6話 新人ギルド
ピメールの町はずれにある古びた建物の二階にペレスはいた。
バリタ、グリタ、ドリタの3人もついてきた。
「今日からここをギルド事務所にする」
「すごーい!ギルドってこんな簡単に出来るんだ!」
バリタが言った。
確かに思ったよりずっと簡単に出来てしまった。
メンバーを書いた申請書を出したら無料でこの部屋を与えられた。
ちなみに三階建てのこの建物、どの部屋も新参ギルドが入っている。
「僕たちは期待できると思われてるんだ!明日から稼ぐぞ!」
「稼ごー!おー!」
4人で住むには狭苦しい部屋に掛け声が響いた。
+ + + + +
新人ギルド設立協会ピメール支部の部長、オリバーは煙草を吸っていた。
一服してから事務員のナチョに話しかけた。
「今週は何グループ入った?」
「さっきので10グループ目です」
オリバーはにやっと笑った。
これなら全部で200ある部屋は今も満室のはずだ。
「まったく笑いが止まらんな」
「ほんとですねえまったく」
町はずれにある建物、以前は学生寮として使われていた。
オーナーが死んだあと相続放棄されて町が保有していたのに目をつけた。
老朽化しているし町の中心から離れていて不便極まりない。
典型的な不動産ならぬ負動産だ。おかげでタダ同然で借りられた。
町の担当者は無料譲渡を申し出てきたがもちろん断った。あんなゴミ所有したら固定資産税を毟り取られる。
おまけに一度所有したら手放せない。寄付も断られる。呪いの装備だ。
そこに無料でギルドを作れると言って冒険者志望の奴らを集めてきた。
無料の言葉につられて人生の貴重な時間を費やす馬鹿がうようよ湧いた。
「収支はどうなってる?」
「クエスト紹介の手数料と成功報酬の一割中抜きで人件費と家賃と広告料を払ってもお釣りがきてます」
事務員はナチョの他に3人。大した仕事はないので楽に回せていた。
クエストという名の雑用をやらせるだけで勝手に金が入ってくるのだから。
「あとアンドニ村から今月トップのギルドを召し抱えたいと言われてます」
「トップねえ。そりゃどんなゴミ集めても並べて先頭ならトップだもんねえ。嘘は言ってないよ嘘は」
極めつけがこれだった。トップギルドの紹介依頼。
本質を理解せずただトップのひとことを有難がる連中が多かった。
そこにトップのギルドを売りつける。これで一儲けできるのだ。
別にトップが抜けても困らない。次点がトップになるし補充要員の新人は放っておいても勝手にやってくる。
「いい商売だよな。座ってるだけで金が入っておまけに感謝される」
「さっきの4人組も喜んでましたね。名前は何だったかな・・・そうそうエスコベドだ」
10代後半の男1人と女3人の見飽きたパターンだった。
働けば手数料と中抜き、いるだけでもランキング形成要員になる。
「おっとそろそろ出かけなければ。留守は頼むぞ」
「わかりましたオリバー様。しかし最近出張が多いですね」
ナチョがそう言った。確かに最近繁盛していてよく出かける。
オリバーだけでなくクエスト自体、遠方のものも増えてきた。
「運送業界に顔のきく奴を探してみるか。遠くに送り込むことも多いし」
「あの連中の中にひとりぐらいいるんじゃないですか。運送の手配は期待できない下っ端に任せること多いですし」
うむ、と頷いてオリバーは出かけていった。
ナチョは馬車が発つのを見届けてから事務所で昼寝をはじめた。




