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第44話 城塞都市ガイウース

「ではマーシャル君、ここでお別れですね。一度繋げたこの縁はまた交わる日もあるでしょう」


 ホフキンスさんは笑顔で別れの挨拶をして来た。

 僕も頭を下げながら挨拶を返す。


「ホフキンスさん。大変お世話になりました。色々と良くして貰ってありがとうございます」


「いやいや良いんですよ。それに暫くこの街に滞在する予定ですので何か御用命が有りましたら、是非バードン商会ガイウース支社までいらして下さい。お待ちしておりますよ」


 ホフキンスさんはそう言って街馬車に荷物を詰め込み去って行った。

 僕とライアは手を振って馬車が遠ざかっていくのを見送っている。

 別れる際に餞別としてお土産もくれたし、本当にいい人だったよ。


 そしてホフキンスさんより先に別れたダンテさん達も、まずはこの街に在る冒険者ギルドに護衛達成の報告をしに行くんだって。

 全員から『また会おう』と言ってくれた。

 ライアを妹の様に可愛がってくれていたレイミーさんなんかは、涙ながらにライアに抱き付いて別れを惜しんでいたっけ。

 ホフキンスさんがグレイスに戻る際にも護衛をする事になってるから、その間彼らもこの街に滞在するんだし、実際にまた会う機会があるかもしれない。

 特にレイミーさんなんかは、ライアに会いに実家に来そうだしね。



 皆と別れてやっと故郷に帰って来たんだって実感が湧いたよ。

 そう僕は行程四日の旅の末、とうとう故郷の『城塞都市ガイウース』に到着したんだ。

 メイノースを慌しく出発してから宿場町に着くまでは色々と危険で騒がしい事ばかりだったんだけど、それ以降は何故かぱったりと魔物の襲撃は無かったんだよね。

 ダンテさん達もこんなに楽な旅は初めてだったと笑ってたっけ。


 僕としては夢で死神に襲われたり、死んだと思ったロックベアが起き上がって襲ってきたり、そう言えばその後に峠で襲って来た魔物達は何故か荷台を狙って襲ってくるもんだから、隠れていた僕は気が気じゃなかったよ。

 ホフキンスさんの荷物の中に魔物が好きな臭いのする商品でも入ってたのかな?

 本当に商人の旅って大変だと思う。


 結局死神もあれ以降姿を見せないし、僕を殺す事を諦めたんだろうか?

 う~ん、そうであって欲しいけど、魔王を封印したと言われる始祖の力だ。

 魔物達にとって厄介極まりない筈だし、それは無いと思うんだけど……。


 ……もしかして、最初は殺そうと近付いたけどあまりにも僕が雑魚過ぎた所為で殺す価値が無いと判断したのかな?

 そうだったら嬉しい……いや、やっぱり悲しいよ!

 魔物にすら価値無しと見限られる僕って何なの?

 ハァ……出来るならワイロ作戦のお陰だったら良いな。

 それなら僕の心も軽くなった財布も救われるよ。 



 とまぁそんな心の葛藤に打ちひしがれている僕だけど、実はいまだ定期馬車発着場に居たりする。

 乗り物酔いしたライアの介抱をしていると言うのも有るけど、家に向かう一歩を踏み出す決心がつかない為だ。

 知らせも出さずに急な帰郷。

 母さんと父さんは喜んでくれると思う。

 何より二人には事情も説明するしね。


 問題は妹の存在。


 今まで出来るだけ考えない様にしていたんだけど、実家に帰るとなるとそう言う訳にはいかない。

 嫌でも毎日顔を合わせる事になるんだから。


 あれだけ旅立ちを引き留めた妹が、この一年間メイノースまで追いかけて来ないどころか手紙さえ寄越さなかったんだから相当怒っている筈だ。

 一年前逃げ出す様に家から出て行った僕が、一人前になる前に逃げ帰って来たと言う事実に、妹はどう反応するだろうか?

 考えただけで背筋が凍る……ぶるぶる。


 正直な所、僕的なベストは呆れ果てて口も聞かず無視される事だ。

 それが一番安全だと思う。

 次点で顔を合わせる度に罵倒される事かな?

 最悪なのは……考えたくないよ。


「はぁ……いつまでもここに居ても仕方無いか。それに死神の気が変って襲いに来るかもしれないし早く母さんに守って貰わないとね」


 やっと乗り物酔いから回復したライアに変装用のローブを着せた僕は、ため息交じりにそう呟きながら実家に向けて歩き出した。




        ◇◆◇




「やぁマーシャル君! 久し振りだなぁ。帰って来たのかい?」


「お久し振りです。ちょっと用事が出来まして暫く滞在する事になりました」


 取りあえず実家に帰る為に東門を目指して通りを歩く僕に顔見知りの人が声を掛けてくれる。

 雑魚な僕とは言え、この街ではそれなりに有名なクロウリー家の長男なので、そこそこ知り合いは多いんだ。

 まぁ僕にコミュ力が有るとかじゃなくて、天才と名高い母さんやこの街の魔術協会幹部の父さんのお陰なんだけどね。


「おや? その子は……?」


「あぁ、この子は僕の従魔ですよ」


 そう言って変装用のローブのフードで頭をすっぽりと隠したライアを紹介した。

 今ライアが着ている一見何の変哲も無いこのローブ。

 実は出発する際に僕が着せていた物とは違うんだ。

 これはホフキンスさんのお土産の一つで、なんとフードに認識阻害の魔法が掛かっていると言う優れもの。

 今この人の目には僕の言った『従魔』と言う言葉によって魔物に見えている。

 なんでも所持登録した者の言葉に合わせて見え方が変るみたい。

 相手への幻術じゃなくてフード自身に映像を投影すると言う優れた機能のお陰で幻術耐性が有っても大丈夫なんだって。

 僕が何も言わないでもライアの事をなんとなく普通じゃないと察したホフキンスさんが渡してくれたんだ。

 僕んちみたいな名誉爵じゃなく生粋な王侯貴族御用達の防犯具で、かなり値の張る商品らしいんだけど、出世払いと言うそんな来る可能性の薄い未来の僕への投資とかなんとか……。

 そんな期待に応えられるように頑張らないとなぁ。


 ちなみにダンテさん達冒険者には当たり前かもしれないけど、ライアが人間じゃないって事はバレてたみたいだ。

 レイミーさんってば休憩中とかずっとライアの肉球をぷにぷに堪能していたしね。

 けど、冒険者の流儀の一つに『冒険者たる者、仲間の事情は深く詮索するな』って言葉が有って、明らかにその事情が犯罪絡みで無い場合は仲間を信じて何も言わずに見守ると言う事らしい。

 ライアや始祖の力の事に関して犯罪かそうでないかは微妙なラインだけど、今の所皆が不幸になる様な力ではないっぽいんでセーフだよね?


「ほう! クロウリー家の長男であるマーシャル君もとうとう従魔を! ……にしちゃあ少しばかり小さい魔物ですね」


「そ、そんな事はないですよ。見た目と違って頼れる相棒なんです。それじゃあ、また~」


 僕はそう言ってそそくさとその場を去った。

 そうだよね、フードの中は魔物に見えても身体の大きさまではどうしようもないよね。

 何よりライアってば姿が変わっても、元から身体の小さいコボルトの更に小さい子供サイズのままだし。

 かと言って娘だなんて言っちゃうと、変な噂が広まり兼ねないよ。

 広い街だと言っても噂なんてあっと言う間に姿を変えて広まっちゃう。

 いくら今の人にもホフキンスさんと同じ様にライアが養女だと説明しても、明くる日には『(養女と言ってるけど)実は奥さんに捨てられて泣く泣く実家に帰ってきた』って話に変っていても不思議じゃないよ。

 僕は未婚だし、そもそも未成年で、なにより一年しかこの街を離れてないのにさ。

 そんな不名誉な噂が立ったら将来の婚活に影響出ちゃうよ。




        ◇◆◇




「あらマーシャルちゃん。いつ帰ってきたの? これはメアリちゃんも喜ぶわね。……なんたって最近ちょっと荒れ気味だったもの」


「えっ? 荒れ気味? あはははは怖いなぁ~」


 知り合いのおばさんが通りすがりにとんでもない情報を伝えて来た。

 メアリとは妹の名前。

 最近ちょっと荒れ気味ってどんな感じなの?

 笑って誤魔化したんだけど、笑ってる場合じゃないよ。

 事情が事情なだけに一刻も早くメイノースを出なければいけなかったとは言え、いきなり家に帰るのは止めた方が良かったかもしれない。

 事前に母さんから様子を聞いとけば良かったよ。

 う~ん、こりゃ最悪を想定しないといけないかも……。


 このまま振り返って叔母さんちに帰りたくなる思いを何とか堪えて僕は東門を目指した。

 何より財布がすっからかんだから、実家に帰る他ないんだよね……ははは。




        ◇◆◇




「おや? クロウリー家の坊ちゃんじゃないですか。冒険者になる為『叡賢都市』に行ったって聞いてたのに里帰りですかい?」


 東門に着いた僕に門番のおじさんが挨拶をしてくる。

 僕は今日何度目になるだろう「ちょっと用事が出来て暫く滞在します」と言う言葉を返した。

 何故東門に来たかと言うと、実は僕の実家はこの街の城壁内には無いんだ。

 東門から出てすぐ側に建っている屋敷が僕の家。

 北門にある馬車の発着所から実家に向かうには、一旦外に出て城壁の外周を歩くより、その城壁に守られた街の中を斜めにショートカットした方が安全で早いからね。

 今思うとライアの事情を話す手間を考えれば外周の方が良かった気もするけど、安全性を考えると背に腹は替えられないよ。

 誰も居ない所を死神に襲われたらイチコロだもん。


 門番さんに会釈をした僕は東門から街を出る。

 そして、少し南に目を向けると少し小振りながらも街とよく似た造りの城壁が姿を現した。

 その城壁の向こうに幾つかの尖塔が頭を出しているのが見える。

 パッと見まるで出城とでも言えそうな異様な迫力を持つ建造物。

 あれがクロウリー男爵家の屋敷。


 そう、僕の実家だ。



書き上がり次第投稿します。

次回はマーシャル一家が登場します。

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