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ウニとキュンキュン

 次の日、晃太はエレナと目が合うと、プイと目を逸らしてそっぽを向いた。向いた先では上履きを隠した女子達がクスクスとエレナを後ろ指指して笑っている。


 晃太はそれを見て怒りが沸いてきた。その女子達も自分と同じ『金持ちのくせに……』と思っているに違いないと思い、やるせない怒りが止め処なく押し寄せ溢れ出した!!


「お前ら!!」


 突然の怒号に静まり返るクラス。そして怒りの表情を向けられた女子は怯えていた。だが俊介だけは意に介する事無く静かに勉強に勤しんでいた。


 ―――バギッ!!


 言葉よりも早く晃太の拳が女子の頬を殴りつけた!


「キャアアア!!!!」


 衝撃で机と共に倒れ動かない女子。周りは突然の事に固まったまま動けない。


「どこに隠したんだ!!」


 もう一人別な女子に詰め寄る晃太。女子は眼に涙を浮かべ首を横に振り続ける。


「やめて……! 私は知らないの……!!」


「どこだ!!!!」


 最後の女子に詰め寄ると泣きながら校舎の裏と白状し、晃太は一目散に校舎裏へと向かった。



「どこだ……」


「どこだどこだ……」


「無い無い無い無い!」


 独り校舎裏を探し回る晃太。なりふり構わぬその姿は土に塗れあちこち蚊に刺されていた。


「あった!!」


 ようやく見つけた片方を手に取ると、向こう側から俊介がもう片方を持って晃太へと近付いてくる。


「あったよ……」


 差し出されたもう片方を奪い取る様に受け取ると、晃太は無言でその場を後にした。手洗い場で上履きを洗い、振り回して水気を飛ばす。まだビチョビチョだが滴る水は無くなった。



 騒然たるクラスへと戻ると、晃太はエレナの前へ歩み寄り上履きを差し出した。


「ん!」


 それを恐る恐る受け取るエレナ。


「また無くなったら俺に言え」


 エレナはその言葉を聞いてほろりと静かに涙を零した。


「―――え!? な、何で泣くんだよ!!」


 ―――バタバタバタバタ!!


 そこへ騒ぎを聞きつけた先生が慌てて教室へと入ってきた。


「何事!? 大丈夫!?」


 倒れ泣き崩れる女子の安否を気遣い保健室へと連れて行く先生。そして直ぐに戻ってくると、笑顔で晃太を呼び出した。晃太はエレナの涙の理由に困惑しながらも黙って先生の後に続いた。その日、晃太がクラスに戻ることは無かった……。




  ―――コンコン


 夕陽が沈み夜が世界を支配する直前、ようやく解放された晃太はエレナの家へと訪れていた。スカスカの扉を開け、エレナが恐る恐る顔を出した。


「よ」


 その顔は酷く腫れ上がっており、あまりの恐ろしさにエレナは顔をすくめたが、すぐに晃太と分かって家へと招き入れた。


「親は居ねぇのか?」


「お母さんは昔死んで……お父さんは出稼ぎの仕事。私はいつも独り」


「……そ、そうか」


 バツが悪そうに目を背ける晃太。エレナはそんな晃太の顔を心配そうに見つめた。


「これか? 先生とカーチャンとトーチャンからボコスカリンチを喰らっちまったよ。「女子を殴るとは何事か!!」ってよ……」


 晃太はそれ以上深く語らなかったが、先生からは「よくエレナを守ってくれたね」と勇気ある行動を賞賛され、父親からは「男は女を守ってなんぼよ!ガハハッ!」と男気を褒められていた。



「大丈夫だったか……?」


 晃太の問い掛けに、エレナは小さく頷いた。


「よし! それじゃあ腹も減ったし飯でも調達しに行くか!」


 晃太は立ち上がりエレナの顔を見た。エレナは不思議そうな顔をしている。


「どうせ飯もろくに食ってねぇんだろ? タダで旨ぇ物食えるとこあっからよ、行こうぜ!?」


 エレナを手招きし、こっそりと道路を離れ獣道を突き進む二人。着いた先には大きなプールの様な施設があった。晃太はフェンスを器用によじ登ると、ストンと着地し水辺へと駆けた。


「そこで待ってろよ。今採ってくる」


「?」


 フェンスに立て掛けられた網のような物で水の中をジャブジャブと攫うと、そこには黒いトゲトゲしい物体が幾つか入っており、晃太はそれを服にくるんで再びフェンスをよじ登った。


「――っと!」


 エレナの隣に着地すると、無言で手招きしその場からそそくさと立ち去る晃太。獣道へと戻ると今度は別な道を進み小さな窪みへと辿り着いた。


「へへへ♪」


 黒いトゲトゲしい物体を取り出し、窪みに置いてあった錆びたスプーンとフォークで器用に殻を割り始める晃太。その不思議な物体をエレナはまじまじと見つめていた。


「ほれ、採れたてのウニだ。旨ぇぞ」


「……ウニ?」


 エレナは首を傾げながら殻の割れたウニを両手で受け取った。晃太は窪みから魚の形をした小さなプラスチックの醤油差しを取り出すと、エレナのウニへと醤油を垂らした。


「初めて……」


「そうかそうか! ヒヒ、食って驚くなよ?」


 錆びたスプーンでウニをほじくり、恐る恐る口へと運んだエレナの顔は、見る見るうちに笑顔へと変わった!


「溶け……ちゃった!」


「だろ? だろ?」


 エレナはウニを次々と頬張り口の中の幸せを噛み締めた。気が付けば採ってきた殆どのウニをエレナが食べてしまい、晃太はそれをニコニコと眺めていたのだった―――






「懐かしいな……」


 何杯目のビールか分からない程に飲んだ晃太は頬杖をつき里子を眺めた。


「その後俊介君のお父さんに見付かって酷く怒られたんだっけ?」


「ああ。トーチャンとカーチャンにもボコスカリンチされたよ」


晃太はそれ以上深く語らなかったが、母親からは「腹が減ってるならウチへ連れてきな!」と言われ、父親からは「男は女を食わしてなんぼよ!ガハハハハッ!」と男気を褒められていた。


 それ以降晃太の家でお世話になることが増えたエレナは、公認の仲となり、恋仲に陥るのに時間は掛からず、成人を迎えた後すぐに二人の絆を授かっていた。



「先代には悪いことをしたなぁ……」


「全くだ。俺の家のウニ養殖が思うように進まなかったのはお前がちょくちょく食ってたお陰だからな」


「悪かったよ社長……」


「ここでは『社長』と呼ぶな。酒が不味くなるだろう」


「へへ、違えねぇ……!!」



 罪滅ぼしと言わんばかりに高校卒業後、俊介の父親が営んでいたウニ養殖の会社へと就職した晃太。そして俊介の父親が他界すると、俊介は後を継いで社長へと就任した。役職は違えど二人は今でもこうしてたまに飲みに出掛けている。


「全く悪ガキの世話ばかりで婚期を逃した私の責任は、誰が取ってくれるのかしら?」


 ニヤニヤと二人を見つめる里子。


「……先生さえ良ければ、俺と…………」

「ブッ! 俊介正気か!?」


 そんな里子()()の笑顔に、二人はいつまでも懐かしい気分に浸っていた―――

読んで頂きましてありがとう御座いました!


『インド人とウニ企画』とても楽しく参加させて頂きました。私個人としても一つの企画でここまで書いたのは初めてでございます。それ程までに不思議な面白さに満ちておりました。


企画主の伊賀海栗さん。

素晴らしい挿絵を描いて下さった雨音AKIRAさん。

そして楽しさを分かち合った皆様方に熱く厚く暑く御礼をぶっこみ申し上げます!

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