第47話 大丈夫
「で、母さん。事情は分かってるって言ってたけど、一体どこまで分かってるの?」
あれからすぐ久し振りに市場に出回っていない母さん発明の試作魔道具に囲まれたとても快適な実家のお風呂を堪能し汗を流した僕とライアは、身嗜みを整え母さんの待つ応接間までやって来たんだ。
服は部屋着だけど、手には街中と違って『覇者の手套』を身に着けている。
そして促されるままソファーに腰を落ち着けた僕は、玄関前で母さんが言っていた言葉の真意を尋ねた。
母さんがあそこまで言い切ったと言う事は恐らく真相に近い所まで把握している筈だ。
昔から母さんはどこか物事を達観しているような雰囲気を漂わせていた。
元々名誉男爵位を賜っているクロウリー家は魔法学の天才と呼ばれる人物を幾人も輩出して来た家系だけど、母さんはその範疇で語っていい存在なのか分からない。
従魔術師だと言うのに、それ以外の系統の新たなる魔法理論や魔道具の発明の数々。
巷では母さんの事を長らく停滞期を迎えていた魔法学にパラダイムシフトを巻き起こし、数世代もの技術革新を一気に飛び越した傑物と言われている。
母さんに刺激された他の術師達もそれに追随しようと躍起になって、最近では魔法学の開発ラッシュが起こり、母さん以外の魔術師達も次々と画期的魔法や発明品が開発される様になったんだ。
近年この王国が急激に魔法大国として周辺諸国に認知され出しているのは確実に母さんの存在によるものが大きいだろう。
母さんに対して男爵では足りない子爵? いや伯爵位を叙爵しようとか言う話も出ているみたい。
そんな母さんが『事情は分かっている』と言ったんだから、自身に起こった事について実際には何も分かっていない僕が喋るより、まず母さんの見解を聞いた方がいいと思う。
見当違いの事を言うならすぐに訂正するけどね。
「マーシャル。まずはおめでとうと言わせてもらうわ」
母さんは笑顔でそう言ってきた。
僕が首を捻っていると、母さんはライアの方を見ている。
あぁ、そうか、ライアが僕の従魔だと言う事に気付いたんだな。
本来テイマーならすぐに分かる事では有るんだけど、妹の暴走もあったからなんだかすごく安心したよ。
「うん、この子はライアって言うんだ」
僕がライアの名前を言うと、母さんはピクリと眉を動かせた。
そして笑顔で何度か頷いている。
と思ったら段々目尻が下がり出し、やがてとても愛おしいものを見る様な顔になっていった。
「もう、本当に可愛いわねその子。ライアちゃんだっけ? ねぇちょっと抱っこさせて」
そう言ってライアに向けて手を広げた。
ライアは急に呼ばれた事に驚いて僕の顔をしきりに見ている。
「ちょっと母さんどうしたんだよ? 話の続きは?」
「良いじゃない。ちょっとくらい。ほ~らお婆ちゃんですよ~」
「ぶぅーーー!お婆ちゃんだって? もしかしてメアリみたいに僕の子供だと思ってる?」
言葉通り母さんの目は孫を見る祖母のソレになっていた。
ちょっと待って? 母さんなら全部分かってると思ってたのは僕の早合点だったの?
「あら? マーシャルはその従魔の事を自分の娘だと思ってるんでしょ? なら私の孫って事じゃない。私ってばまだ三十前半なのにこんなに早くお婆ちゃんになるとは思わなかったわ~。しかも嫁姑問題の起きない関係だもの最高よね」
「ななな……っ」
一応従魔って事は分かっているのか、本当にびっくりしたよ!
けれど、相変わらず母さんの適応能力には呆れると言うか感心すると言うか……。
それより嫁姑問題の起きない関係だから最高って、起こす気満々って事なの?
将来お嫁さんを探すのが怖くなってきたよ。
ちらっとライアを見ると抱っこされたがっているのか手をワキワキさせて僕と母さんを交互に見ている。
多分僕の許可を待っているんだろう。
「……ライア。いいよ、思う存分抱っこされておいで」
「やった~。おばーーちゃーーん」
「きゃーーライアちゃーーん」
そう言ってライアは嬉しそうに母さんの元に走って行った。
お婆ちゃんと言う言葉を知っている事に驚きつつも、ライアを嬉しそうに抱き上げる母さんの姿に本当の祖母と孫のふれあいを見てる様でほのぼのする。
母さんはライアの事を抱き締めたり高い高いしたりとあやしている。
ライアもとても嬉しそうだ。
う~ん、こんな事をしている場合じゃないんだけどな。
「ライアちゃんって本当に可愛いわね。……けど、なるほど。こうやって直接手で触れて全て理解出来たわ。もう一度言うわね。マーシャル本当におめでとう」
「え? えぇと、もう一度ってどう言う事? ……あっ!」
ライアを膝の上に乗せて抱き締めている母さんが急に真面目な顔になって僕にそう言って来た。
その変わり様に面食らった僕は一瞬意味を掴みかねていたけど、叔母さんも似た様な反応をしていたのを思い出す。
それは叔母さんがライアの名前を聞いた時の事だ。
魔力を持たない叔母さんでさえ、その名前から禁書に書かれている始祖の従魔を連想した。
天才テイマーで類稀無い魔力の持ち主である母さんなら、その名前からライアが始祖の従魔に連なる存在だと連想するだけじゃなく、発する魔力さえ感知して確信しただろう。
だから最終確認としてライアを抱っこするのに託けて触診したんだと思う。
と言う事は、僕の中に始祖の力が宿った事さえも既に把握しているのかもしれない。
「ライアを抱っこしたのはそう言う事なの?」
「あら~それだけじゃないわよ。お婆ちゃんとしては可愛い孫を抱き締めたいもの。ライアちゃんは本当に可愛いわねぇ~」
母さんはそう言って顔をテレテレに崩してライアのふかふかの髪の毛に顔を埋めて匂いを嗅いでいる。
多分今言った事は本当の事だろう。
母さんは無性の可愛い物好きだ。
安眠羊を従魔にすると言った時も、その能力よりも可愛いからと言う理由だったしね。
ただ母さんの『可愛い』と言う範囲はとても広く、屋敷ゴーレムの目玉も『可愛い』に入るんでたまに不安になる。
一応ライアの可愛いに関してはレイミーさんもベタ惚れしていたから間違いないと思うけど。
「さぁ、ここからは真面目な話。取りあえず幾つか確認させて。実はティナからはマーシャルの事について逐次手紙で聞いていたのよ。そしてその手紙によるとマーシャルの初めての従魔はモコと言う名の成長しない不思議なコボルトって話だったけど、この子は同じ子なの?」
「叔母さんそんな事してたの? けどまぁ、そうだよ。今はこんな姿になってるけど少し前まではコボルトの姿だったんだ。ライアって名前は姿が変わった時に付けたんだ」
「ライアはしゅっせうよなの~」
「しゅっせうよ? あぁ出世魚ね。ライアちゃんは物知りねぇ~。しかし、なるほど。姿が変ったから……か。ふ~む……。うん、それについて幾つか思い当たる事が有るわ」
「本当?! 一体どう言う事なの?」
母さんは少し目を瞑り何かを思い出そうとする仕草をする。
さすが母さん、僕がなにも言わなくても既に答えを持っているようだ。
と思うのだけど、思い出そうとしている仕草のまままたライアの髪の毛に顔を埋めて匂いを嗅ぎだした。
どこまで本気なのだろうか?
「ぷはぁっ! え~と、それを話す前にまずはお母さんの推理を聞いてもらえるかしら? その後にマーシャルの口からそうなった経緯を聞かせて貰える?」
「うん、分かったよ。逆になんでこうなったか僕自身が分からないから、そっちの方が助かる」
こう言う所は姉妹だなと思う。
叔母さんもこうやって頭の中で仮説を立ててから情報の答え合わせをしていたしね。
「じゃあ始めるわね。取りあえずこの子はコボルトじゃない。私の推理が正しいとすると種族名はカイザーファングよね?」
母さんは特に感情を込める訳でもなく、何気ない口調でライアの種族名をサラッと口にした。
表情も別段変わりなくまるで世間話でもするように本当に自然な感じのように見える。
本当はライアを触診する前から分かっていたのだろう。
ただ単に伝説の存在を欲望のまま撫で回したいだけだったのかもしれない。
いや、多分きっとそうだ。
「うん、実はそうなんだ。けどよく分かったね。伝承では身の丈三メートルの怪物って話だったのに」
「ふふっ、本来ならそうよね。私でも禁書に書かれている予言を知っていなきゃ見ただけでは分からなかったわよ。それにしても『最も弱き者としてこの世に姿を現す』か。なるほどねぇ~これは納得だわ」
母さんは感心した様子でライアの頭に自分の顔をスリスリと撫でるように擦り付けている。
ライアも気持ちいいのかとても嬉しそうに目を瞑ってされるがままだ。
話の真相も気にはなるけど、母さんとライアが仲良くなって良かったと思う。
カイザーファングだと知って、母さんがライアに対してどう言う態度を取るのか心配だったんだ。
これなら安心出来るよ。
「しかし、マーシャルのそれにはさすがの私もびっくりしたわ」
「びっくりってこれの事? 母さんはこれが何か知ってるの?」
母さんが僕の手を見ながらそう言ったので一瞬赤い契約紋の事だと思ったんだけど、その視線は左手の甲じゃなく僕の手全体を見ている感じだった。
恐らくびっくりしたのは『覇者の手套』事なのだろう。
「えぇ、知っているわ。だってティナの愛用品だったもの。それは古の魔導文明の遺産。伝説の覇者が身に着けていたと言う『覇者シリーズ』の一つ。自ら主人を選びそれ以外の者が身に着けようとすると死が訪れると言われている『覇者の手套』よね。さすが私の息子。覇者に選ばれるなんて凄いわ」
「そうみたいだね。けど選ばれたって言うのには実感が無いんだ。叔母さんが丁度良いからこれあげるって無造作に渡された物だし。下手したら死んでる所だったよ」
ぶっつけ本番でもし選ばれた者じゃなかったら死んでたよね。
叔母さんは普段は賢いようでどっかアバウトなんだよな。
ただ母さんが最後に言った『覇者に選ばれる』って言葉が気になるけど、適正が有ったって事なのかな?
「あら、そうなの? けれどそれは多分マーシャルなら大丈夫って確信が有ったからだと思うわ。私が貸してって言った時『姉さんには絶対無理よ。死んじゃうって』って言っていたし、もしかしたら資格者同士分かるのかもしれないわね。 実際ティナの目を盗んで身に着けようとしてその言葉通りに四日間生死をさ迷ったんだし。多分母さんじゃなかったら死んでたわよアレ」
「好奇心旺盛って言っても、それ無茶苦茶だよ母さん!」
母さんは昔から思い付きの実践主義な所が有るけど、死ぬと言われている物にまで手を出すなんて筋金入りだ。
ホフキンスさん曰く凶悪な呪物との事だけど、なんだかんだ言って生き残った母さんはやっぱり凄いな。
「で、その手套の下には燃え盛る契約紋が有る訳ね」
「えぇ! なんでそれを?」
僕の驚きをにんまりとした笑顔で見詰めている。
これは完全に不意打ちだった。
いや、母さんは最初からお見通しだったんだな。
改めて母さんの洞察力には恐れ入るよ。
「うん、これがそう」
僕は左手だけ手套を脱ぎ母さんに甲に浮かび上がる赤い契約紋を見せた。
燃える様な揺らぎを見せるその様に、さすがの母さんも少し驚いて目を剥いている。
「これはまた……、禁書の通り。あっ……と、さっきから言ってる禁書って言うのは……」
「叔母さんから禁書の話は聞いたよ。そんなの有るとは知らなかったよ」
「あぁなるほど。だからマーシャルはこんなに早く実家に戻って来る事になったのね。そっかぁティナも同じ事を考えて……。そしてマーシャルに『覇者の手套』を託したって事か」
母さんは頭の中で答え合わせをしている様に目を瞑りながら何度も頷いていた。
けれど鼻をヒクヒクさせているのはライアの匂いを嗅いでるからなんだろうな。
本当にどこまで真面目なのか分からないよ。
「しかも、何かとんでもない物に付き纏われているみたいじゃない。よく無事に辿り着けたわね」
「えっ!! な、なんでそれを?」
母さんの言葉が差す意味は恐らく死神の事だと思う。
なぜ知っているのか分からないけど……。
あっ玄関で母さんが言ってた『見ている子』ってやつの事?
僕が顔を上げると母さんは何も言わずに肯定するように大きく頷いた。
「母さんでもあんな存在は見た事無いわ。ガチでやって勝てるか分からないと思ったのは今まで初めてね。マーシャルは相手に心当たりはあるの?」
「ゲッ! 母さんでも無理なの? と言うか今でも付いてきてるの? 全然分からなかったよ。そんなぁ~……。え、え~とね、あれは多分伝説の死神。本人がそう名乗った訳じゃないけど、あの迫力は間違いないと思う。夢で襲われたり、直接僕の前に姿を現したりして来たんだ。理由は多分この赤い契約紋……なのかな? 多分」
「なるほど、封印が解かれた所為ね。あの圧力からすると恐らく数年前ティナの相棒が遭遇したと言う死神に間違いないでしょう。確かに始祖によって封じられた魔王の戒めを解くにはマーシャルの存在は邪魔になる。だから襲って来たと言う訳か……。本当に良く無事でここまで来れたわね」
あれ? 封印に関してはまだ喋ってないのに……?
いや、母さんだったら既にそこまで理解しててもおかしくないか。
やっぱり死神は襲って来た理由は始祖の力絡みだったんだね。
それより、今母さんってばさらっと凄い事を言わなかった?
僕が死ぬと魔王復活するの? かと言って殺されない様に逃げ続けてもやがて新たな魔王が現れるんでしょ?
人類が生き残るには僕が強くなって死神と新たな魔王を倒さないとダメって事?
なんで僕の肩に人類の未来が掛かってる事になってるの?
勘弁してよ……。
「無事だったのは自分でも良く分からない。二回ほど襲われたけど、どっちも途中で消えちゃったんだ」
「消えた? 死神がそのまま目標を放って置いて? なんとか生き伸びたって言うティナの相棒でさえ魔力経路と足を破壊されたって話なのに。ちょっと詳しく聞かせてもらえるかしら?」
さっきから母さんが言っている叔母さんの相棒ってサンドさんの事だよね?
足だけじゃなく魔力経路も破壊されただって?
だから今は火矢しか使えないって言っていたのか。
魔法剣士だったってのは本当だったんだね。
そんな怖い死神に本当に僕は良く生き残ったと思うよ。
「本当に良く分からないんだけど、まずその死神って伝承のような骸骨の姿じゃなかったんだよ」
「ふむふむ。遠くから視てるのは分かったけど、残念な事に姿までは捉えれなかったから、それは興味深い話ね。一体どんな姿だったの?」
母さんは興味深げに僕の方に顔を突き出すように聞いて来た。
その下のライアも興味有りげに僕を見詰めている。
「それがね、とっても綺麗な女の子だったんだよ。黒いドレスに銀髪で赤い瞳。だから夢で襲われてもうダメだって思った時に、僕ったら気が動転して思わず死神の事を『綺麗だ』って言ってしまったんだ。本当にテンパってたんだろうなぁ」
「んん? ……まぁいいわ。それでどうなったの?」
母さんが怪訝な顔して首を捻った。
どうしたのかな?
「そしたら、死神は『私が綺麗?』て聞いて来たんだ」
「ふんふん、それで?」
「だから僕は『うん、とても綺麗だと思うよ』って言ったら『そう』とだけ残して消えちゃった……って、どうしたの母さん?」
僕が夢での出来事を話すと母さんは眉間に皺を寄せてジト目で僕を見ながらブツブツと呟いていた。
なんでそんな顔してるんだろう?
「……もしかして? ……いやまさかねぇ? まぁ次行きましょうか。その後に直接襲われたんでしょう? どうやって死神から逃れる事が出来たの?」
「え? え~と、襲われ……はしなかったんだよ。結局」
「襲われなかった? どうして?」
「いや、途中でこの街に来るまで馬車を護衛してくれていた冒険者の人が僕を見付けてくれたんだ。そしたら消えちゃったんだよ」
また母さんが怪訝な顔をして首を捻っている。
そう襲われなかった。
僕を襲う機会なんて幾らでも有ったのに。
本当に不思議だ。
「ふ~ん。死神が冒険者如きでねぇ? それまでの経緯を教えてくれるかしら?」
「死神は最初僕の幼馴染と偽って現れたんだ。姿も金髪碧眼白いワンピースに変装してね。メイノースから山脈を越えた先に有る宿場町で小さい頃一緒に遊んだって言って」
「そりゃまた手が込んでいると言うか杜撰と言うか……あそこが宿場町になったのって最近じゃない。十年ちょっと前までは砦で一般人が住むような場所じゃなかったわ。そもそもマーシャルは一度も行った事無いわよね」
「うん、そうなんだ。けど何処からどう見ても普通の女の子だったから、まさか死神が化けているとは思わなかったし、てっきり誰かと勘違いしているか、それとも別の町で会った事を勘違いしてるのかな? って取りあえず話を合わせたんだよ」
「はぁ~死神がそんな事をするなんて面白いわね~。それで、どうなったの? 人気の無い所に誘われたとか?」
母さんは死神の生態に興味津々と言った顔をしている。
そりゃそうか、だって伝承に有る死神がどんな行動をするのかなんて、当事者じゃなかったら僕も聞きたいもん。
「いや、そんな事は無くて二人で手を繋いでバザーを回ったり、話をしたり……ん?」
あれ? また母さんがジト目になっている。
もしかして信じてないのかな?
いや、そりゃ僕もおかしいと思うけど実際にそうだったんだよ。
「いいから続けて……。……やっぱり? いやいや……そんな」
ぶつぶつと何か呟いてるけど……まぁいいか。
母さんの言う通り話を続けよう。
「アクセサリー屋の前を通った時にそこの店長が声を掛けて来てね。その言葉を聞いた途端その子は死神の顔に戻ったんだよ」
「死神の顔に戻った……? その店主は何を言ったの?」
「うん、恐ろしい事に僕達の事をカップルとかラブラブとか……それにデートかい? って」
あっ母さんがライアの頭に顔を埋めちゃった!
「……ソレデドウシタノ?」
あれ? なんだか感情の無い片言になってる。
やっぱり信じられなくて呆れちゃったんだろうか?
「ちょっと母さん。本当の話だよ。死神だって気付いた時の恐怖ったらなかったんだから!」
「……はいはい。それでどうやって死神は逃げて行ったの? もしかしてそのアクセサリー屋で何かプレゼントでもした?」
母さんはライアの頭に顔を埋めたままそう言って来た。
なんか投げ槍な感じに聞こえるんだけど……?
けど、その通りなんだよね。
「なんで分かったの? ブローチを欲しがったから見逃してもらうワイロのつもりで買ってあげたら、丁度その時冒険者の人が来てくれて、そして何故か僕にありがとうって言い残して死神は消えちゃったんだ。やっぱりワイロ作戦が効いたのかな~?」
「……くっ」
僕が話し終えると母さんは相変わらずライアの頭に顔を埋めたまま肩を震え出した。
何か言葉をかみ殺しているって感じ。
「どうしたの母さん……?」
「どうしたのって? どうしたもこうしたも無いわよ。くっくくく」
母さんの異変に僕が焦っていると母さんは急に顔を上げた。
驚いた事にその顔にはこれ以上ないと言う笑みが浮かんでいる。
「ぷっ! ふふっふふふふ。あーーーはっはっは! ひーーひーー。お腹が痛い! ぷふふ、なるほどなるほど~。マーシャルをずっと見てるもんだから警戒してたけど、執着している割には殺意が感じられなかったのはそう言う事ね。あぁおかしい! 我が息子ながら将来が楽しみだわ。末恐ろしいとも言えるのかしら? ふふっ」
母さんは勝手に納得した様な事を言いながらお腹を抱えて笑い出した。
膝の上のライアは上下に揺られて少し乗り物酔いしそうな顔になっている。
可哀想だからやめてあげて!
「笑い事じゃないよ。僕狙われてるんだよ?」
「安心しなさい。もう大丈夫よ」
「大丈夫って? 相手は死神だよ?」
「だから大丈夫。母さんを信じなさい」
母さんはなんだか自信満々にそう言った。
う~ん、母さんが言うんだから本当に大丈夫なのかな?
それとも今の話で死神に対する対処法を思い付いたとか?
そうだったらいいんだけど……。
「……こりゃメアリにとって、強力なライバルが現れたわね」
そんな母さんの呟きはまだ状況がよく分からず焦っていた僕の耳には届かなかった。
書き上がり次第投稿します。




