君とお約束展開な恋がしたい〜幼なじみで家が隣なんだからこれはもうきっと運命だよね?〜
気づいた時にはもう恋だとか、出会えたことが運命だとかよく言ったもので。実に上手いこと言ってくれている。
私、天川なつき の言いたいことを代弁してくれている。
「運命なんだよ、私たち」
そう、何度でも言おう。私たちは運命だと。幼なじみで家がとなり同士。昔から家族ぐるみの付き合いがある横坂みらいを呼び出して、私はこう告げた。
「私とお約束展開な恋をしよう、みらい!」
「いや、ないから」
私の少女マンガのような憂いた告白に対してみらいはバッサリと切り捨てた。
眼鏡の奥に見える瞳は冷め切って。
「何よお約束展開って。家がとなりなのはあんたが小さいころ私の家と近くがいいーってぐずったからでしょうが」
「わーわー! そんな昔の話いいでしょ!」
「いや、けっこう大それたことでしょ」
違う。私の求めていたのはここから私の気持ちに気付いたみらいが私を意識していく展開だったのに。冷めきった視線に1ミリも期待できそうにない。
「だいたい私は忙しいの。本読んでるのあんたのくだらない茶番に付き合う気はないのよ、なつき」
「茶番じゃないよ私は真剣にだなー」
「……真剣に、なに」
「お約束展開したい」
「散って」
うわつめた。なんでそゆこと言うかな。これってけっこう純愛だと思うんだけど。みらいは受け入れてくれないらしい。
「またなんかの少女マンガに影響されたわね……私を巻き込まないで」
「で、でもさ みらいだって本読むじゃん?そんな恋愛したくない?」
「もしかしてあなた、そんな理由で私と同じ高校に?」
「あ、それは違うけど」
正直に言ったら頭を軽くはたかれた。だって高校はたまたま一緒だなんて運命としか言いようがないでしょう。
「動機が最低すぎるって言ってるのよ。口説く気あるの?」
「もち!」
だってみらい、可愛いし?あと、頭もいいし面倒見もいい。と思う。
「まったくときめかなすぎて怖いわ」
「強情だなぁ。好きだよ?」
「伝わるかぁ!」
「ぅぐふ!」
うおぉ、みらいは恐妻になりますか。鬼嫁コンテストとかあるらしいし、でてみようか。
「誰が妻よ!」
「なに怒ってんのさもう」
「あんたのデリカシーがなさすぎるからよ!」
「えぇ‥‥」
じゃあ何にデリカシーがいるの?聞いてみれば今度は黙ってしまった。
「なつき、なんで私と付き合いたいの」
「お約束展開な「もういいわ」」
いやいや、聞いたなら最後まで聞いていってよ。私のほのかな夢ってやつを。
幼なじみだからこそ知っていること、知らないことがある悔しさ、よくわからない嫉妬を乗り越えて結ばれるのがいんじゃないか。
「展開とかじゃなくて、ちゃんと私のことを考えて」
ーあんたが好きなのは私じゃなくてマンガのような展開でしょう?
そう言われて頭にハテナが浮かぶ。
「え、みらいのこと考えてると思うけど」
「考えてない」
えぇ。
そうなのかな、というか。
「考えたら、付き合ってくれるの?」
「‥‥」
「ねぇってば」
「私がなんでなつきと一緒にいるのか考えて」
「家が近いからでしょ?」
「だけだったら高校まで一緒にしない」
高校?だって高校はたまたま一緒になっただけだって言って……
「分からないならいい」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」
それって何を言いたいの?良い方に受け止めちゃっていいの?
ーー自惚れちゃって、いいの?
「ねぇ、みらい」
立ち去ろうとする手をぐっと掴んで問いかける。下を向かれちゃって顔が見えないのがもどかしい。きっと、可愛い顔してる。
「言ってくれなかったじゃない」
「何を?」
「‥‥って」
「え?」
「~~~! だから、好きって! 言ってくれなかったじゃない! ちゃんと私の目を見て‼︎
ふざけたように好きって言われるのなんてやなの!」
お、おう。ゼーハーと息を荒くするみらいに、ずっと我慢させちゃってたのかななんて罪悪感を感じる。
でもそれは、みらいはきっと知らないからだ。
「私はずっとみらいが好きだったよ!そんなの決まってるじゃん!だから、伝わってるって……おもっ、て」
あれ。何これすっごい恥ずかしい……。目を見て真剣に好きって言うことが、こんなに恥ずかしいなんて。
「なつ、き」
「えっと……」
お互いに固まってしまう。みらいのこと、いつも考えてるし、みらいと歩む人生しか見てこなかったんだ。考えれば考えるほど私にはみらいしか見えてなくて。「好き」と伝えることをいつのまにか忘れてしまっていた。
「好きだよ、みらい。きっと幼なじみじゃなくたって、私にはみらいしか見えてなかった」
「も、いい」
「みらいの見せてくれた世界が私の全部なんだよ。好き、みらいのこと、すっごい好き」
「もう、うるさ……」
「ねぇ、その可愛い顔。期待してもいい?」
うつむかないで、ちゃんと見せて。みらいの耳を撫でると火傷しそうなくらいに熱くて。そのまま眼鏡を外せば、その目は何かを訴えるように濡れていた。
「私はみらいが好きだよ」
言ってくれなきゃ分かんない。返事を急かすように頬を撫でると肩がピクリと揺れる。こんなに可愛いなんて反則だ。
「ね、聞きたい」
「くすぐった……」
「教えて? みらい」
「…………私もなつきが、好き……よ」
よくできました。
後で子供扱いするなとかいろいろ怒られそうだけど、今日のところは許してもらおう。
顔を真っ赤にしてうつむくみらいの顎をそっと持ち上げて。
「好きだよみらい」
その唇へキスをした。
愛の言葉が欲しいなら、何度だって言ってあげるから。
もう泣かないで、お姫さま。
そんなことを考えながら、まだ少し震えてる大好きな人をそっと抱きしめた。