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最強ギルドを追放された荷物持ちの成り上がり~最強兵站能力で無双~  作者: ボブサッポ
3章 輪廻編「女子大生がマヨネーズで議員になります」
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34話 亡国のマヨネーズ、檸檬を添えて

 与党が『マヨネーズ大正義党』になってから半年が経ちました。私たち元マヨ是会、現立憲党は細々と活動を続けていました。


 与党でない議員は議員にあらずという風潮がありましたが、お給料をもらっている以上は仕事をしなければなりません。


 そんな中、税収の報告が上がってきました。数字を見て全員ひっくり返りました。


「消費税と法人税が3割減、所得税は4割減……いやぁ凄いですねぇ」

「移住する人が増えているとは聞きましたが、これ程とは」


 人数で見るとそれ程でもなかったのです。ただヤーパンを見限り移住したのは軒並み高額納税者でして、その結果がこれ。ま、当然の帰結と言えるでしょう。


「ローランさん、与党と話し合って今すぐにでも方向性を正すべきです」

「んー、もう手遅れだと思いますよ。それに私も来月辞職して飛ぶつもりですし」


 副代表のルソーさんはこんな時でもヤーパンの将来を考えていました。素晴らしい議員ですね。でも残念ながら私はこの国に尽力する気にはなれませんでした。


 素敵な国にしたいけれどどうすればいいかわからない、というのであれば、私も未熟者ながら頑張ろうと思えます。でもほら、義務も責任も果たしたくなくて、でも正義を振りかざして何かを安全圏から叩くことだけに命をかけているような方々に提示するものなんて何もありませんよね。


 だって今の状況が彼らにとっては一番素敵なんですから。この国を食い潰すまで延々やっていればいいんです。私は関わりたくないので去るだけです。


「ローラン代表。確かに見限るのもわかります。けれども私たちは政治家です。最後まで国民の可能性を信じるのが私たちの責務ではありませんか」


 青褪めた表情で元唐揚げ檸檬代表のルロワさんが申し出ました。点滴と流動食だけで何とか命を繋いできた彼女でしたが、課された役割から逃げようとは一度もしませんでした。

 若者は案外強い責任感を持っているようでした。正直私にはよくわからない感覚です。


「選民爆弾で要らない国民全部吹っ飛ばせたら立ち直せますけど、アリ?」

「もちナシで」


 全く注文の多いことです。でも仕方がないのかもしれません。なんでも劇薬で一瞬で改善できるはずという発想もまた、ヤーパンの悪しき伝統ですから。

 たぶんそういうところから時間をかけて是正していかないとならないのでしょう。


「では先ず何から手をつけましょうか……そうですね、これからですね」


 手にしたのはマヨネーズのチューブ。これで食事を覆わなければならない文化を、少しづつでも変えていこうではないですか。

 反発必至ですけれど、お給料をもらっているのです。国民の血税に応える義務が私たちにはあります。


「党名を改めます。我ら、マヨネーズハラスメントを是正する会。正しくなくてもこの国で生きる権利を認めていきましょう」


=───=───=───=───=


 月日が流れ、私はオーロラの下に立っていました。ハーシュタの地はとてもとても寒いです。ゼミの学友を頼ってきたのですが、これは失敗だったなと内心反省。でも他に伝手がなかったんですよね。


 10年前、やったるぞー!と再起した私たちは予想どおりの反発を受けました。殺人予告どころか実際銃弾が飛んできました。党員の一人が射殺、一人が刺殺された時点で私は党を解散しこの地へ亡命。政治家時代の生活は忘れてひっそりと暮らしています。


 どうせなら一度くらい料亭に行けばよかったなぁ……飛行機や新幹線もタダですし、旅行に行けばよかったです。後の祭りですけれど。


 ヤーパンは今でも一応国として残っていました。人口は1割以上減り、税収は半減どころでは済まなかったそうです。産業は壊滅し、豊かな水資源と関連する土地を他国に売り払うことで何とか生きながらえていました。


 因みにそんな有様ですからマヨネーズを作るのも難しくなり、与党は「空気を吸うこと正義党」になりました。ただこれは不評でした。何しろ空気を吸わない人がいないので、叩ける相手が呼吸を一時的に止める水泳選手だけになってしまったからです。


 有名どころの水泳選手を軒並み殺し終えたところで名前を改め、今は「水を飲むこと正義党」だそうで、水以外の飲み物を口にした人には何をしてもいいことになっていました。先日のニュースでは固唾をのんだ人が集団暴行を受けて亡くなったとの話。思わず息をのんだ私もあの国にいたら袋叩きにあっていたことでしょう。


 今日のニュースを読み終えてから、私は動画サイトを開くと昨日編集したばかりの動画を投下しました。今では珍しいヤーパン語の動画です。


「レナ、それはなんですか?」

「通信教育教材です。何と無料配信、今回は記念すべき通算1,000回目なんですよ」


 移住してから毎週2度の投稿を続けてきました。真っ当な教育機関の無くなったヤーパンに元政治家の私が為すべきことは何かと考え、出た結論がこれでした。


 視聴数だけはかなりのものなんですけれど、今のところ効果はまるで見えません。そんなものでしょう、国民が自分の頭で考えて行動できるようになるには十年では足りませんよね。


 投稿直後、一斉に罵詈雑言のコメントがサイトの下部に書き込まれました。投稿時間は定刻でないのですが、ずっと待っていたのでしょう。相変わらず生産性のない作業への熱意だけは衰える様子がありません。


 その中にぽつんと温度差のあるコメントが書かれました。「わたし、ジュースというものを飲んでみたいと思うのですが、これが罪となる合理的な理由はあるのでしょうか」とのこと。犯罪者だ、特定した、といったコメントが流れていく中で、私は返信を送りました。


「判断を他人に委ねないことです。その理由は貴方が考え貴方が信じてください」


 私は窓越しに、東に聳え立つ山をじっと眺めました。季節は冬、極夜の真っ只中のハーシュタは昼間だというのに真っ暗で、太陽が昇る気配は微塵もありませんでした。

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