2話 予算オーバー
「くそお!なんでまたこんなことに!」
僕は自転車をこいでいた。荷台には大きな荷物がある。
昨日食べたステーキをもどしそうになった。
「特注メイスなんてあってもなくてもいいじゃんか!」
マルク商会とボット運送に依頼をしてから三日後。
クエストを翌日にひかえたところで槌使いのヴァラヌに言われた。
「明日のクエスト、特注のでかいメイス持ってくからな」
そんなの聞いてなかった。馬車2台でギリギリいける量だった。
重さもきついしかさ張るのもきつい。
「予算は増えないんですか」
「その程度で増額なんか通るわけねーじゃん」
鼻で笑われた。慌ててマルク商会に電話する。
馬車とは言わないから馬を一頭追加できないか聞いたけど、
「いやペレスさんさすがにそりゃ無理すぎっす」
にべもなく断られた。
なんだよあいつステーキ300グラムも食ったくせに。
運搬用の予算はもう使い切っていた。
増額申請しても通らないのはわかりきってる。
クエストの受注金額が増えてないのに予算を増やすと採算レートが下がる。
営業も実働部隊もそれを嫌がった。見た目の数字が下がるのを。
となるとあとはクエスト予算に直結しない販管費でどうにかするしかない。
所属する経営管理本部総務部業務課運送二係の予算を使えないか聞いた。
「あのお係長、馬1頭を5日借りたいんですけど」
「馬鹿かお前、経費削減言われてるの忘れたのか」
壁に貼られている「節約」のポスターをバンバンと叩かれた。
やっぱり通らないかあ。
あとはもうお金を使わずにやるしかない。
運送二係の自転車を借りて荷物を荷台にのせた。
最後困ったらこれだ。仕事があってもなくてもかかる人件費で処理。
つまり僕のことだけどこれなら追加コストは発生しない。
僕、ミケル・ペレスの仕事はクエストの運送業務の手配。
そして予算で見切れない分を自分で運ぶことだった。
+ + + + +
「なあうちの自転車パンクしてんだけど」
SS級のオーガ退治クエストを成功させてペレスが帰ってきた翌日。
同じ運送二係のメンディがぶつぶつ言っていた。
「荷台もなんか錆びててちょっと曲がってるしさあ」
「ほんとだー誰これ最後に使ったわけ」
自転車は元々ボロかった。それを重荷をのせて5日も使ったのだ。
かなり傷んでしまったのはしかたがないことだった。
「これはもう修理も無理だな。ペレス、お前買い換えておけ」
「へ?でも予算きついんじゃ・・・」
係長に言われてペレスは言った。
係長は何言ってるんだこいつという顔で言った。
「自腹に決まってんだろ。その自転車はお前にやるからさ」
「きゃー係長やっさしー。備品壊したのに懲戒処分にしないんだー」
ペレスは仕方がなく自転車を買ってきた。
壊れた自転車は有償で処分してもらった。