1 - 1 【遭遇】
「二十四歳の俺」と、子どもの頃の自分が聞いたとき、「大人だなあ」だなんて思っていたように思う。「きっと俺も、そのくらいの歳になれば、立派な大人になっているんだろうなあ」と。しかし、今やこの有り様。俺は、思春期の頃からほとんど変わっていないのだ。そりゃ、「立派な大人になっているんだろうな」と思っていたガキのころよりは成熟しているだろうが、所詮思春期。二十四になった俺は歳だけ取ったまま、それなりの責任を抱えて、それでもマセガキのままでいる。自分の周りを見ても大して変わらないように感じるから、「そんなもんだろ」と安心しながらもどこか将来に不安めいたものを感じないでもない。いまいち掴めないふわっとしたビジョンの中、それでもそこまで重くも受け止めず、今日も俺は友達と馬鹿をするためにクラブへ向かうのだった。
「おい、それじゃあキョウコとは遊びだったって言うのかよ。なんでそんな……」
「そりゃそうだろ、そもそも彼氏がいるのに俺になびくような奴だぜ。本気になれる方がどうかしてるよ」
「てめっ、この……他人の女だぞ。俺の。よくそんなのうのうと言ってられるな」
「へっ、そっちこそよく言うよ。連絡無精で彼女のこと不安にさせといて」
仕方なくね。という問いかけを表す嘲りの目線を上げると、ケンジはサッ、と顔を真っ青にして言葉を止めた。しばらくして襟首から手が離れると俺はなんてことないという意思表示をするために真顔になってTシャツの脇腹の辺りを掴み下へ引っ張ってみせた。「すいません」と周りに声をかけてスタッフを呼んだ。床へ落ちたグラスの破片は、誰を傷付けることもなく、静かに塵取りの上へと追いやられた。
仲間内でつるんでいたキョウコはケンジの恋人で、お互い心底好き合っていて仲睦まじげだった。キョウコはすらりと背が高く、顔立ちも整っていて、ケンジは体格がよく彫りも深い、そして頼りがいがありそうな風貌なため、周りからは「お似合いのカップル」として認められていた。所謂「美男美女」と言いたいのだろう。その通りなのだけど。
そんなところに文句はない。この事の発端でもない。そもそもそんなものには興味がなかった。
ただ、キョウコは本当に可愛くて綺麗な女で、そんな女がいきなり一本脚のバーテーブルの上で指を撫でてきたら、どう思うか。それも、寂しそうな目を指先に落として。
結局、あれから仲間たちとも気不味くなり、しばらく距離を置くことにした。何、いつものことだ。そのうち事は丸く収まって、また元の場所に戻れるのだ。心配することもない。寂しさも覚えない。