表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強ギルドを追放された荷物持ちの成り上がり~最強兵站能力で無双~  作者: ボブサッポ
3章 輪廻編「女子大生がマヨネーズで議員になります」
28/35

28話 就職活動と選挙と

「当選確実おめでとうございます!」


 壁に掛けられた名簿にまたひとつ桜が咲きました。狭苦しい事務所にどよめきが走ります。皆が飛び上がって万歳三唱する光景を、私、レナ=ローランはぼんやりと眺めていました。


「やりましたねローランさん!これで9人目です!」

「あと1人で全員当選じゃないですか!大躍進ですよ!」

「あ、ええ。そうですね」


 お得意の愛想笑いを浮かべます。正直ちょっと引いていました。この人たちどうしてこんなに喜べるんでしょう。怖くないんですかね、冗談半分に立候補した若者が衆議院議員になってしまうなんてことが。いや、事の発端は私なんですけども。


 吊るされた横断幕にでかでかと書かれた政党名「マヨハラを是正する会」を見てため息をつきました。こんなはずじゃなかったのになぁ……。


=───=───=───=───=


 マヨハラを是正する会(以後、マヨ是会)が設立されたのは一ヶ月前のことでした。まずはそこに至る経緯をご説明いたします。


 二年前の春、アメリアのサラリーマン・ブラザーズなる大企業が倒産いたしました。51州目の我が国ヤーパンはもちろん仲良くその影響を受けまして、失われた20年から若干マシになったところ再び大不況へと突入。

 サラリーマンの皆さんも「ボーナスねー!」と悶えていたそうですが、その被害を最も受けたのは私たち就職活動中の大学生でした。


 前年の定員100人だったのが20名というのをよく見かけました。因みに20名と書いてあってもそれは建前で、実際にはそれ以下というのが当たり前なのです。例年なら難なく入社できるはずの企業からお祈りメールをいただく作業を残暑まで繰り返すはめになりました。


 私、レナ=ローランのスペックを簡潔にまとめると地帝文系院卒女子です。ええ、人事に一番煙たがられるやつです。貿易投資分析って面白そう!なんて飛びついて修士課程に進んだ2年前の自分をぶん殴りたくなりました。あの時期が就職活動はここ十年で一番楽だったのに……院卒でなく大卒なら煙たがられる度合いも多少は軽減されたはずなのです。


 ご存知ない方に補足しますが、文系女子に関して院卒は大卒以下です。ヤーパンに於いて女は男が馬鹿にできる存在であることが強く求められる傾向にあります。


 そんな文句を言っても内定はいただけませんので、世間ではクールビズとか言われる中で暑苦しいリクルートスーツのまま幾度も面接に臨みました。買い手市場ということもあり度々ハラスメントもございました。

 堪えに堪えて賽の河原で石を積み続けた結果、何とか一社の内定をいただくことができたわけですが、その頃にはもう心が擦り切れていまして、お電話でその旨ご連絡いただいた際も、これといった感慨もなくただ手帳の結果欄にマルをひとつつけただけでした。


 その内定を蹴り博士課程に進んだ理由は私にもよくわかりません。会社の規模や知名度はOGの就職先と比べて控えめでしたけれど、給与水準と福利厚生は決して悪くありませんでした。女性であれば営業職に回されることもなくずっと事務職で働けるという情報もありましたし、何より恩を感じていました。


 八月末の最終面接に臨んだのは二人で、同じ大学の人だったのです。そのもう一人は学部卒の男性でした。筆記試験とグループディスカッションを一緒に受けたのでわかりましたが、例年ならこんな時期まで残っているはずもない優秀な方でした。


 ですから最終面接の日、控室から面接会場へ向かった際に彼の後ろ姿を目にして、ああ、敗戦処理とはこういうものなのだなと、扉の前でしばし立ち尽くしたのでした。表面上は取り繕いましたが、本心は最初から負けを悟っていた私を、彼らがどうして最後の一枠に選んでくれたのかはわかりません。ただ、内定をいただいてから一週間ほど経ち全ての就職活動を終えたところで、あの会社はラベルだけではなく私自身も見てくれて、おまけに見る目がなかったのだなと、遅ればせながら感謝したのです。


 そう、感謝したのですけれど……内定式の直前になって辞退してしまいました。声をかけてくれた会社にも、私がいなければ席に座れたはずの彼にも大変申し訳なく感じつつ、お断りの電話をかけていました。


 ギャップに耐え切れなかったのでしょうね。並外れてなんてことはなくとも、そこそこ努力して真っ当に生きてきたのに、短期間にありとあらゆる人から「不要」と言われ続けて。


 いえ、それだけなら別によかったのです。私を確立しているのは私で、他者に何を言われようと崩れない程度に信じられるものを築いてきましたから。ただ、世界との間に一生懸命壁を築き上げたところに突然優しい言葉を投げかけられたのが辛かったのでしょう。せっかく距離をとったのにどうしたらいいのかわからなくなり、何もかも切り捨ててしまいたくなったのだと思います。若気の至りですね。


 怒鳴ってもいいはずの人事の方は察してくれたようで最後まで優しく接してくださりました。そんなに年の差はなかったはずなんですけれど、大人の風格でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ