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10話 前所属ギルドの日常

準強豪ギルド「ビルバオ」では今日もクエストをこなしていた。

剣士のベンゼムと魔術師のドンナルマが話している。


「この前の決算修正って何だったんだ?」

「前年度経費を当年度につけていたんだよ。それで去年の経常下がった。

あーあ、おかげでボーナスも4万円ぐらい減ったぜ」


実際のところ末端の担当者が動かせる程度の額でそんな大ごとにはならないのだが、まあそういうことにしてほしい。


「それより運送二係に入った新人、評判いいじゃねえか」

「そりゃあ前がアレだし並のが入れば好評だろうぜ」


ミケル・ペレスが懲戒解雇処分になり、その穴は新人で埋めた。

第二新卒で入ってきた随分若い男だった。


「前職は工場勤務だったそうだ。給料下がっても事務職がよかったんだとさ」

「まあわかるなー。俺ら給料悪くねーけど休み少ねえし不定休だし。土日休みの内勤はあこがれるぜ」


ドンナルマが言った。クエストの間に休んでいるが年休は90日ちょっとだ。

内勤なら120日に年間最大20日の有給休暇も取れる。うらやましい。


そんなわけで転職サイトをときどき覗いていた。

でも自分の経歴だと同じような仕事かせいぜい営業職しかなかった。


「おまえはずっとここで働くのか?ベンゼム」

「50歳まではここで稼いで、あとは地元に帰るつもりだ」


ベンゼムの父親は田舎で雑貨屋を営んでいた。

いまどき大して客も入らないが年寄り相手には意外と需要がある。


こまごましたものの注文を受けてそれを家まで運送してやるのだ。

店にこなくても電話一本で何でも買えるので結構重宝されていた。


「体力には自信あるからな。50歳までに4000万貯めて家業を継げば何とか食っていけるだろ」

「おまえ脳筋のわりにちゃんと考えてるのな」


俺もそろそろ将来のこと考えなきゃならねーな。

ドンナルマはそう思った。


+  +  +  +  +


運送二係に入った新人のペレイラは今日も運送手配をしていた。

決められた単価で発注するだけの単純作業だった。


利益が出ることもあれば予算が足りなくなることもある。

そういうときは上司の係長に相談した。


「予算ないので自転車で運んできましょうか」

「そっちの日帰りクエストはそうしろ。こっちのは増額申請を出してもらう」


そう言ってクエストの部隊長に電話をかける係長。

相手は難色を示していたが二分ほどで折れてくれた。


「ありがとうございます係長」

「構わん。それより最近自転車の事故が多い。ブレーキの点検をしておけ」


荷物を載せた自転車は止まりきるまでに時間がかかる。

ペレイラはさっそく二係所有の自転車を見に行った。


「前任が急にいなくなってどうなるかと思ったけど何もなかったですね。今度の新人くんはよく働くし」


同じ二係の事務員ジーニャの言葉に係長は頷いた。


「解雇されて一週間はバタついたが後は特に何もなかったな。むしろいい新人を採用できて助かった」


そこでジーニャが言った。


「そういえば月末に産廃処理したいんですけど去年使った業者の電話番号わかります?」

「担当した奴に聞けば・・・ちっ、そうかあいつか」


急な解雇だったので引継ぎもなにもしていない。

そのせいで業者の連絡先がわからないことがあった。


実は超すごい敏腕企業戦士ペレスを間抜けにも追放なんてしてしまったことでビルバオはすさまじく苦労していた。

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