第21話 決意表明
「そう言えば、なんでマー坊はモコちゃんの事をライアって呼んでるの?」
モコと出会った洞窟に向かうべく歩き出したところで、叔母さんがそんな事を聞いてきた。
そりゃそうだ。
今朝まで……、あぁそう言えばあれから三日経ってるのか。
三日前までモコと呼んでたんだから仕方ないよね。
急にライアになったなんて、そりゃ気になるか。
「う~ん……。それは……」
とは言え、正直に喋るのは気が引けるな。
だって、封印を解いた事がバレないようにってのが本当の理由では有るんだけど、それ言っちゃうとライアを騙したってのがバレるしね。
「あたちはしゅっせうよなの! かっこいくなったからライアになったのーー!」
どう説明しようかと思っているとライアが嬉しそうにそう言った。
あぁ、なんて純真なんだ。
騙そうとしたの自分が情けない……。
「しゅっせうよ?」
「あぁ出世魚の事だよ。姿が変わったから名前を変えようって言ったんだ」
「あぁ……はは~ん。なるほどねぇ。けど、なんでライアなの?」
叔母さんは皆に封印の事がバレないようにライアを騙したって事を察したようだ。
そしてライアの名前の由来……、それは夢で見た最強の獣人にあやかってなんだけど、実はその獣人に一目惚れしたから……なんて言うと笑われそうだから言うのは止めておこう。
「そ、それは、なんか格好いいかなって……」
「うん! かっくいいーーー!!」
「あらあら、モコちゃんもライアが気に入ってるのね。モコって響きとても可愛かったのに~。……けど、そうね。街でもモコちゃんの事は知られちゃってるし、この姿なら名前を変えるのは正解だと思うわ」
「そうだな。正直俺も今までコボルトの子供を従魔にしているテイマーなんてのは聞いた事が無いくらい珍しい存在だから目立つってのも有るが、何よりティナの甥っ子って事で元々冒険者の間じゃ注目度が高いんだ。そんなもんで二人の組み合わせはその物珍しいさも手伝って俺達の街は元より近隣の街でもそれなりに有名なんだよ」
「えっ! 僕ってそんなに目立ってたの?」
なにその僕だけ知らなかった事実!
僕って弱くて地味だから目立たない存在と思っていたのに、いつの間に有名になってたの?
それに叔母さんの甥っ子だからって何?
「あぁ、ティナの甥っ子が冒険者デビューって事でギルドでは結構な騒ぎになってたんだぜ。幾つかのパーティーはお前の面倒を見ようと声を上げてたくらいさ。まぁ、ティナのご機嫌取り目的の奴らも居たけどな。それなのにお前は同期のグロウ達と組んだから、皆ハラハラしながらお前達を見守ってたんだよ」
「し、知らなかった……。そう言えば先輩達は僕に優しかった気がする……」
思い返すと、新人研修の教官も確かに口は悪かったけど、危険な敵や冒険の注意事項を過保護なまでにレクチャーしてくれていたと思う。
別のギルドの新人冒険者に聞いたら、研修なんて幾つかギルド規約の注意事項を口頭で説明されただけって言ってたし、僕らが受けたような徹底した実地訓練も無かったみたい。
あれはただ単に僕らが頼りないからだと思ってた。
実は僕達が生き残れるようにって言う優しさからだったなんて……。
けど今思い出しても地獄のような一週間だったなぁ。
「知らないのは無理もねぇさ。ティナが絶対言うなって口止めしてたんだしな。知らないのはお前と、……あぁあいつ等くらいか」
「う~ん。少し複雑ね。あの子達とても良い子だと思ってたんだけど……」
サンドさんの言葉に叔母さんがそう言って難しい顔をした。
それにつられてサンドさんも腕を組んで唸りながら頭を捻る。
あいつ等とかあの子って誰だろう?
……あっ! そうか。
「あの子達ってグロウ達の事?」
僕の言葉にコクリと頷く二人。
その表情は変わらず眉間に皺を寄せたままだ。
「お前と門で別れたあの日にちょっと気になってギルドに寄って見たんだよ。グロウ達は丁度俺の交代時間と入れ替わりで街から旅立ったみてぇだから会えなかったが、そしたらまぁギルドの雰囲気ったら酷ぇもんだったぜ」
「酷いって?」
僕はサンドさんの言葉にゴクリと唾を飲む。
酷い雰囲気ってのはどう言う事なんだ?
僕がパーティーから追放された時、ギルドの先輩達は何も声を掛けてくれなかった。
目を合わせようともしてくれなかったじゃないか。
「いや、もう葬式会場みてぇな状態でな。皆ヤケ酒搔っ食らってたんだよ」
「な、なんで……? あの時誰も僕に声を掛けようとしなかったのに……」
「そりゃ仕方ねぇ。パーティー内の事に口出し無用って暗黙のルールが有るからよ。皆お前の顔を見ないように歯を食いしばってたって言ってたぜ。顔を見たら声を掛けちまいたくなるからだと。それに下手に声を掛けちまったらグロウ達への怒りが爆発しそうだって言ってたぜ。あぁ、そうだ。ティナの事を知ったんだったら言っても良いか。声掛けてやれなくてすまねぇって皆言ってたぜ」
そうだったんだ……。
先輩達がそんな風に思ってくれていたなんて。
僕はサンドさんの語ってくれた事実に少しだけ胸が軽くなった気がした。
「とは言え……とは言えだ。だからと言ってグロウ達を怒れないのも分かってる。冒険者ってのは命張ってるし、言っちゃ悪いがマーシャルがあいつ等にとって重荷になってたと言うのは否定出来ねぇ。だから追放自体は誰も文句が言えねぇんだ。それが余計にヤケ酒を飲んでたって理由だな」
「う……そうだね」
遠回しに『僕が弱いから追放された』と言う事をサンドさんは言っている。
僕もそれに関しては何も言い返せない。
「だけど! そうだったとしても私が許せないのは言い方よ! マー坊が弱いのもモコちゃんが弱いのも事実よ」
「ライアでち」
「あぁごめんなさい。ライアちゃん。そう事実だとしても、言って良い事と悪い事が有ると思うの。嘲笑う様な発言は許せないわ」
弱いのが事実って力強く言われるのはとっても傷つくなぁ。
いや、事実なのは確かなんだけどね。
「まぁ、まだ駆け出しだったから冒険者の流儀を知らねぇのは無理ないが、それにしたってパーティーからの離脱勧告であれはねぇよ。仮にも今まで一緒に苦楽を共にした仲間なんだぜ。弱くて追い出すにしても仲間を馬鹿にするような発言をする奴なんて、今後冒険者として誰からも信用されねぇよ」
サンドさんが吐き捨てるようにそう言った。
追い出された後も会う度に馬鹿にされた事を思い出す。
う~改めて腹が立ってきたな。
「まぁ、ティナが冒険者だったってのは秘密だからよ、この事で面と向かってグロウ達に文句は言わねぇだろうし、冒険者の流儀にしても言っちまった奴に『言うな』って注意する奴も居ねぇだろうさ。もうそう言う奴だって事がバレちまってんだからな。今後はギルド内で浮いて行くだろうよ」
「……秘密なの止めちゃおうかしら……私の可愛いマー坊になんて仕打ちを……ぶつぶつ……」
サンドさんの言葉に叔母さんがぶつぶつと怖い事を言っている。
復讐とか、痛い目に合わせるとか物騒な言葉も聞こえてくるよ……。
「いや、ちょっと待って。それはダメだよ」
僕は思わず叔母さんの暴走を止めてしまった。
このまま何も言わなかったら、叔母さん主導の元グロウ達に復讐出来るだろう。
けど、それは違う。
「おいマー坊。あいつらを許すってのか?」
「そんなっ! マー坊ったら……なんて優しいの。お姉さん涙が出ちゃう」
「ち、違うよ。そうじゃないんだ。パーティー追い出された後も何回か会って、その度に馬鹿にされたんだ。僕が弱いのは事実だけど、それを許せるほど僕は優しくないよ」
そう、パーティー追放の理由がどうであれ、追放された後も馬鹿にされるのまで許せる訳がないよ。
絶対にあいつらにギャフンと言わせてやるって気持ちは今も変わらない。
「え~と? だったらどうするつもりなの?」
叔母さんとサンドさんが怪訝な顔をして僕の言葉を待っていた。
僕はキッと目に力を入れながら口をニヤッと口角を上げる。
そして息を大きく吸い込んだ。
「それは勿論、僕とライアが強くなって実力であいつらに見返してやるんだよ!」
「まぁ……マー坊」
僕は大声で復讐への決意表明を高らかに宣言した。
そうだ、そうなんだよ。
他の人の力で復讐してもそれはグロウ達の言った言葉を認めてしまう事になる。
僕が弱いという事実からは逃れられない。
他人の力で復讐したその時点で僕の負けだ。
僕はあいつらに勝ちたいんだ。
僕とライア、二人の力で。
……と言いながら、復讐する為に封印を解いてこうなんて思っちゃったんだけどね。
これも僕の力な訳じゃないんだから、使えなくなってくれて良かったのかもしれない。
「よく言ったぞマーシャル! 立派だぜ! それでこそティナの甥っ子だ! よし分かった。お前のその言葉をギルドの奴らに伝えておく。グロウ達に勝てるようビシバシ特訓してくれる筈だぜ」
「う……うん。お、お手柔らかにお願いするね……」
目が燃えているサンドさんに、先ほどの発言を少し後悔しながらそう答えた。
多分先輩達もサンドさんと同じ目をしながら僕に特訓してきそう。
しかもかなり厳しめに……。
そんな未来が見えた気がした。
本日はもう一話アップいたします。
書きあがり次第投稿します。




