるって……誰を?」


  「ハッ! なにやら不穏な空気が……。お兄様! 何か知りませんが受け入れてはいけませんわ」


「ふふふふ、ナイショ。まぁ楽しみにしといてよ」


「う~ん、気になる言い方だなぁ。まぁ、母さんが言うんだから悪い事ではないんだろうけど……分かったよ。って、いや良く分からないんだけど、取りあえず()()()ってのが来たら母さんの言う通りにしてみる」


 正直どんな事なのか凄く気になるからもっと問い質したいけど、こう言う時の母さんにしつこく食い下がっても絶対に喋らない事を学習済みだからね。

 それにどうやら僕の目的の為になる事のようだし、母さんの言う通り『時』が来るのを待つしかないんだろうな。

 多分母さんは僕の力や始祖の事、それに新たなる魔王についても昨日語ってくれた事よりもっともっと多くのことを知っているんだと思う。

 それを今話してくれないってのは、まだ僕が知るべき事じゃないって事なんだろう。

 現に僕が新たなる魔王の存在を知っていると分かった途端、五人の娘の事を話し出したんだから。

 本当に自分の母親ながら不思議な人だ。


「ちょっと!! お兄様ぁ!? さっきから酷くありませんか!?」


「うわぁ! ビックリした」


「ビックリしたじゃありません! さっきから可愛い妹が話し掛けておりますのにどうして無視するのですか」


「違うって、そう言うわけじゃないよ」


 僕と母さんの会話に割り込んでぶつぶつと言っていたメアリだけど、無視されている現状にとうとう痺れを切らした様で隣に座る僕に食いつくかの勢いで抗議してきた。 

 まぁ本当は実際に無視していたわけだけど。

 母さんったら昨日の事はまだメアリには内緒だって自分で言っていたのに、いきなり関係有りそうな事言うんだもん。

 ビックリしたよ。

 まぁ、うっかり口を滑らせて詳しく聴こうとした僕も悪いんだけどさ。

 妹の言葉をスルーしていたら上手く誤魔化せるかな? と思ったんだけどダメだったみたい。


「言葉に心が篭もっていません! と言うか、お兄様? ずっと気になっておりましたのですが、帰ってきてからのお兄様って私への応対が冷たくありませんこと?」


「え? そ、そんな事ないよ?」


「い~え、有りますわ。家から出て行く前のお兄様はいつも私の後を付いて歩き、口答えもせず私を立ててくれていたでは有りませんか。それなのに帰ってきてからのお兄様ったら、私を庭に放りっぱなしにするだけじゃなく口答えやおざなりな態度。その他数を上げれば枚挙にいとまがありませんわ」


「そ、そんな事ないって!」


 うわっ! メアリの奴ってば昨日の事をまだ根に持ってた!

 すっかり忘れてると思ったのに。

 しかし、言われて見ると確かにそうかもしれない。

 一年間冒険者としてやって来たと言う自信だろうか?

 まぁ、追放されるくらい雑魚だったんだけどね。

 それにやっぱり始祖の力を継いだ事が原因だろうな。

 妹に抱いていたコンプレックスが薄らいだんだと思う。

 家を出る前はあれ程直視するのが怖かった妹の顔を真正面から見る事が出来るようになっていたんだから。

 本当に僕ってば調子の良い奴だよ。

 メアリの拗ねた顔を見てると少しばかり自己嫌悪に陥った。



「はははは、メアリ。そこまでにしときなさい。いいじゃないか、それだけこの一年マーシャルがお前に相応しい男として成長したと言う事だよ」


「ハッ! お父様! な、なるほど、そうでしたの。まぁお兄様ったら……」


 僕が妹の追及と自分の調子良さに落ち込んでいると、それを見兼ねたのか父さんが声を掛けて来た。

 掛けて来たのは良いんだけど、とんでもない事言ってない?

 助け舟と思って一瞬聞き逃しそうになったけど、なんでメアリに相応しい男なったとか言ってるんだよ。

 メアリなんてその言葉に納得しちゃって、なんだか熱い目で僕を見て来てるし。

 元々僕を追い掛けて来ないようにする為の嘘だったんじゃないの?

 どんどん誤解が酷くなっていってるんだけど。

 母さんはどこまで本気か分からないけど、嫁姑問題が嫌だから肯定しているぽい事を言っていたけど、もしかして父さんもそうなの?

 ちょっと言葉の訂正とその真意を聞いておかなくちゃ。


「父さ……」

 

「マーシャル。昨日はよく眠れたかい?」


 僕が父さんの言った言葉の真意を聞こうとした矢先、それを遮るように僕に質問して来た。

 これは偶然なの?

 それとも僕の言葉を読んでの先制なの?

 どちらにせよ会話のイニシアチブを取られた僕は仕方無く父さんの質問に答える事にした。


「うん。昨日はごめんね。父さんとあまり話せないまま寝ちゃって」


「いや、良いんだよ。元気な顔を見れただけで嬉しいさ」


 母さんに似た金髪碧眼の僕と違い、妹と同じ茶色で軽くウェーブを掛けた状態で整えられた髪と瞳。

 そんな父さんが僕を見てにっこりとほほ笑んだ。

 この街の魔導協会幹部の父さんは、昨日も仕事が立て込んでて遅くに帰って来た。

 それまで夕食を待たされていた僕とライアは、空腹のあまり会話もそこそこに食事に集中しちゃってたんだよね。

 それにお腹いっぱいになったら眠たくなっちゃって苦笑する父さんに促されるままベッドに行ったんだ。

 だからちゃんと喋るのは今が初めてみたいなもんかも。


「マリアに聞いたよ。この一年とても頑張ってたそうじゃないか。父親の私としても嬉しい限りだよ」


「う~ん、そんな事無いよ。だって僕は追放……ゲフンゲフン」


「え? お兄様、今なんて言いました? 追放……? お兄様を」


 ヤバいヤバい、会話の流れでメアリの前なのに思わずギルティ達に追放された事を言い掛けちゃった。

 母さんが言っていたけど、メアリが追放の事を知ったらグロウ達に報復しようとするだろうな。

 だって、既にメアリの目には怒りの炎が宿り出しているし。

 何とか誤魔化さななきゃ。

 天才の妹に復讐を頼んだ兄貴って言う、学生時代の様な不名誉な渾名がついちゃうよ。

 別に学生時代も頼んだ訳じゃないからね。

 魔力だけが高くて魔法の錬成速度や制御が下手だった僕の事をクロウリー家の出来損ないって言う陰口を聞いた妹が勝手に暴走したんだから。


「違うよメアリ。『ついほかの街より故郷が恋しくなって帰って来ちゃった』って言おうとしたんだ」


 う~ん、我ながらちょっと苦しかっただろうか?


「な~んだ、そうでしたの。しかしそんなに私の事が恋しかったのですね。本当にお兄様ったら私の事が好きなのですから」


 あっさり騙されたけど、とんでもない勘違いしてる!!

 訂正したいけど、これ以上掘り返して墓穴掘るよりは良いか。


「ははは、一年振りだと言うのに兄妹二人共相変わらず仲が良いね」


 爽やかそうにそんな事を言わないで!

 もう! うちの家ってどうなってるんだよ。

 しかし、メアリに言えない事ばかりで言葉選びが大変だよ。


「そ、そうかな? それより父さん、今晩話したい事が有るんだけど良いかな?」


 既に母さんから聞いているみたいだけど父さん自身の想いを聞きたいんだよね。

 なんたって父さんは天才と呼ばれる母さんに並び称される伝説の再来と呼ばれる人物なんだから。


いつも読んで下さって有り難うございます。

書き上がり次第投稿します。


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